以前のこのブログで、食道がん手術の後、吻合部が離開して、線維性狭窄をきたした症例を2例 紹介した。
http://tabuchimasafumi.doorblog.jp/tag/%E9%9B%A3%E6%B2%BB%E6%80%A7%E9%A3%9F%E9%81%93%E7%99%8C 後輩が勤務する大病院で手術したあと、胃と頚部食道の吻合部がかい離、線維性狭窄をきたした2例である。
  
 バルーン治療でも一切治らず、食事がまったくできなくなってIVH管理。再手術など癒着が厳しくてとてもできない。すっかり困り果て、後輩は、私なら何とかしてくれるのではないかということで2人の患者を送り込んできた。1人は6cm、1人は2cmの完全線維化狭窄。私の得意の内視鏡で何とかならないかというわけだ。

 ともに、周囲の大動脈などの重要血管に当たらないように注意深く、APCで食道トンネルをほった。そして、カバーステントを留置して、なんとか治療に成功。ふたりとも、飲めもするし食べることもできるようになった。2人とも多いに感謝してくれた。(ここらあたりまでは、以前のブログに書いた。)


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2回目に駆け込んできたときの深夜の緊急内視鏡像。狭窄部は直径約1mm-1.5mmで水もほとんど飲めない状態。



 しかし、吻合部狭窄を起こすのは血流が十分回復して来ないことが主因と言われている。バルーンで十分拡張しても、留置ステントが脱落すればい10日で狭窄となった。しかし、他によい方法が報告されていなかったので、ステント脱落と留置を繰り返しながらも、上皮の張るのを根気強く待った。結果、6cmの方はかなり良くなった。一年弱、ステントなしでも食事が満足に通過するようになったのである。
 
 一方、2cmのほうは、ステントが簡単に落ちてしまうので、上皮がなかなか張ってこず治療が長引いていた。食道狭窄拡張とステント留置を何度も繰り返した。狭窄症状は食べ物が詰まったりすると急激に出現してしてくる。よって、緊急内視鏡検査を実施して、適応ありと判断して深夜の緊急の手術となることが多い。飲めない食べられないとなると、深夜でも、スタッフ集めて緊急内視鏡だ。

 2cmの狭窄だった人は本年4月に、2週間開けて、2度の狭窄発作をおこした。よって深夜に二連のバルーン拡張とステント留置術を行って規定通り約75万円を請求したのであるが、半年経って、昨日レセプト査定内容がかえってきた。深夜加算と2連目の拡張術はすべて認められず、約75万円の請求が50万円の減額処分をうけて約25万円しか認められなかった。がっくり。

 バルーン拡張は一連のものは1回しか請求できないというルールがあるので、それを適応したらしいが、査定には詳しい理由の記載はない。4月の場合は、一度改善して退院。その後再び悪くなっているので、この二つの手術は一連ではない。その辺の事情は請求書に書いたのに・・・・・・。バルーンは、一本12万円前後ステントは10万円ぐらいで、原則使い捨て。スタッフのことを考えると、はっきり赤字だ。

 うちの30年来のスタッフは、「こんなに苦労して、寝る間も削って治しているのに、こんな査定を受けるなんて、とんでもないわ、もうやってられない」と怒り心頭に達している。

「「詰まった。飲めない・食べれない。」と患者が駆け込んできても、もう、うちでは治せないと治療拒否しましょう。」

 彼女がいなくなると私も1人では内視鏡ができないので、「まあまあ」となだめているが、経済的にも精神的にも医療崩壊だ。国保の査定の先生の責任は重大だ。

 国保の審査委員に皆さん、担当者が目黒区医師会の方か、東京都本部の方かどなたかは存じ上げませんが、現場で必死で頑張っている医療スタッフの足を引っ張らないでください。

 ところで、ちなみに、今年の5月アメリカのDDWで、食道がん術後の難治性の食道狭窄の治療のセッションに参加。全世界でこの問題に直面している医師が集まっての会合た。ディスカッションの中で、ステント留置の秘法を聞いてきた。6月にその方法を行って以来、2cmの方のステントは簡単に落ちなくなった

 食道がん術後の難治性の食道狭窄にお困りの方は、保険の適否は別として、治せるかもしれませんので、ご相談ください。

 (学会参加の旅行がまるで紀行文みたいという影の声がありましたが、学会にもちゃんと出ていますよ、タケシさん)