たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

胃癌

2016年を振り返って 医学医療編 進行胃がん(MP)の内視鏡治療に成功

 今年一年を振り返ると、医学医療の分野では、今年も「がん」と闘った一年だった。内視鏡による普通のポリープ切除以外にも、EMRやESD、その他FTR(消化管全層切除術)を行った。緊急出血の止血や、異物除去、術後狭窄の拡張、ステント挿入なども行った。他の医療機関では治療出来ないといわれて紹介されてきた難しい症例もあり、ぎりぎりの内視鏡手術を行ったこともあったが、なんとか重篤な合併症を起こさずに、患者さんを救い続けられたことを神様に感謝したい。
 なかでもとりわけ、今年もっとも印象的だったのは、MP(固有筋層)まで浸潤した胃癌を内視鏡で治療した症例だ。姑息的内視鏡治療が奏効したのである。ちょうど、京都3区の衆議院議員補選、選挙運動開始の直前だったので、なおさら、印象深い。
 症例は、70歳代の男性で、他に重篤な疾患があり、本来なら、開腹手術するところだったが、それができない。しかし、癌からは血がにじみ出続けていて、貧血が進行している。なんとかしなければならない。幸い、PETとEUSで転移がなさそうだったので、迷った挙句、ESD+αで進行癌の内視鏡的局所切除を試みて、幸いにも成功した。

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治療前

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治療後6カ月

 進行胃がんを内視鏡で治療することなど、原則適応外であるが、本例のような合併症がある症例については、サルベージ治療の選択肢の一つとして、ありうると考える。
 今年9月の東大医学部の同期会で、ある同期生が「がん撲滅」なんて出来るわけがないと言った。確かに、ある意味その通りであるが、今の科学技術を適用すれば減らすことはできる。本例もピロリ菌陽性、10年前にピロリ菌を退治していれば、こんな苦労はしなかったでしょう。
 来年も、自分やスタッフの健康に留意して、最先端の科学技術を情熱をもって提供し続けたい。

ところで、今年の中盤から、地方自治体が運営する国民保険の査定が尋常でなく、大変厳しいものになっている。赤字であるからといって、調べもせずに医学的不適当ということで無茶な査定を続けるのは、法の支配する国の公的機関の所業としては大変遺憾なものである。おおいに懸念している。(ちなみに会社が運営する社会保険の査定は変わっていない)
 


胃癌のリスクを劇的に減らす方法

胃癌のリスクを劇的に減らす方法

<副題 バリウム検診に代わる胃癌撲滅の最新理論と技術>


田淵正文


 近年の日本では、胃がんの発生数は減少してきたとは言え、以前、多くのお方が胃癌でお亡くなりになっている。先日もNさんという53才の女性が胃の痛みで、来院された。上部内視鏡とエコー検査で転移をともなう進行胃癌と判明。手を尽くす暇も体力もなく、わずか3カ月であっという間にお亡くなりになった。内視鏡で見ると、Nさんの胃にはピロリ菌がうようよしていた。ピロリ菌が胃がんの原因と分かった今でも、ピロリ菌退治の体制確立が遅れている。そのため、このような悲劇が毎日約150人、日本の各所で起こっていると思うと、おもわず、涙が出てくる。

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 胃癌のリスクを劇的に減らす方法が開発されている。それは、ピロリ菌退治だ。ピロリ菌退治をすると、退治して3年以上たつと、胃癌の発生率が約8割も減少するという臨床実験結果が、10数年前から全国の多数の研究施設から報告されているのだ。一方、ピロリ菌に一度も感染したことがない人には胃癌が発生しないという衝撃的な研究結果も複数の施設から報告されている。日本全国で毎年約5万人~5万5千人の死亡者がでる胃癌、その罹患者数を激減させる道筋が明らかになってきた。


 さて、ピロリ菌とは何か?どういう生態なのか?


ピロリ菌は胃の中で繁殖する細菌である。胃の中というと、胃酸がある。胃は塩酸を分泌し。その酸の濃度はPH1~2ときわめて強酸である。したがって、胃の中ではどんな細菌も死滅するだろうと考えられてきた。事実、大腸菌、ビフィズス菌など、ほとんどの細菌は、強酸の分泌する胃のなかで生きてはいけない。


ところが、1983年、胃の中で繁殖し、胃炎を引き起こす細菌がオーストラリアで発見された。発見者はマーシャル先生とウォーレン先生(後の2005年この功績でお二人はノーベル賞を受賞)。胃の出口のことを、ラテン語でピロリということから、この細菌は「ピロリ菌」と命名された。調べてみると、このピロリ菌、ウレアーゼという酵素を持っていて自らアンモニアを産生して、胃酸を中和するという特殊能力をもっていた。そのため、強酸の胃の中で生きて繁殖していけるのだ。逆に、酸性の環境以外では、自ら産生するアンモニアのため、繁殖できない。生物にとって、アンモニアは猛毒だからだ。


ピロリ菌の生態や感染経路は、どうなっているのか?胃の中で繁殖したピロリ菌は、消化管の動きに沿って、便の中に出てくる。注意深く観察すると、ピロリ菌は酸のないところでは、栄養型の竹トンボのような形から、球形のコッコイド型に変態する。調べてみると、このコッコイド型のピロリ菌は増殖せず、じっとしていて、半永久的に感染力を持っていた。いわば、ピロリ菌の卵状態であった。


日本では人糞を長年肥料として土にばらまいてきた歴史がある。つまり、日本の土の中には、卵状態のピロリ菌がいる。この卵状態のピロリ菌が何かの拍子に間違えて口から胃に入ると、人はピロリ菌に感染するのだ。ピロリ菌の感染源は土である。


意識的に土を食べる人はいない。だが、土と接するハエやゴキブリのからだの表面には、ピロリ菌が証明されている。だから、ハエやゴキブリが触れた食材を知らず知らずに食べるとピロリ菌に感染する。土のついた野菜などの食材をそのまま口にすると、これまた、ピロリ菌に感染する。土と接する井戸水などもあやしい。ただ、ありがたいことに、このピロリ菌、熱に弱く煮沸すると感染力はなくなる。

ピロリ菌がガンを引き起こすメカニズムの解明も進んでいる。ピロリ菌の持続性の感染により、慢性胃炎がおこり、炎症の持続によって、胃の細胞に遺伝子異常が蓄積されて、ガンが発生しやすくなる。さらに、ピロリ菌には、D因子という膜に孔をあける4量体の蛋白を合成する遺伝子があり、この遺伝子のコピー数が多いピロリ菌ほど、がんを惹起させることも報告されている。

今、このピロリ菌にどのくらいの人が感染しているのか?ピロリ菌の感染率は年代によってちがう。土に接触する機会の多かったお年寄りの方ほど、感染率は高い。おおざっぱにいって、年齢マイナス10%くらいの感染率だ。たとえば、30歳なら20%ぐらい、40歳なら30%ぐらい、50歳なら40%ぐらいだ。

では、ピロリ菌に感染しているのかいないのか、どうやって調べるのか?血液テスト、便テスト、呼気テスト、内視鏡検査などで診断できる。2013年2月からは、内視鏡検査で陽性と認められた場合、社会保険でピロリ菌退治もできるようになったので、治療も考えれば、現時点では、内視鏡検査が妥当かもしれない。

それでは、ピロリ菌、どうやって退治するか? PPIという胃酸を強力に抑制する薬と酸の環境でも活性のある抗生剤2種類を1週間飲むことで、ピロリ菌は約90%除菌できる。それで、退治できない人でも、別の抗生剤の組み合わせで、ほとんどが退治できる。しかし、先に述べたように、ピロリ菌のいる食材を食べていると、すぐに再感染するので、見掛け上なかなか退治できないので、要注意だ。

現段階では、よく勉強して最新知識をもっている、内視鏡検査の上手な消化器内科の先生に相談してみるのが、ピロリ菌退治の最短コースだ。


さて、一方、現行の胃癌検診といえばバリウム検査だ。実は、このバリウム検診、1994年にWHOが全世界に向けて「禁止勧告」を出していて、現況では、胃癌のバリウム検診は、日本以外では1カ国も実施されていない。それは、放射線被曝により受診者の約2%に遅発性のがんが発生するからである。現に、この検査をずっと続けているわが国では、近年、悪性リンパ腫などの血液系のがん発生数は、ウナギ登りで、40年前は年間7500人程度であったものが、今や年間約4万人と激増しているのである。

1994年、WHOは「人口の約8%前後が胃癌に罹患する日本では、かりに2%ぐらいの人が遅発性に発癌したとしても、他に方法がない現状では、日本に限り、バリウム検診は容認される。」としていた。

しかし、「ピロリ菌退治をすると、胃癌の発生率が約8割減少」し、「ピロリ菌に一度も感染したことがない人には胃癌が発生しない」という研究結果が医学界の常識となった現在、WHOの勧告は一層重いものとなっている。もはや、従来のごとく、バリウム検診が続くとは考えられない。現行の胃癌のバリウム検診体制は早晩廃止され、ピロリ菌除菌を中心とした検診予防体制が確立されるであろう。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな胃がんの内視鏡的切除(ESD)に成功!

 7月に福島県から71歳の胃がん患者が来た。地元の医療機関では胃癌病変が大きく、内視鏡では取りきれないと判断されて、開腹手術を勧められた。しかし「どうしてもおなかは開けたくない。胃は取りたくない。」といって、知り合いのつてで、中目黒消化器クリニックの評判をきいて、受診してきた。内視鏡検査と超音波内視鏡検査をした結果、病変は胃体部にあり、直径約12-13cm、2か所潰瘍があって、その箇所でsm層は淡くて不明瞭。広汎Ⅱb+Ⅱc+Ⅲ、mmとmpが面を形成してひっついている。大きさ深さともにESDの適応かどうかは微妙であった。CT-PETでは遠隔転移も、所属リンパ節の腫れも認められなかった。

 「病変が大変大きいので、一回のESD手術では取りきれない可能性が強いです。4-5回の内視鏡手術が必要かもしれません。また、病変の一部に深そうに見えるところがあるので、その部分がうまくはがせるかどうか、技術的にはかなり困難そうです。また仮に内視鏡的には取りきれても、癌の脈管浸潤などの遠隔転移やリンパ管転移の兆候が組織標本にあれば、追加で胃切除が必要です。また、これだけ大きいとESDのときに、穿孔もありえて、その場合は東大病院に緊急で引き受けてもらいます。(瀬戸教授に事前連絡)、それでよろしければ、同意書にサインしてください。」

 厳しい説明にもかかわらず、患者はすらすらと同意書にサイン。

 8月末から内視鏡によるminimum invasive な治療が始まった。ESD手術は延べ4回、延べ17時間かかった。潰瘍のあるⅢの治癒過程の部分、すなわちmmとpmのついている部分はフックナイフで綺麗に剥がれた。激しい出血や一時的な穿孔による腹膜炎も起こしたが、ともに内視鏡的な処置で乗り切って、なんとか病変は取りきれた。また、術後の合併症はこれだけの大きさであるから、予想通り何回が下血があった。そのたびに夜中でも緊急止血処置。文字通り、大変な症例であった。
 開腹手術では、3時間ぐらいで終わるようなものであるが、胃を切除すれば、おいしいご飯もこれまでのようには食べられない。術後のQOL(quality of lif)を考えると、17時間の粘りと深夜の出血との戦いは決して無駄ではない。(ついでに、文字通り寝食を忘れて治療していたので、患者ばかりでなく、術者の私も3kgほど痩せた。)
 病理標本の結果は、癌は粘膜内にとどまり、切除後潰瘍の辺縁からの組織検査でも癌は出てこなかった。
つまりは、うまくいったらしいのである。(分割切除であるから、組織標本の価値が少し低いため、らしいという判断)
 さて、現行の保険診療の手術点数規定によれば、何回もの内視鏡手術に比べて一回の開腹手術のほうが安上がりである。保険医診療担当心得の中には、病気はできるだけ安く治すようにと書いている。だから、保険医なら、開腹手術を選ぶべきであったと判断して、今回のような治療内容を過剰医療や保険適応外ときめつけ、診療報酬を与えないとする考え方がある。   

 しかし、本当に過剰医療や保険適応外であろうか?

 開腹手術は内視鏡手術とは違って、月日がたつと一定の割合で術後のイレウスを起こす。何回も入院を繰り返す症例が少なからずある。したがって、「開腹手術が数度の内視鏡治療に対して安い」と本当にいえるかどうか疑問である。また、そもそも、術後に思うようにおいしいご飯を食べられなくなるのは、それを克服する内視鏡治療がある現状を考慮したとき、「開腹手術が病気をほんとうに治したかどうか?」の疑問もある。審査担当の先生方は不当な保険診療とレッテルを張る前に、このあたりの事情をよくよく考慮していただきたい。

ピロリ菌の感染ルートは?

9月3日に市村正親さんの胃がん手術からの復帰会見をうけて、胃がんの予防についてテレビで説明してきましたのは前にも述べたとおりです。その後、見逃してしまったという声が寄せられましたので、先週して非公開の形でyoutubeにアップしました。これまで3000例を越える症例をピロリ菌退治してきましたが、とくに感染ルートについては、なるほどといえる目新しいものです。是非ご覧ください。 http://youtu.be/HCiwBPvDynM 

テレ朝のワイドスクランブルに出演。市村正親さんの胃がんからの復帰会見をうけて、胃がんの予防策について語る。

 今年の日本では、年間13万ないし14万人くらいが胃がんに罹患して、約5万ないし5万5千人が胃がんでお亡くなりになっている。昨日6月3日、有名な俳優、市村正親さん65(篠原涼子さん41のご主人)が胃がん手術からの復帰会見にあたり、胃がんの予防について、話をしてほしいということで、テレ朝のワイドスクランブル(生番組)で胃がん予防の説明をしてきた。キャスタは橋本大二郎さんと局アナの大下さん、秦さん、川村さん。
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 ポイントは、胃がんの原因はピロリ菌であり、ピロリ菌に感染している人は、人生で約12%の確率で胃がんが発生、ピロリ菌に感染していない、もしくは感染したこともない人は、胃がんがほとんど発生しない(0.5%未満)。したがって、ピロリ菌に感染しないことが胃がん予防の決め手。日本人のピロリ菌罹患率は、大まかに言って、(年齢-10)%。
 また、ピロリ菌に感染している人も、ピロリ菌を退治すると、退治して3年後から、胃がんの発生率が、5分の1にへります。ちなみに、お酒を飲んでいるきは3分の1、飲まない時は、10分の1くらいです。ピロリ菌を退治することが、一昨年から健康保険で認められました。
 ピロリ菌は、便の中に出てくると、コッコイド型という形に変形して、半永久的にじっとしています。つまり、種のような状態です。これが胃の中に入ると、再び、ヘリコプターのような形の栄養型に変わって、増殖します。ですから、間違えて、土を口に入れないようにすることが、感染予防のポイントです。
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 感染しているかどうかは、呼気や便、血液検査など胃いろんな方法でわかりますが、内視鏡検査をしてピロリ菌が引き起こす慢性胃炎の程度も判定すれば、保険でピロリ菌退治ができる制度となっています。
 ピロリ菌がご心配な方は、最寄りの内視鏡の上手な消化器内科にご相談ください。もちろん、当院でも対応できます。ご予約は03-3714-0422まで。
 

謹賀新年! 去年は、震災・原発事故など大変な一年であったが、今年はどんな年になるのやら。

 西暦2011年、平成23年が終わり、西暦2012年、平成24年を迎えた。2011年は3月の大震災・福島原発事故と戦後最大の天災が起こり、欧州の共同体に発する経済危機 が世界に及んだ、大変な一年であった。個人的にも事故・病気・税務署の横暴・経済不況などなど、月替わりで災厄がめぐってきた。一休和尚の歌うように、「正月は、冥土の旅の、一里塚、めでたくもあり、めでたくもなし」といった心境であるが、いつまでも悪いことは続かないはずであろうから、日々努力を怠らず、健康に注意して過ごし、今年は少しでも良い年にしていきたい。


 私は癌撲滅の理念の下、長年、努力を続けてきた。実際、中目黒消化器クリニックに通院して内視鏡検査をきちんとうけている人たちは、食道癌・胃癌・大腸癌の予防に、完全に成功している。しかし、日本全国で見ると、癌はますます増加して、ここ2-3年は、毎年約55-58万人が癌に罹患し、約33-35万人が癌で死んでいる。癌の一次予防が社会的に、ますます、重要になってきた。癌の発生を減らす方策を実行しなければならない時代が到来している。まずは、今年は、ピロリ菌退治、たばこ禁止、飲酒の抑制、大腸ポリープ切除の徹底、大気汚染抑制、がん関連ウィルスのワクチン投与、放射線被ばくの軽減などの癌発生予防の施策を実行すべき年だ。


 癌の発生が抑制されれば、癌による人々の苦しみが減るのは勿論のこと、癌にかかる医療費も抑制されて、政府の経済的負担も総合的に軽くなるであろう。日本経済にもよい。


2011年11月、富士山と玉を抱えた雲竜。


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児玉清さん(77)、胃癌で死去 

 

長年、テレビの司会などで活躍していた、俳優、児玉清さんが、胃がんのため16日に死去した。2年前から出題を担当してきた加藤明子アナウンサー(35)によると、「11日にお見舞いしたとき、『去年10月に胃カメラをのんでおけばよかったんだよね』とポツリ。ショックが大きくて、あとはちゃんと聞けなかった」とのこと。

 みなさん、胃癌で死なないため、症状がないうちに内視鏡検査を受けましょう。ピロリ菌のチェックも大切です。

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お酒(アルコール)と大腸癌、胃癌、食道癌  

 今は、忘年会シーズンで、お酒を飲む機会も多い。せっかく、おいしくお酒を飲んでるあなたに、冷や水をかけるような野暮な話かもしれませんが、そんなことなら飲むんではなかったと後悔しないように、お酒と癌の関係を少しまとめておきましょう。

 

 大腸癌とお酒の関係については、授業ではあまり言われていないので、関係がないと思っている人も多いと思いますが、実は大ありです。私が昔まとめたデータでは、お酒を毎日5合飲む人は、お酒を全く飲まない人の2倍の大腸がんの発生率がありました。また、ビールを1500ml飲む人は、飲まない人の2倍大腸ポリープが出てきました。また、会社を辞めて、お酒を飲む機会がなくなると、大腸ポリープの発生率が下がります。

 

 胃癌とお酒の関係についても、これまで、あまりはっきりとしたデータがありませんでしたが、2000年代前半ごろから全国の様々な施設から、相次いで、その関係が指摘されました。ピロリ菌を退治すると、退治後3年目から、胃癌の発生率が下がりました。ピロリ菌を退治すると胃癌の発生率が約5分の1まで下がったのです。しかし、面白いことに、その下がり方に男女差がありました。全国のさまざまな施設のデータが、すべて、同じ傾向を示していました。男性の減少率は約3分の1で、女性の減少率は約10分の1だったのです。はじめ、この現象はGENDER MYSTERYと呼ばれましたが、再度、因子分析をしてみると、寄与度の大きなものは、飲酒量だったのです。つまり、ピロリ菌という最大の胃癌の原因がなくなると、次に胃癌の発生に大きく関与していたのは、酒だったのです。お酒を飲むと飲まないでは、約3倍の胃癌の発生率の差があったのでした。

 

 食道癌とお酒の関係については、昔から医学の教科書に載っていますので、関係があることは、みなさんも、よくご存じでしょう。

 

 以上、「アルコールを飲むと大腸癌、胃癌、食道癌、すべて出来やすくなる」ということで、アルコールは、大腸癌、胃癌、食道癌を予防する観点からは飲むべきではありません。みなさんの予想通り、おいしいお酒を飲んでいるあなたに、冷や水をかける話となってしまいました。

 

 ところで、どういうメカニズムで、アルコールは癌の発生を増やすのでしょうか?

 

 食道癌について、お酒の発がんメカニズムが少しわかってきました。お酒(エタノール)は体内で酸化分解されて、アセトアルデヒドになります。ちなみに、この反応をつかさどる酵素をアルコール脱水素酵素といいます。そして、アセトアルデヒドはさらに酸化分解されて、酢酸になります。この反応をつかさどる酵素は、アルデヒド脱水素酵素といいます。エタノールが体内に入って増加するこの3つの化学物質について、詳しく調べてみると、エタノールにも酢酸にも発がん性はなく、発がん性があったのはアセトアルデヒドでした。お酒の本当の悪玉は、アルコールそのものではなく、アルコールが代謝されて発生するアセトアルデヒドだったのです。

 

 一方、アセトアルデヒド脱水素酵素の活性の高い人は低い人よりも食道癌になりにくいということも大規模な疫学調査でわかりました。アルデヒド脱水素酵素の働きを強化しておけば、アセトアルデヒドがすぐに酢酸に代謝されるので、酒も安全ということです。言い換えれば、「アルデヒド脱水素酵素を強化する解毒剤」と一緒にお酒を飲めば、飲酒による癌発生が抑えるられて、おいしいお酒はやっぱりおいしいということになります。

 

 「アルデヒド脱水素酵素を強化する解毒剤」とは何か?この薬がわかれば!というわけですが、

 

 今日は朝早くからずっと働いていたので、もう眠たくなりました。薬の解答は次の機会にしましょう・・・・。

 

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東京は猛暑。胃癌のレントゲン検診について  

 梅雨が明けてから、はや二週間ほど、東京の猛暑は尋常ではない。コンクリートとアスファルトの照り返しとクーラーの室外機からの熱風が強烈で、中目黒周辺の道の昼過ぎから5時ぐらいまでの温度は40度から45度ぐらいまである。クリニックの前の道路とクリニックのガラス窓に打ち水をすると、サーっと乾いていくが、それでも。すっと温度が下がるのがわかる。また、目黒川沿いの桜並木の下は少し温度が低い。

 

カプセル型小腸内視鏡で確認された空腸部の悪性リンパ腫。

この患者さんは若いころから、毎年バリウム造影によるレントゲン検診を受けていた。

 

 さて、話は飛ぶが、胃癌のレントゲン検診は海外ではどこでも行われていないのを、皆さん、ご存知だろうか?WHOが胃癌のレントゲン検診をしてはいけないと勧告しているのである。胃癌のレントゲン検診でX線を浴びて発生する白血病や悪性リンパ腫などの癌の数と、レントゲン検診を行って、早期発見によって助かる胃癌患者の数を比較すると、世界的には、前者が後者を上回るため、レントゲン検診を禁止しているのである。

 

 では、なぜ日本で胃癌のレントゲン検診が行われているのか?それは日本では、胃癌の患者が多く、レントゲン検診の精度が高く、早期発見で助かる人が多かったからである。(過去形であることに注意)。しかし、最近の日本は事情が少し違う。1983年にピロリ菌が発見されて、1990年に日本の学界では、ピロリ菌が慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因だとわかり、そして、疫学的考察から、胃癌との強い関係が指摘された。1994年には、ピロリ菌は胃癌の一番の原因であるとWHOが世界に向けて通知した。(わが国の厚生省はこの宣言を否定)。1995年ごろから、ピロリ菌退治の方法が確立されて、2001年ころには、ピロリ菌を退治すると、胃癌になる確率が、退治しない場合の約5分の1になることが、全国の大学、大病院の臨床研究で証明されているのだ。(厚生労働省はこの学会からの報告を香港からの論文を根拠に否定)。しかし、唯々諾々とレントゲンによる胃癌検診が日本では続いている。

 

 賢明な読者なら、私が何を言いたいのか、もうお分かりであろう。ピロリ菌にかかっていない人や、慢性胃炎になっていない人からの胃癌発生はきわめて低いのである。そういった胃癌のリスクが低い集団の人たちに対しても、レントゲン検診が、旧態依然と進められているのだ。これはよくない。即刻改善すべきだ。胃癌のリスクの低い集団の人たちに対して、レントゲンによる胃癌検診を行うべきではない。実は、リスクは簡単に評価できる。今は、ピロリの感染や慢性胃炎の存在は血液検査や便検査で簡単にわかるのである。ピロリ菌の抗体価、便中のピロリ菌抗原、血液検査(ペプシノーゲン1とペプシノーゲン2)などを調べればよいのである。

 

 レントゲン検診による早期胃癌の発見率は、昔のファイバースコープの時代ですら、内視鏡検診による早期胃癌の発見率の3分の1しかなかった。内視鏡は無痛で行う無痛内視鏡技術も進歩し、また、拡大内視鏡では病理所見に近い観察能力を持つまでにいたっている。

 

 しかし、日本政府の厚生労働省は、今年も、「胃癌検診の基本はレントゲン検診である」と宣言した。また、慢性胃炎のピロリ菌退治を社会保険診療で 治療できるように、学会は10年来頼んでいるのに、厚生労働省はまだ認めていない。国民の命と健康を守るために、厚生労働省の上級お役人は、目を覚ましてほしい。自分が天下りするかもしれないからといって、利益集団である検診施設組合や健康保険組合などの政治的圧力に屈して、国民の命を犠牲にしていいんですか?

 

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新年予想 2010 今年もよろしくお願い申し上げます 

 新年を迎えるにあたり、皆様の健康と繁栄をお祈り申し上げます。

2009年秋の富士山

 

 2008年の後半からの経済の落ち込みは日本経済を激しく揺さぶっている。「従来の経済モデルが壊れて 仕事にすることが無くなった。これから具体的に何をしたらいいのか?よくわからない。」 日本社会は大きな曲がり角に来た。

 経済が医療に与える影響は大きい。今後の医療の成り行きを考えるために、日経ジャーナルの2010年予想を読んでみた。いろいろな分野のことが書かれていたが、エコカーが次々と開発されて、景気は少しは良くなるらしい。そして、「従来の常識にとらわれない本質追及が次の時代を切り開く。」と書いてあった。

 

 さて、その本質追及からみた、従来の社会常識にとらわれない癌予防対策とは、何だろうか?

もちろん、それぞれの癌に対する特効治療(三次予防)ができれば、それが一番であるが、治療方法が必ずしも有効でない時は、一次予防(原因除去)と二次予防(早期発見)に努力するしかない。

1)肺がん・・・・・・・・・喫煙の禁止。たばこの販売中止。タバコに代わる健康に良い嗜好品の開発。

2)胃がん・・・・・・・・・ピロリ菌駆除および慢性胃炎の治療。造影レントゲン検診の限定化もしくは廃止。

3)大腸がん・・・・・・・過度なアルコール摂取や過度な脂肪摂取の禁止。遺伝的体質の検討。前がん性病変である大腸ポリープの切除。

4)食道がん・・・・・・・禁酒禁煙。アルデヒド脱水素酵素の活性の測定による高危険群の絞り込み。

5)原発性肝がん・・・B型、C型肝炎ウィルスの除去。慢性肝炎の治療。

6)膵臓癌・・・・・・・・・慢性膵炎の治療。RAS遺伝子異常の抑制。

7)子宮頚癌・・・・・・・パピローマウィルスの全員チェックとこまめな検診。

以上のうち、胃がん、大腸がん、食道がんは、技術の進歩により、拡大内視鏡を用いると、わずか1-2mmでも発見可能な時代となった。つまり、その気になって、しかるべき技術のあるところで、内視鏡検査を受ければ、大腸癌、胃がん、食道癌はほぼ100%予防できる。

 

 鳩山首相が「命を大切にする」というのなら、今年はまさに、科学的知性のもと、勇気を持って、前進して行くべき年であろう。

 

 

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第4回消化管学会 大阪中乃島大阪グランキューブで開催  

 

  午前中は、「内視鏡特殊光観察の光と影ー色素内視鏡を越えられるか?」に参加。

 FICEとNBIが色素内視鏡よりも優れている点は、毛細血管が簡単に見える点である。微小食道癌・喉頭癌の存在診断では既に十分な臨床的成果を挙げている。そこで、大腸や胃ではどうか ?という企画なのだ。

 

 大腸腫瘍ではピットパターン診断の研究が、ずいぶんと進んでいる。毛細血管観察によるFICEやNBIの上乗せ診断効果はわずかなようだ。潰瘍性大腸炎に 発生する(COLITIC CANCER)癌の存在診断についても、FICE、NBI、AFIともに大きな成果は未だない。

 

 胃癌では、胃小溝や胃腺口の消失や、縮れたような不整な微細血管の出現が、癌特有の所見である。しかし、 新潟の八木一芳先生によると、癌が粘膜表面に顔を出しているときは、高い診断能を得られるが、癌が粘膜中層を這うように広がるときは、診断能は低くなってしまうそうだ。座長の八尾隆史先生は、「生検による組織検査は、 やはり、欠かせない。」とコメントしていた。未分化型の胃癌の広がりを正確に診断するのは、難しいのである。

 

 消化管内視鏡の最大の目標は、癌の有無を確認することと、癌の広がりを把握すること、癌を取り去ることである。これらが短時間に容易にできる、さらなる新しい技術の開発が要求されている。獨協医大中村哲也先生の発表、「増感因子を用いたレーザー光による診断と治療(PDD、PDT)の胃癌への応用の試み」は、その答えのひとつかもしれない。

 

 昼は、島根の木下芳一教授の「メタボリックシンドローム時代の上部消化管疾患に迫る」に参加。要は、胃酸分泌亢進の時代的背景と逆流性食道炎、機能性ディスペプシアとの関係といったところのお話だったのであるが、島根医大における20年前と5年前と今の患者の数と、年齢構成の違いについての話が面白かった。

 

 島根は、いまや3人に1人は、60歳以上の老人先進県。病院の経営のために、患者数と年齢構成を調べてみたら、80才代、70才台、60才台の患者数が純増して、20年前の2.5倍の患者がいるとのこと。しかし、医師の数は20年と同じ。 「昔の教授がうらやましい。」と。

 その話を京都大学の千葉勉教授にしたら、「それは田舎島根の特殊事情じゃないか?」といわれて、「京都でも調べてみたら」と言い返し、2人で調べてみたら、京都大学も事情は同じだったそうで、京都のことを、「 都会と思っている田舎」と、コメント。さらに、彼らの出身大学のある神戸の中核病院をさらに、調べてみたら、なんと、神戸も同じ事情だったそうである。 「田舎と思われていない田舎」・・・・。

 

 夜の懇親会で、その病院の消化器科部長と歓談。「年度末に、常勤が2人やめて、補充が見つかりません。朝の9時から夜の9時まで外来をして、くたくたです。「癌中核病院」として指名されて、50km先からでも患者が押し寄せてきて、とても、もう医療レベルが維持できません。もう、崩壊です。」 医局をつぶし、研修医の5時帰宅を推奨し、使命感をもって臨床を続けている医師 たちに、報いなかった(むしろ、いじめ続けた)政策のつけが、爆発しはじめている。文部省と厚生労働省、この政策立案に関った官僚は、医師を大切にしなかった間違いを素直に反省すべきだろう。

 医局をつぶせば、地域病院の医療レベルが下がり、研修医を5時に帰宅させれば、臨床能力の育成が遅れ、診療報酬を下げれば、病院がつぶれ、医師がパンクすることがわからなかった人たちには、医療行政を司る資格はない だろう。

 

 発見伝茶屋での2次会で、癌研の武藤徹一郎院長と話。先生、酔った勢いで曰く、「 一度、(医療界は)つぶれるしかないな、つぶれないと、わからないんだよ」「それでは、患者も医者もみんな困りますよ、先生、何とかしてください。彼ら(官僚)に一言、言ってくださいよ。」「うるさいと遠ざけられるんだ。」「ところで、先生、今の医学生に何か言いたいことありますか?東大の講義で伝えますよ」「そうだな、「使命感を持ち、大望を抱け」 ということかな。」「わかりました。」・・・・(使命感を持って、医療を続ける人が、いじめられる姿を、目の当たりにしていては、いくら使命感を持てといっても、空々しい思いに駆られるのは学生ばかりではあるまい。)

 

クリニックの案内・地図(ポリープ切除付)無痛内視鏡消化管ドック田淵正文院長の履歴

田渕正文院長の業績消化器疾患について超音波による前立腺がん治療:HIFU | E-mail |

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JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第四日目・最終日

 今日は学会の最終日であった。神戸は快晴。少し肌寒い感じもするが、からりと晴れ上がった最高の天気であった。

 

 午前中は、「ESD標準化のための手技の工夫ー上部消化管ー」に参加。司会は井上晴洋先生と小野裕之先生であった。いろいろと進歩していて、さまざまな工夫が述べられていた。ESD標準化まで、もう一歩の所まで来ているといった印象であった。

 

 昼は「胃癌化学療法の治療戦略ー新しい時代の幕開けー」を聞く。胃癌の化学療法は、ファーストラインがTS-1かTS-1+シスプラチン。セカンドラインがタキソール。タキソールは特に癌性腹膜炎によく効く。そして、これからは、これらの薬に、アバスチンやその他各種の分子標的薬を加えた治療に向かっている。東大の腫瘍外科で、胃癌の癌性腹膜炎に対して、タキソールによる治療 ・治験が行われているが、同僚の北山丈二先生によると、一年生存率は86%であったとのこと。驚きの高さである。

 

 午後は、「経鼻内視鏡による上部消化管スクリーニングの現状と問題点」に参加。司会は、辰巳嘉英先生と本田浩仁先生であった。無麻酔で上部内視鏡検査をするときは、経口内視鏡よりも経鼻内視鏡のほうが楽である。交感神経系の亢進が少なく、内視鏡時の血圧の上昇も低い。しかし、経口内視鏡に比べて、画像が悪く、検査に時間が20-30%余計にかかるという欠点も指摘されていた。鼻出血は約10%弱ぐらい、鼻痛は50%ぐらいであった。耳管の違和感や、副鼻腔炎などの珍しい報告もあった。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第一日目

 10月18日から21日までの4日間、神戸でJDDW2007(日本消化器病週間)が開かれている。

 

 午前中は「大腸pSM癌診療の新しい展開」へ出席。司会は斉藤裕輔先生と正木忠彦先生であった。コメンテーターは、癌研院長の武藤徹一郎先生であった。

 従来、sm深層までの浸潤(sm2sm3)、脈管浸襲(=ly(+) or v(+))、腫瘍が未分化、腫瘍先進部の悪性度の高さ(BUDDING)が開腹手術適応ということであった。

 新しい展開として、浸潤の深さについては数値で表す試みが常識化してきていた。転移なしの浸潤距離については、1000μmが主流なのだが、1700μmとか、いろいろ議論があった。「mで転移して驚いた症例も、標本を詳細に調べなおしてみるとsm浸潤がみつかった。切除標本の取り扱いは丁寧にしましょう」などなどと議論していた。「マトリライシン染色をすると、転移の予測に有効だ」という報告もあった。

 

 拡大内視鏡診断では、「ピットパターン5n型は、sm-massive、5i高度不整型は浅いのから深いのまである。」と、また、毛細血管診断では「毛細血管のない領域のある病変はsm-massive」とか議論されていた。また、「pSM癌が上記の開腹手術適応状態で、諸般の事情で手術しなかった場合、再発率は20%ぐらいで、再発後の治療でその約33%しか救えなかった」という話もあった。これは、私の臨床経験に近い数値であった。

 

 武藤徹一郎先生の総括では、「内容は10年前とほとんど変わらない。内科の先生方は、この医療資源の乏しくなった時代に、医療全体からみると微々たること(おそらくピット診断や毛細血管診断のこと)をやめて病棟でうろうろしていてほしい(化学療法などをしっかりしろということか)」とのコメントであった。私の見解としては、「この10年、大筋は変わらないが、細かいところでは診断は深化している。」と思う。ただし、治療について、まったく、議論がなかったのは残念で、「pSM癌、開腹手術適応状態であるにもかかわらず、手術しない場合、TS-1などの抗がん剤投与はどれくらい再発を抑えるのか?」という 疑問についても議論してほしかった。

 

 午後は、消化器癌診療ガイドラインの現況と諸問題に出席。司会は杉原健一先生と下津川徹先生であった。食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、の診療ガイドライン作成者が指定講演を行った。また、ガイドラインの評価を行うAGREEというシステムも紹介されていた。消化器癌は癌罹患数の6-7割をしめ、そのガイドラインの社会的影響は、大変大きなものである。

 

 私が、面白かったのは、ガイドラインのでき方であった。胃癌、大腸癌は2001-2002年ごろに、手弁当で医師集団が作成、食道癌は学会主導で作成、肝臓癌と膵臓癌は、厚生労働省の補助を受けて2004-2005年に作成されていた。肝臓癌は4000万円の予算が支給されていた。膵臓癌もそれなりの予算が支給されていたようだが、実際は200万円ぐらいでできたとコメントしていた。

 

 肝臓癌のガイドライン作成の4000万円の予算はどのように使われたのか、お金の行方の明細を報告してもらいたいものだ。安倍前首相の美しい日本の会議費用「12人集めて2回で4000万円」から判断してわかるとおり、大盤振る舞いする予算は政治的なのである。厚生労働省はガイドライン作成に実費の20倍もの金額を出しているのである。

 

 そう、考えてくると、今後、ガイドラインは、情報公開というよりも、情報操作の道具、医療費締め付け、医療界締め付けの道具として用いられていくのではないかと危惧される。今、政府は医療費削減のために、医療現場の自由裁量を容認できないのである。マスコミでは報道しないが、なにせ、2025年には現在の医療費29兆円を、さらに8兆円削減して、21兆円にするという目標を掲げているのであるから。 (今でも現場は大変なのに、こんなのが実現したら、医療は完全崩壊してしまうと思うが、それでも財務省がここまで厚生労働省に圧力をかけるのは国力がここまで落ちていくということか?)

 

 議論の中で、司会の杉原健一先生は、「アメリカの大腸癌診療ガイドラインでは、大腸癌治療のファーストラインは、アバスチンとオキザロプラチンと書かれているが、この費用は一ヶ月70万円もかかる。こんなのは、費用の点で、今の日本の保険診療では受け入れられない。保険診療できないことはガイドラインに載せるべきではない。アメリカでは自由診療があるから、受け入れられるのであるが、社会体制の違いを考慮した、国別のガイドライン作成が必要だ。」と力説していた。 

 

 杉原先生も「抗がん剤投与にアバスチンの併用が、延命効果がある。」とわかっている。「患者さんの利益のために情報公開が必要だ。」ともおっしゃっている。しかし、「医療は保険診療」ということが、彼の頭脳の中で固定観念として根付いてしまっているために、「ガイドラインにアバスチンは入れられない。」と発言しているのだ。保険診療が命を短くしているという図式だ。 (ちなみに、私のクリニックは自由診療なので、アバスチンは利用できます。)

 

 「アバスチンは抗がん剤投与に併用すると延命効果がある。しかし、費用がかかり過ぎるので、今の日本の保険診療では、採用していない。」と真実をガイドラインに書くべきだと思う。真実を伝えなければ、国民も奮起しまい。

G-file 3 目黒区胃癌検診 集団的誤診

 いまの目黒区の庁舎は、土地投機バブルで失敗してつぶれた「千代田生命」のビルである。いまから、約10年前、目黒区の区庁舎が中央町にあり、まだ、中目黒に移ってくる前の話である。当時の区長は、汚職を摘発されて自殺した薬師寺さんであった。

 

 そのころの目黒区医師会は、2派閥が対立しており、ハードな医師会長選が行われた。結果、現職系の候補を破り、M会長が誕生した。M会長の下、医師会の人事が刷新されて、私は、目黒区医師会のがん検診委員となった。

 

 さて、その初会合のとき、がん検診委員長(肝臓の専門医)が言うには、「昨年度の目黒区の胃癌検診の予算は1600万円でした。その予算を医師会が引き受け区民の検診をしているのですが、胃癌の発見は0人という成績でした。ここ数年、胃癌発見者は0人ないし1人という成績が続いています。大変な問題だと思うのですが、 田渕先生何かご意見はありませんか?」と振られた。

 

 当時、一般に、がん検診は、「一人の癌患者を見つけるのに必要な費用が、230万円より上か下か」が、検診のよしあしの分かれ目とされていた。目黒区の胃がん検診は、その基準からいえば、まったくの不合格であった。がん検診委員長が、「大変な問題」というのも、尤もなことなのであった。

 

 当時の目黒区の胃癌検診の仕組みは、まず、年齢などで絞り込んだ対象住民に、胃癌検診のはがきを出す。はがきを見たうちの希望者に対して、碑文谷保健所でレントゲン車によるバリウムによる胃二重造影(検診用の直径10cmぐらいの写真撮影10枚程度)を無料 (=区の予算)で行い、所見のある人を拾い上げて、要精密検査の指示を郵送する。そして、区内の医療機関で、さらに、内視鏡検査もしくは二度目の通常の胃のバリウム二重造影検査(A4サイズの写真撮影)といった精密検査(無料 =区の予算)を受けるというシステムであった。

 

 私は、さらに以前、東京共済病院に勤務していたころ、目黒区医師会からの依頼で、碑文谷保健所で撮影した、検診用のフィルムを読影していた。その画像は、 残念ながら、読影に耐えられる代物ではなかった。バリウムが胃粘膜にきちんとのっていないし、バリウムがすぐに十二指腸の第3部分へ流れていて、胃と重なってしまっているのである。当時の読影は、東邦大学大橋病院の消化器医と東京共済病院の消化器医で担当していたのであるが、一緒に読む、東邦の先生方も私と同じ感想を持っていた。「こんな写真では、読めない!」

 

 「この写真なんとかならないのか?」と、医師会の担当の先生に、撮影しているレントゲン技師さんにクレイムをいってほしいと、お願いしたところ、翌月に返ってきた答えは、「看護婦も医師もついていないので、胃の動きをとめる注射ができない。したがって、バリウムが十二指腸の第3部分 へ流れるのは、避けられない。車なので、写真のサイズは変えられない。」というもので、要は現状を変えられないと返事であった。

 

 読影の席で、取りまとめ役の医師会の先生は、「7~8%ぐらい拾い上げてください」と、我々にリクエストした。読めない画像を前に、我々は、その人の年齢や、問診内容で、要精密検診者を決めていたのである。したがって、1600万円の胃癌検診で一人も癌が見つからないのも、当然といえば当然としか言いようのない結果なのであった。

 

 私は、目黒区がん検診委員長に、以上のような事情を説明した。そして、東大の三木一正先輩が開発した、ペプシノーゲン法による胃癌検診を提案した。興味を示した委員長は、早速、三木一正先生に目黒区医師会での講演を依頼した。三木一正先生は講演を快諾してくださり、講演は実現した。

 

 胃癌は、慢性胃炎の進行した状態で、出やすくなる。ペプシノーゲンは、慢性胃炎の進行度を示す指標である。検診対象者の血液中のペプシノーゲンを測り、慢性胃炎の悪いほう約7~8%を、要精密者として、内視鏡による精密検診をおこなうというシステムを三木先生は紹介した。足立区では、同じ1600万円の予算で、このペプシノーゲン法を採用して、一年で23人の胃癌患者を発見していた。

 

 やっと1人見つけられる目黒区のシステムと、同じ予算で23人も見つけた足立区のシステムと、どちらが優れているか、論議の余地などなかった。目黒区医師会のがん検診委員会は全員一致で、ペプシノーゲン法の採用を採択した。そして、がん検診委員長は、早速、区の担当者に、胃癌検診にペプシノーゲン法を採用したい旨、申し出た。

 

 区の返事は意外なものであった。「ペプシノーゲン法を採用すると、レントゲン技師が不要になってしまうので、碑文谷の2人のレントゲン技師が在職の間は、ペプシノーゲン法は採用できない。」と。レントゲン撮影をするという手段が目的化して、本来の目的、胃癌患者をより多く、より早く見つけて人の命を救うという目的が、忘れられているのだ。

 

 その後、人の命の重さよりも官僚システムを重視した、目黒区の薬師寺さんは、汚職が発覚して自殺した。そして、当時、ペプシノーゲン法を導入した足立区長Yさんは、その後すぐに、 議会からの不信任決議が採択されて、リコールされた。かれは小数会派(共産党)であったのだ。

 

 慢性胃炎は、胃癌の発生母地であり、慢性胃炎の原因の90%はピロリ菌である。慢性胃炎に対するピロリ菌治療は、学会での議論確定15年たった今でも、社会保険では認められていない。

 

 今年も、厚生労働省はいう、胃癌の検診は内視鏡よりもレントゲンが基本と。日本の医療の霧は、政治によってますます、深く濃くなっている。中世、ガリレオガリレイは、地球は太陽の周りを回っているとする地動説を唱えたが、その内容は当時の権力者、カトリック教会には受け入れられず、迫害された。

G-file 2 驚いた見落とし?!誤診の陰に政治あり。苛政は虎よりも猛し

 その人の父親は、胃癌で死んでいた。享年57歳。彼は、不動産事業に成功して、財を築き、1970年代はじめに、PL検診センターにVIP会員として150万円払って入会した。渋谷のマンションが1000万円しない時代に、150万円は大金である。しかし、胃癌で死んだ父のことを考えると、事業で成功した43歳の彼にとって、150万円は納得できる金額であったのだろう。まじめな彼は、以来、半年に一回、一回も欠かすことなく、検診を受けた。胃の検診はずっとバリウム造影検査で行われていた。

 

 1990年ごろ、60歳前半の彼は、便潜血反応が陽性となり、PL検診センターから、大腸内視鏡検査の目的で、私に紹介された。大腸内視鏡の結果、大腸腫瘍が5-6個見つかり、すべて内視鏡的に切除。彼は私を気に入ってくれ、奥さんも私に紹介。奥さんにも大腸ポリープが見つかりと彼ともども、1-2年に1回大腸内視鏡の検査を行っていた。

 

 2001年、しばらく顔を見せていなかった長身の彼が、突然ふらりと来院して言うことには、「先生、いつもしている、半年に一回のPL検診で、先日、5センチの潰瘍が一つあるから、胃の手術をするようにいわれました。ほんとに切らなければならないのか、診てくれませんか?」と。さっそく、上部消化管内視鏡検査(通称、胃カメラ)を実施。胃体部後壁に、ボールマン3型の5-6cm大の大きな癌がある。さらに驚いたことには、それより少し奥の、胃幽門部後壁にも、約4-5cm大のボールマン3型の癌があった。ダブル胃癌である。半年前の検査で見つからなかったというのが不思議なくらい大きな2つの癌だった。まじめな彼にとって、それは、文字道理の「驚き」であったろう。なにせ、150万円(今だと1000万円くらい)支払ったVIP会員なのである。

 

 私は半年前のバリウム造影の写真を実際に診たわけではないので、断言しにくいが、後壁はバリウム検査のスイートスポットであることから考えても、半年前の胃のバリウム検査で2つの胃癌はおそらく見落とされたのだろうと思った。 PL検診センターは、毎日150人から200人もの検診を行うのだが、胃のバリウム造影は技師が行い、読影は一人の医師が担当するという体制なのであった。「S先生、一人で一日2000枚も読むんだ、きっと疲れて見落としたんだろうな・・・・。そういえば、センター長も事務長も看護師長も「保険者が安い検診を求めるから、検診原価を一円でも安くしたい。」と言っていたなぁ・・・・。そういえば、誰か、あそこの給与は相場の7割ってぼやいていたよなぁ・・・・。」

 

 私は、東大病院に、彼を紹介。彼は開腹手術を受けた。しかし、癌は既に肝臓に多発転移していた。TS1が効いて、しばらく、生き永らえたが、結局2004年夏に死亡。彼は、父と同じ胃癌で死んだのであった。胃癌の家族内集積は、単に遺伝性というだけでなく、同じ食べ物を媒介として、発癌力の強い同じピロリ菌に感染しているという環境的要因もある。

 

 その秋、奥さんが来院して、「先生方には、ほんとうに、よくしていただきました。ありがとうございました。」と涙をこらえて言ってくれた。もっと言いたかったことがあるはずなのに、ぐっとこらえた姿に、彼女の本当に深い悲しみを感じた。

 

 一般に、胃癌の早期発見率について、内視鏡検診はバリウム検診の3倍というデータが、内視鏡がまだファイバーであった1980年代からある。それが、わかっていても、バリウム検診が、いまなお、続いているのは、レントゲン技師の雇用のため、コスト削減のため、内視鏡医師不足のためである。

 

 今年も、厚生労働省はいう、胃癌の検診は内視鏡よりもレントゲンが基本と。「苛政は虎よりも猛し。」とは、中国の古いことわざであるが、現代の日本にも、通用しているのは、真に残念なことだ。

The Final Answer ピロリ菌と胃癌 日本消化器病週間・学会報告

     浅香正博北海道大学消化器内科教授が、札幌で開かれている日本消化器病週間で、10月12日に、ピロリ菌と胃癌について、「ファイナルアンサー」と題して、講演を行った。浅香正博先生とは、私が1993年に北大で「大腸腫瘍のピット診断」の講演を行ったときからの知り合いである。当時は、講師で、消化器部門のハウプトであった。彼はテニスが趣味の貴公子である。


 講演の中で、教授は全国集計の結果、年齢訂正の日本人が生涯を通じて胃癌になる確率は、ピロリ菌抗体陽性者で11.2%、ピロリ菌陰性者で1.8%であったと 発表した。ピロリ菌の感染(もしくは感染の既往)は、胃癌の発生を6.2倍に増やしているというわけだ。また、教授自身の胃内部を示した。10年前はピロリ菌がいて、荒れた年寄り風のでこぼこ状態であったが、ピロリ菌除菌して、10年経過したいまは、つるつるてかてかの若くて健康な胃に戻っていると述べた。除菌は、若返りの一環でもある。


 胃癌の死亡者数は全国で約6万人である。除菌政策を採用すれば、少なくとも、胃癌の死亡者は2万人以下になるであろう。若年者のピロリ菌感染は、とくに、危険なので、ぜひ、退治すべきである。これ以上の政策の 。遅れは、重大な責任問題だ。ピロリ除菌政策を即時に採用しなければ、現在の厚生労働大臣をはじめ、同省役人は、近い将来、罰せられることになるであろう。


 当院では、ピロリ菌のチェックと除菌を行っています。1000例を超える経験があります。ご希望の方は、ご一報ください。

asaka-lecture2006

「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」第1話 がんにならないためには その3 多重がん

  大腸癌に罹った人は、胃癌を併発しやすく、胃癌に罹った人は、大腸癌をよく併発する。だから、大腸癌の手術前には、上部内視鏡検査を行い、逆に、胃癌の手術前には大腸内視鏡検査を行って、大腸癌の併発がないか調べるのである。大腸に腺腫(前癌病変)がある人は、大腸腺腫がない人に比べて、大腸に限らず、全身どこの癌も発生しやすい。一回癌になった人は、しばらくすると 、その他の場所にも癌が出やすい。したがって、癌に罹った人は、別の場所に、癌が重ねて出てこないように、十分注意しなければならないのである。


  私が診た患者で、一番の多重がんは、カルチノイド腫瘍(大腸癌の一種)が、直腸に46個以上、異時性異所性に、多発した人である。第2位の多重がんは転移を繰り返しながらもすべて、早い段階での発見により外科的切除が行われて、いまだに生きている、大腸癌2個ー肝臓癌ー肺癌ー食道癌という人 である。そのほかに、大腸癌ー胃癌ー前立腺癌。乳癌ー胃癌ー肺癌。大腸癌ー食道癌ー肝臓癌。食道癌ー大腸カルチノイドー十二指腸癌。異所性異時性に、食道癌ー食道癌ー食道癌ー食道癌。また、大腸癌を6個同時に異所性に発見といった症例もある。奇妙な言い回しであるが、何回も癌になる人は、幸運である。なぜなら、癌に何回もなれるということは、前の癌で死ななかったからこそ、次のがんに罹患 できた?のである。3回以上の癌に罹った患者さんたちは、実は、ほとんどが生き延びている。


 私の経験のうち、死んだのは、乳癌ー胃癌ー肺癌の一人だけかもしれない。この人は、 大腸腺腫が合計30個程度あった。家族歴にも癌が多数あり、明らかに癌体質であった。2発目の胃癌は、内視鏡で発見され、内視鏡で切除できた。この方はヘビースモーカーであった。私は、癌体質だから、たばこをやめないと肺癌になると、説得し続け た。普通、癌になっていると、忠告するまでもなくたばこを止めてくれるものであるが、この人は、しかし、「社会的ストレス回避」といって、たばこを止めなかった。そして、9年目に ついに肺癌が発生して、 骨転移・脳転移と壮絶な2年間の闘病の末、お亡くなりになった。自分は癌になるはずないと無防備な人に、症状が出て癌が発見されるような場合、7割ぐらい死ぬ。仮に、運良く3割に入っても、2発目がその5年後くらいに来て、さらに、無防備のままだと、ほとんど が2発目の癌で死ぬ。「がん患者」という語句の響きのとおり、不幸を味わうことになる。ちなみに、膵臓癌の致死率は高く、この癌は、異時性の多重癌を許さない。


  癌が見つかった後、きちんと消化管ドックを定期的に受けている方々は、大腸癌・胃癌・食道癌が見つかっても、ほとんど が内視鏡的に完治している。私は、大腸に腺腫や癌が多発したり、胃癌・食道癌を内視鏡で取った患者に対しては、必ず禁煙を勧めている。しかし、先の症例のように、癌体質なのに、「たばこやめるくらいなら死んだほうがまし」とか「たばこがないと社会のストレスは乗り切れない」とか、私の前では「わかりました」と応えて、たばこのにおいが消えない人は、せっかく、内視鏡で助けても、5年後10年後には肺癌で死んでいる。消化管の癌をできるだけ早期に見つけて助けようと必死になっても、禁煙してもらわなければ、「ざる」なのだ。たばこ が止められなくて、肺癌で死んでいった方々の顔が次々と思い浮かぶ。死に際しての、家族の涙の表情が思い浮かぶ。


  たばこは販売禁止だ!。

王監督、胃癌になる

 王監督といえば、世界のホームラン王で、私が小学・中学・高校のころにちょうど大活躍していた。私は当時、大の巨人ファンであった。王が打席に立つとホームランの期待でわくわくしていたし、4回に1回はその期待に応えてくれていた。今回、王監督が胃癌になって、慶応病院で腹腔鏡手術を受けることになったという。毎年、検診を受けていて、癌が見つかったということだそうだ。してみると、おそらく、早期がんであろう。腹腔鏡手術をうけずとも、内視鏡でなおりそうなものであるが、腹腔鏡手術をするということは、sm以下に浸潤しているのであろうか。sm癌であれば、大まかに10中8-9助かるが、手術には成功してぜひ助かってもらいたいものだ。ところで、王さんは胃癌予防のために、ピロリ菌退治していたのであろうか?

TBS「主治医の見つかる診療所」 キスでピロリ菌は伝染するの?

  5月7日日曜日のゴールデンタイムのTBSテレビ「主治医が見つかる診療所」をみていたら、 昨年胃がんの手術を受けた大橋巨泉さんが登場した。2回除菌を受けたが、ピロリ菌が治らないという。ピロリ菌は胃癌の原因なので、何とか、治したいらしい。そこで、巨泉さん、コメンテーターの癌研有明病院JF先生にいろいろと質問した。ピロリ菌の感染ルートを尋ねられた彼女は、キスで伝染するとコメントした。つかさず、大橋巨泉さんが「僕は、ワイフと毎日しっかりキスしているが、彼女はピロリ菌除菌に成功したよ。」と突っ込みを入れた。番組ではすぐに茶々が入り、結論でなしで、話題は次に移っていった。私の2500例を超える臨床経験でも、キスでピロリ菌は伝染しない。巨泉さんの突込みが正しいのである。JF先生の名誉のために言っておくと、研究初期には、確かにピロリ菌患者の口腔内から、ピロリ菌の性質を持った菌が見つかるという報告があるにはあった。しかし、人間は、歯を磨いたりアルコールを飲んだりして、ピロリ菌は口の中では極めて生存しにくい。


 では、ピロリ菌の感染ルートは何かというと、土である。土の中には、ピロリ菌が丸く小さくなって(コッコイド型)になって、冬眠しているのである。これが、ゴキブリやハエにつき、最終的に、食べ物などに付いて胃に入ってくるのである。胃に入るとピロリ菌は、鞭毛を広げて、ヘリコプターのような形になって、増殖するのである。(この形からヘリコバクターと命名された。ちなみに、以前は、キャンピロバクター・ピロリと呼ばれていた。)


  私の臨床経験では、歯を磨いたり、アルコールを飲んだりしない、「犬」とキスする、ご婦人方の除菌は必ず失敗した。犬は、土でもどこでも舐めるのである。

最後にもう、一言、ピロリ菌に感染したときの胃癌発生率が1%以下とJF先生は述べていたが、これも間違いで、一生を通じてみると、13%ないし18%ぐらいである。今の日本は年間100万人死亡する人がいて、ピロリ菌感染率が6-7割で、年間約10万人が胃癌になるのである。内、5万5千人が胃癌で死ぬ。


  テレビは大きな影響力を持つので、内容の間違った健康番組を垂れ流すのは、殺人にも等しい。わからないことは、せめてわからないというのが、科学者の掟であろう。プロデューサーも襟を正して品位のある、内容も十分吟味した番組を作るべきである。

消化管癌(大腸癌、胃癌、食道癌)にならない生活習慣とは?とくに飲酒について

 大腸癌の死亡者数がじわりと上昇してきている。現在、一年間に約9ないし10万人が大腸癌に罹って、約4万人が死んでいる。大腸癌を避けるためにはどういう生活習慣がよいのであろうか?大腸癌に罹りやすいリスク因子としては、1)アルコールの過剰摂取、2)脂物の過剰摂取、3)食物繊維の不足、4)癌家系などが上げられる。かつてよく、肉の食べすぎもリスク因子といわれたが、これは、研究者によりデータが異なり、半数は関係有、半数は関係なしとの状況である。(ちなみに、女優オードリ・ヘップバーンは菜食主義者であったが、大腸癌で死んでいる。)


 10年ぐらい前になるが私独自の研究としては、アルコールは飲む量に比例して、大腸癌や大腸ポリープの頻度が上がり、ビールは毎日500ml以上飲むとリスクがあがり、毎日1500ml飲むと約
2倍のポリープの発生をみた。また、日本酒では、容量依存的な悪影響が見られた。一日5合飲むと、大腸ポリープが大腸癌になる確率が2倍になった。長期にポリープを取りに通院してくる人たちをみると、営業で酒を飲む生活から退職すると、大腸ポリープの発生する頻度も低下するような印象がある。


 最近、ピロリ菌退治後の胃癌の発生について、アルコールを飲んでいない群では、除菌後
3年後以降の発生率は0に近いが、アルコールを飲む群では除菌後3年たっても、ピロリ菌の退治の胃癌抑制効果は、あまり見られないという発表がいくつかあった。アルコールを飲んでいると、胃炎が治まらず、癌発生のリスクが維持されるということなのであろうか?


 食道癌(扁平上皮癌)のハイリスクは、
50歳以上の男性で、濃い酒を飲んで、煙草を吸い、熱いものを食べる習慣のある人である。


 いずれにせよ、過剰な酒は食道を含め、胃腸によくない。ただし、酒を飲む人は、歯周病や虫歯になりにくいという統計があり、酒は口だけによいということみたいである。ちょっと変だが、医学的に見ると、「酒類は口に含んで味わった後、吐き出す。」というのが、もっとも健康的な習慣と言うことになる。

ピロリ菌を心配して、胃癌を早期発見—開腹胃切除を免れる

先日、このホームページをみた30歳の娘さんが、ピロリ菌のいるお父さん(58歳、仮称、小泉純一郎)を心配して、ピロリ菌を退治してほしいと当院を訪れました。まずは、内視鏡検査ということで、上部消化管内視鏡検査を実施したところ、直径3mmの陥凹型早期胃癌が見つかりました。内視鏡で粘膜切除術をおこない、病理検査の結果、病変は粘膜内に留まっていました。粘膜内に留まっていれば、リンパ節転移や、肝転移や、腹膜播種の可能性は、ほとんどありません。小泉純一郎さんは、開腹して胃を切除する必要はありませんでした。娘さんの機転が、お父さんの胃を、いや、命を救ったのでした。

 このような、ピロリ菌を心配して来院して、内視鏡をしてみると胃癌がみつかるという、エピソードはよくある話です。ピロリ菌を放置している人に胃癌が発生してきます。ついでに言うと、大腸ポリープが出る人や癌家系の人は、その人の癌遺伝子が変異しやすいことが知られています。そのような人は、大腸に限らず、腺組織をもつ臓器(食道、胃、十二指腸、胆嚢、胆管、膵臓、肺、腎臓、前立腺、乳腺、子宮)に、それぞれ(食道癌、胃癌、十二指腸癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌)が出やすいことが知られています。大腸ポリープがあって、癌家系であって、ピロリ菌のいる人は、三重の胃癌のハイリスクを持っています。当院での消化管ドックを受ける最もメリットのある人たちといえます。

ピロリ菌を放置してスキルス胃癌になる。・・・残念!

今年(2004年)の初めに、5年ぶりに内視鏡検査を受けに来た60歳ぐらい社長がいらっしゃいました。5年前にピロリ菌がいるので、退治しましょうとアドバイスしておいたのですが、彼は仕事が忙しくて、しばらく、来院できなかったといっていました。内視鏡検査をしてみるとスキルス胃癌(進行の早く、胃癌の中でも最も悪性度の高い癌)が見つかりました。スキルス胃癌は内視鏡では治療できないので、東大病院に紹介しました。そこで、いろいろ治療を受けたのですが、結局、先日お亡くなりになりました。ご冥福をお祈りすると共に、5年前に、なぜもっと熱心にピロリ菌退治をお勧めしておかなかったか、毎年、なぜ内視鏡検査をお勧めしなかったのか、と大変後悔させられました。胃癌の発生はピロリ菌退治で抑制できます。(詳細)ピロリ菌を退治しましょう。
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