たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

社会保険制度

TPP(trans-pacific strategic partnership)について テレ朝からインタビューを受ける。

 野田首相がTPPへの参加表明をするということで、農業系議員連や日本医師会などがと「TPP参加絶対反対」と随分と盛り上がっている。農業系の議員連は、野田首相がTPP参加を表明するなら、民主党から離脱すると言っている。農業の自由化は、安い農作物が入ってきて農家が困るということだ。また、日本医師会は、アメリカの利潤追求の医療制度を押しつけられると、日本式の社会保険医療制度がつぶされるないかと考えて、反対している。また、混合診療の解禁を迫られ、金持ちでなければ医療が受けられなくなるのではないかと危惧している。一方、産業界は製品の輸出にプラスになるので、賛成している。


 10日の昼休み、テレビ朝日のモーニングバードのディレクター門上晋一朗さんから突然電話がかかってきた。「TPPについて、先生のお考えはいかがですか?」「私はTPP参加には賛成です。」と答えたところ、あれこれと事細かに質問してきた。それはこう、それはああと、答えているうちに、「きょうの夜7:00にインタビューに伺いたい。」ということになった。


 午後七時の約束であったが、六本木からの道が混んでいて、到着は60分ほど遅れ、8時であった。カメラスタッフもついて来ていた。早速、インタビューが始まる。インタビューヤーは、 テレビ朝日のモーニングバードのレポーターの清水貴之さん。


Q「医療が自由化されると、アメリカの医療が入ってくるでしょうか?」

A「自由化されると、部分的には入ってくるところもあるでしょうが、大きく入ってこないと思います。日本の医療水準は臓器移植以外の分野では、ほぼ世界最高のレベルで、アメリカに引けを取るものではありません。とくに、私が専門としている消化器内視鏡や消化器手術の分野では、日本の医療レベルのほうがアメリカよりもずっと上です。これは私が長年、アメリカや欧州の学会に参加して、直接見聞きしたことですから間違いないでしょう。しかも安価に提供されています。ですから、アメリカの医療と競争すれば必ずや日本の医療が勝つでしょう。したがって、アメリカの医療機関が日本に入ってくるということは、まず、現実には起こらないでしょう。むしろ、消化器内視鏡などの世界トップレベルの日本の医療が海外に進出していくことが予想されます。わたしも、アメリカで内視鏡をしたいくらいですから。」


Q「日本の医療は、すべての分野で本当に世界レベルですか?」

A「たしかに、臓器移植などの日本が遅れている分野では海外勢が参入してくるかもしれません。しかし、入ってくることができる分野は、つまりは、日本の医療の遅れているところですから、病気が治らなくて困っている患者さんが助けられるということになり、それはそれでいいことだと思います。」


Q「地方の開業医のレベルでは、太刀打ちできないこともあるのではないですか?」

A「保険診療を行う日本の開業医は、アメリカにくらべて、安い価格で診療しています。ですからそんな利益の薄いところに、もしかしたら、赤字になるかもしれないところに、しかも「日本語」という文化障壁もあるのに、利益追求の企業が参入してくるとは、とても考えられません。それに地方の開業医の先生方も勉強している方はほんとうによく勉強していらっしゃいますよ。」


Q「TPPに参加したら、アメリカから押しつけられて、日本の医療が営利主義になってしまうのではという危惧がありますが、先生はいかがお考えでしょうか?」

A「アメリカの営利主義的な医療体系は、非人道的な悲劇をもたらし、アメリカ国内でも反省されています。たとえば、骨髄移植を受ければ治る可能性が高かった白血病の少女がいましたが、彼女は貧乏で、彼女の加入していた保険は骨髄移植をカバーしていませんでした。そのため、保険会社は彼女に骨髄移植の治療を認めませんでした、結局、少女は骨髄移植を受けられないまま、白血病で死んでしまいました。少女が死んだあと、少女の母が保険会社を訴えて勝利しました。保険会社の社長は財産を抱えてメキシコに逃亡、保険会社は解散となりました。この事件は、社会保険がよくゆきと届いている日本では、ちょっと考えられないような事件です。クリントン国務長官やオバマ大統領は、こんな自国の非人道的な医療体系を憂慮して、むしろ日本型の社会保険制度を医療に導入しようという医療改革を推し進めています。そんな人たちが政権を取るくらいですから、アメリカが日本に営利主義的な医療体系を押しつけてくるとは思えません。」


Q「TPPに参加しても、今の日本の国民皆保険の社会保険制度は大丈夫でしょうか?」

A「まちがいなく大丈夫です。社会保険制度をかえるには、健康保険法の改正が必要です。国会の議決なく現行の制度を変えるわけにはいきません。日本人は元来、相互扶助の精神がつよい国民性を持っていますから、アメリカ型の医療体系を選択することはまずないでしょう。それに、さきほども申し上げましたように、アメリカの民主党は日本型の社会保険制度を高く評価していますから、アメリカが日本に営利主義的な医療体系を押しつけてくるとは思えません。むしろ、TPPを利用して、アメリカ政府が国内の医療制度を日本型に変更するかもしれません。」


Q「先生の話を聞いていると、たしかに、医療制度は大丈夫かもしれませんが、TPPに参加するとアメリカの高い薬を買わされて、日本が損をするということはないでしょうか?」

A「アバスチンやレミケードなどの分子標的薬剤のことですね。たしかに、それらは月に数十万円します。これらの分子標的薬剤は、輸入額としてすでに1兆2000億円もかかっているという話が今年の博多のJDDWで出ていました。TPPに参加するしないに関わらず、この問題はすでに発生しています。ですからこの問題でTPP参加に反対というのは筋違いです。アバスチンもレミケードもここ数年で保険収載されました。それは、これらの薬がよく効くことがあるからです。治る薬を評価して採用することは、日本の医療レベルを高める上で是非必要なことです。治らなかった患者さんが治ってくるのですから。これらの薬の成功に釣られて、今や、多数の分子標的薬剤が開発されています。今後、多数の分子標的薬剤が臨床 上に現れてくるでしょう。しかし、分子標的薬剤の効果は限定的なものもあり、薬によって微妙に異なります。特定の癌が完全に治ってしまうという夢の抗がん剤もあれば、ちょっとだけしか延命できないという薬もあると思います。これからは、費用対効果の点から取捨選択や競争による価格の低下が起こってくるでしょう。」


Q「TPP参加は、医療を受ける国民にとってどのような影響があるでしょうか?」

A「現在の日本における保険医療の最大の問題点は財政的な問題です。社会保険では企業の作る保険組合が医療費を支払うわけですが、業種によっては黒字のところもあるようですが、全体として赤字が多いようです。30年前は社会保険の自己負担割合は通常1割でしたが、不況が長く続き、経済が悪化していったため、自己負担分が切り上げられて、今は3割となっています。ちなみに、もし、TPPへの参加によって企業の業績が良くなれば、保険組合の財政もよくなって、自己負担分が昔のように下がるかもしれません。」


 インタビューは約45分であった。翌朝のモーニングバードでは編集されて、約45秒間放映された。アメリカの医療改革について、マスコミの人たちはあまりご存じでなかったらしく、その部分が大きく取り上げられていた。


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医師の苦悩 医師の使命と社会保険制度 

 2月の下旬は、受験シーズンである。医学部医学科を目指す若者たちは、いま、必死に受験と取り組んでいることであろう。

 

 私の場合も、医学部受験は人生を決める大イベントであった。なぜ、医学部を目指したかといえば、母と祖母から、「一族からせめて一人は医者になって欲しい。」と、強力に頼まれたからである。もともと、私は幼いころから数学が得意であったので、理学部か工学部か法学部に進もうと思っていたのだが、お話好きという別の特性を生かすには、医学部もありかなと思ったのである。

 九段の日本武道館で行われた東京大学の入学式(1978年=昭和53年)、桜の花舞散る下で感じたことは、医師になる使命感というよりも、正直、受験戦争を戦い抜いた安堵感と達成感であった。しかし、大学のとき、私自身が難病を患い、特定疾患患者となって、病気の怖さ・切なさを嫌というほど味わい、病気を治す、患者を治すという医師の使命の大切さを、心の底から実感した。だから、自らの専門を決めるとき、迷いは一切なく、自分の病気を専門とした。

 医師国家試験に合格して臨床に入ってみると、私の病状などとは比べものにならない、悲惨な患者さんが多数いた。治らない病気も数多く、効果的な治療法がなく、死んでいく人々の山であった。治療法があって克服された病気と、そうでなく克服されていない病気、その差は歴然としていた。川におぼれて死のふちへと流されていく人々を救うには、方法があれば、どんなに費用がかかろうとも、救うというのが、24年前の常識であった。「人の命は地球より重い」当時の閣僚の言葉である。

 

 1980年代は、日本経済が絶好調の時代で、社会保険医療の枠が最善の医療の限界とほぼ同じであった。今から思えば、医師として悩み少なき時代であった。現在、私が医師になった24年前と比べれば、さまざまな病気の本態が解明され、治療法も見つかってきている。しかし、治らない病気、治せない病気も数多く、多くの人々が病気を治せずに死んでいという状況には変わりはない。癌は、治療法がかなり進んできたもの、いまだに克服されていない。その他、難治の疾患を数えたら、きりがない。

 1990年を境に、日本経済が没落し始めて、経済的限界から、社会保険医療のレベルが後退し始めた。一方、医学の進歩は続き、各種の病気の解明、治療法の開発が進んだ。これらの成果は経済的制約から、社会保険医療に取り入れられなかったものも、数多い。必然、社会保険医療の枠と最善の医療の限界が乖離し始めて、今は大きく隔たってしまっている。病気を治し、患者を救うという医師の使命を達成するためには、社会保険医療制度が障害となるケースが増えてきたのである。

 つまり、医療の使命を達成するためには、人の世の法令順守だけでよいというわけにはいかなくなってきたのである。自然界には、人の世の作る法とは、別の法、すなわち、自然のさまざまな法則がある。自然界の法に逆らえば、人は健康を損ない、命を落とす。そのため、医師は使命達成のため、自然の法を学び、研究する。国の法令や規則が、自然の法と対立するとき、医師は苦悩せざるを得ない。

 

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