たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

早期発見

桑田佳祐さんの食道がんはなぜ早期発見できなかったのか?

 微小な食道がんを見つけるには、色素内視鏡もしくは、特殊光拡大内視鏡による丁寧な検査が必須!! 
 

毛細血管が斑点状になって見える部分が早期食道がん。FICEによって血管が強調されてみえる。

 

 今月2日に初期の食道がんの手術を受けたサザンオールスターズの桑田佳祐(54)が、14日夜放送のTOKYO FM「桑田佳祐のやさしい夜遊び」にメールを寄せ、近況を報告した。先週7日の放送でICU(集中治療室)に入っていることを明かしていたが、驚異の回復力で「本来なら1週間ぐらいいるのですが、(手術から)3日後には普通の病室に戻されました」と告白。「毎日1歩ずつ。点滴の管が取れ、おならやウンチが出て、数値もよくなっていっています」と順調に回復している様子を明かした。(夕刊フジから引用)

 

 先日、マスコミのテレビ業界の人が来て、「桑田佳祐さんは半年に一回、検診を受けていたというのに、どうして、手術するような食道がんがでたのですか?あんな有名な人が半年に一回検診を受けていたのにどうしてって、業界ではみんな疑問に思っています。」 と尋ねてきた。

 

 「初期の食道がん」と「早期の食道がん」は素人的には同じような語感がありますが、専門的にはかなり違うものです。早期の食道がんとは、癌の浸潤範囲が粘膜内に限られているもののことです。この範囲のうちに発見した場合、99%以上助かります。一方、初期の食道がんとは、専門的にはきちんとした定義はなく、病気の初期といった程度のあいまいな意味です。助かるかどうかですが、必ず、助かるとの保証はありません。

 

 早期の食道がんであれば、内視鏡で切除することとで98%以上治りますので、今回、桑田佳祐さんが、開腹開胸の手術を受けて大変に頑張っていらっしゃるということは、桑田佳祐さんの食道がんは、残念ながら、進行がんであったということです。

 

 これがわかっているから、業界の人が桑田佳祐さんの食道がんを疑問に思っているのである。

 

 癌が発生してから、半年で進行がんになるのは稀である。それでは、進行がんなるまで病変はどうして見落とされていたのか?答えは、検診の方法にある。

 

1) バリウム検診。レントゲンでバリウムを飲む方法では、早期がんは発見できないのが常識。レントゲンは凹凸を判断する検査であるため、凹凸のある病変がみつかる。一般に食道がんは早期のうちは、ぺラッとして平らであり、粘膜下に浸潤して進行がんになってはじめて、凹凸が出てくる。したがって、バリウム造影によるレントゲン検診では、食道がんは進行してからでないと、見つからない。

 

 私が授業時間の半分を割いて東大の講義で教えているのはこの常識。学生諸君が医師になって間違った説明をして多大な賠償金を払わなくてもすむように、また、患者さんがその意思に反して、早期発見されず、癌で死んでしまわないようにするためだ。

 

2) 内視鏡検診。一般の内視鏡検診の早期食道がんの発見能は、バリウム造影によるレントゲン検診よりは優れている。ぺラッとして色調が違うところ(食道がんには、赤いものや白いものもある)を見つけるのがコツだが、ときに食道がんは周囲と同じ色をしてることもあり、色の変化だけではかなり見つけづらい。桑田佳祐さんの食道がんは扁平上皮癌であったそうだが、このタイプの組織型の癌の場合、ヨードを含む色素散布が発見にきわめて効果的である。扁平上皮癌の部分はヨードに染まらず、正常部分は ヨードに染まるのである。

 

 この染色法、少々、面倒なため、全症例に実施しているのは、私一人くらい しか、この日本にはいないらしいが・・・・。(学会のワークショップで判明)

 

3) 最新・最高の食道がん検診(色素特殊光拡大内視鏡検診)。 それでは、現段階の最高の方法は、なにかというと、色素と特殊光 (NBI,FICE)を利用した毛細血管観察である。つまり、特殊光拡大内視鏡検査である。食道がんの毛細血管は、正常とははっきりと異なる構造を持っているので、毛細血管を丹念にみていけば、1mmの食道がんも 正確に見つかる時代になっているのである。 上の図参照。

 

 桑田佳祐さんは、おそらく、レントゲン検診か、精度の低い内視鏡検診しか受けていなかったために、半年に一度の検診でも、手術しなければならないほど浸潤するまで、 食道がんが見つからなかったのだろう。

 

 ちなみに、当院では 少し時間はかかりますが、色素と特殊光を利用した毛細血管観察を、全例に行ってい ます。

 

 

クリニックの案内・地図(ポリープ切除付)無痛内視鏡消化管ドック田渕正文院長の履歴

田淵正文院長の業績消化器疾患について超音波による前立腺がん治療:HIFU | E-mail |

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ピロリ菌を心配して、胃癌を早期発見—開腹胃切除を免れる

先日、このホームページをみた30歳の娘さんが、ピロリ菌のいるお父さん(58歳、仮称、小泉純一郎)を心配して、ピロリ菌を退治してほしいと当院を訪れました。まずは、内視鏡検査ということで、上部消化管内視鏡検査を実施したところ、直径3mmの陥凹型早期胃癌が見つかりました。内視鏡で粘膜切除術をおこない、病理検査の結果、病変は粘膜内に留まっていました。粘膜内に留まっていれば、リンパ節転移や、肝転移や、腹膜播種の可能性は、ほとんどありません。小泉純一郎さんは、開腹して胃を切除する必要はありませんでした。娘さんの機転が、お父さんの胃を、いや、命を救ったのでした。

 このような、ピロリ菌を心配して来院して、内視鏡をしてみると胃癌がみつかるという、エピソードはよくある話です。ピロリ菌を放置している人に胃癌が発生してきます。ついでに言うと、大腸ポリープが出る人や癌家系の人は、その人の癌遺伝子が変異しやすいことが知られています。そのような人は、大腸に限らず、腺組織をもつ臓器(食道、胃、十二指腸、胆嚢、胆管、膵臓、肺、腎臓、前立腺、乳腺、子宮)に、それぞれ(食道癌、胃癌、十二指腸癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌)が出やすいことが知られています。大腸ポリープがあって、癌家系であって、ピロリ菌のいる人は、三重の胃癌のハイリスクを持っています。当院での消化管ドックを受ける最もメリットのある人たちといえます。

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