今日の日本では、慢性胃炎の根本療法も、食道癌の有効な早期発見も、大腸がんの完全な予防も、慢性肝炎の根本治療も、できるようで、できない現実がある。薬や治療法は表向き認められているが、実際に使用してみると、保険医療ではさまざまな制約があって、審査の過程で認められたり、認められなかったりする。


 認否の基準は、保険組合(保険者)の経済状況によるのである。保険者と社会保険審査機構は表向き、医療機関と保険者に対して公平でなければならないとされているが、実際には、天下りなどで強く癒着していて、社会保険審査機構は、保険者に向いている。


 認められなかったときの薬代やサービスの費用は、保険医療機関の丸っきりの赤字となる。したがって、保険医療機関では、経済的に、治療を自粛せざるをえない現実がある。個人経営ではまだしも、地方自治体の保険医療機関では、赤字の病院は廃止という政治的な流れのなかで、治療はますます自粛される。

 このような社会的圧力のある医療の現場では、患者に対して、科学的な真実は語られず、都合のよい詭弁が語られる。したがって、医師は、研究して、勉強しているものほど、あほらしくなってくる。

 

 また、今の日本には、医師自身、経済的にも、法律的にも、安心して患者を治療をできない現実がある。病院の社会保険診療報酬は、医師の技術で決まるわけでなく、看護師の数で決まる。どんな新米の看護師でも数だけが評価されるシステムだ。それだけでも、難しい技術を磨いて患者を助けてきた医師のプライドは傷つくのだが、ときに、最新の治療技術を駆使すれば、過剰医療とののしられ、患者を救おうと思って難しい手術に挑んで、失敗すると、「医療事故」といってくれるうちはマシで、時に、業務上過失致死傷として、牢獄に入れられる。これでは、外科系(消化管外科、呼吸器外科、循環器外科、産婦人科、泌尿器科、・・・)の先生の手術は萎縮せざるを得まい。助かるかもしれない症例でも、外科系の先生は、手術をしないことになる。それをみて、外科系になる新米の医師が減るのも当たり前のことだ。そして、社会保険医療は崩壊する。

 

 社会保険医療崩壊の原因は、日本経済の停滞(保険者の貧困化)と、社会保険制度の問題(厚生行政の誤り)にある。その奥深くには、日本の人々の意識に本質的な問題があるのだが・・・。

 

 民主党に、この問題が解決できるであろうか? たとえば、レントゲン技師組合や、官公庁の労働組合のように、労働組合はたいてい保守的で、自らの改革を否定して、自分だけの利益のために、大義を忘れて、新たな技術の導入に抵抗する。


 選挙前の演説では、小沢党首の口からは医療崩壊という単語は一言も聞かれなかったような気がする。そう、考えると民主党に医療崩壊を防げるか、大いに疑問だ・・・・。

 

 しかし、「生活第一」というなら、生活を脅かす、医療崩壊を無視できないはずだ。民主党の今後に期待したい。