この10月からの保険医療では、老人の窓口負担金が増え、診療報酬が減った。高齢者の負担は重くなり、医療サービス供給者の待遇はさらに悪化し続けている。その根本的な流れはどこから来るのか?厚生労働省白書を読むと実にわかりやすく書いてあった。


 「今回の医療制度構造改革は、これまでの医療制度構造改革の中で課題として指摘されてきた高齢者医療制度の創設や医療費適正化について、道筋を示すものである。まずはその円滑な施行に向けて、万全を期して準備していくこととしている。今後とも、安全で質の高い医療を確保し、皆保険制度を持続可能なものとしていけるよう着実に努力していかなければならない。」


 つまり、「皆保険制度を守るために、老人も医療機関も苦労しなさい、我慢しなさい。」ということなのである。「皆保険制度さえ守れば、安全で質の高い医療が確保されるのだから。」ということである。では、なぜ、皆保険制度が安全で質の高い医療につながると考えているのかというと、「我が国の医療制度は全ての国民が健康保険や国民健康保険といった公的な医療保険制度に加入し、保険証一枚で誰もが安心して医療を受けることができる国民皆保険制度を採用している。こうした仕組みは、経済成長に伴う生活環境や栄養水準の向上などとも相まって、世界最高水準の平均寿命や高い保健医療水準を実現する上で大きく貢献し、今日我が国の医療制度は、国際的にも高い評価を受けている。」と。 つまり、これまでうまくいったから、これからもうまくいくという韓非子の逸話「守株」の論理である。でも、現実には日本の医療は、崩壊してきている。日本の国民所得が減少しているからだ。


 80年代までの経済の高度成長期には、医療技術の革新のスピードと国民所得の伸びが一致して、皆保険制度はうまく機能したのだが、いまは、医療技術の革新が、日本経済の発展のスピードをはるかに上回っている。世界のトップレベルの医療が、日本の保険医療で実践できない事例は、枚挙暇がない。今の政府は、ここ10年、皆保険制度を守ろうと、日本国民所得の低下と一致して、日本の医療単価を切り詰め、結果、医療の質はどんどん低下してきている。今回の改訂で、これまでにも増して、オカルト医療話が日本全土を覆うであろう。医師・看護師・介護師の離職や嫌職が進むであろう。守りたいものは、制度ではなく、命と健康である。


 グローバル化した産業界、IT技術革新による情報革命、株式市場を中心とした後期資本主義、飛躍的に進歩する生命工学の時代にふさわしい医療制度を早く構築しないと、日本はますます世界トップレベルから取り残され、日本にいるから病気が治せない、日本にいるから死んでしまうということが、ますます多くなる。皆保険制度を守り続けるという考えを捨てねば、今の時代、命と健康は守れないというのが、医療現場の医師の実感である。