たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

日本消化器病週間

第20回 日本消化器病週間(神戸)に参加 

 10月10日初日から学会に参加。


 2日目の山中先生の講演は、ノーべル賞受賞の発表を受けて、マスコミとか政府とかいろいろの事柄の対応に忙しく、代講となった。


 代講といえども大ホールは満員。山中教授はビデオでお詫び出演。顔には笑顔がなく、声も硬いものであった。


 さて、代講は、彼の教室の教授の一人、青井貴之教授。京都大学消化器内科の千葉勉教授の紹介で、4-5年前に、私が山中教授の研究室を見学に行ったときに対応してくれたさわやかな好青年、京大の消化器内科出身の若い先生で、まだ、39歳か38歳である。9日に山中教授から代講の話があったそうである。わずか2日前!しかし、講演は素晴らしくわかりやすかった。



 開発当初のiPS細胞には、腫瘍源性が強かったが、c-mycをL-mycにしたところ、腫瘍源性は消失した。また、レトロウィルスを使わなくても、DNAに因子を組み込まなくても、iPS細胞は誘導されたこと、また、サルに細胞を入れていることなど、その後の進展について、よくわかる講演であった。


 これを使って、病気をどう治すのか?臓器は作れるのか?個体としての若返りはできるのか?延命は?老人からiPS細胞をつくって、身体に戻したら、老化により喪失した機能はとりもどせるのか?


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(ポリープ切除付)無痛内視鏡消化管ドック田渕正文院長の履歴

田淵正文院長の業績消化器疾患について超音波による前立腺がん治療:HIFU | E-mail |

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JDDW2011 日本消化器病週間 博多に参加

 平成23年10月20日から24日まで日本消化器病週間があり、博多に飛んだ。もともと消化器内視鏡が専門であるが、学会では各種の分野に参加しているようにしている。 「知るは楽しみ」ということであるが、消化器の分野の最新知識や動向をチェックしておくという目的もある。日常診察においては、総合的な知識が適切な治療に結びつく。


 C型肝炎の治療は現在、ペグインターフェロンとリバビリンがゴールデンスタンダードであるが、今後はインターフェロンが不要となり、いくつかの酵素製剤だけで治るようになるらしい。また、膵臓癌の化学療法は、ジェムシタビンが主流であるが、ジェムシタビンよりも、FOLFOXの変法のほうが治療成績が勝るらしい。TGF-β(腫瘍成長因子β)の阻害薬がいろんな段階でいろいろと開発されていて、脳腫瘍の培養細胞には治療効果があったらしいが、消化器がんの培養細胞に対しては今一歩であった。などなど。21日の金曜日、博多は急な嵐で、学会場の間の移動時、結構濡れた。


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JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第四日目・最終日

 今日は学会の最終日であった。神戸は快晴。少し肌寒い感じもするが、からりと晴れ上がった最高の天気であった。

 

 午前中は、「ESD標準化のための手技の工夫ー上部消化管ー」に参加。司会は井上晴洋先生と小野裕之先生であった。いろいろと進歩していて、さまざまな工夫が述べられていた。ESD標準化まで、もう一歩の所まで来ているといった印象であった。

 

 昼は「胃癌化学療法の治療戦略ー新しい時代の幕開けー」を聞く。胃癌の化学療法は、ファーストラインがTS-1かTS-1+シスプラチン。セカンドラインがタキソール。タキソールは特に癌性腹膜炎によく効く。そして、これからは、これらの薬に、アバスチンやその他各種の分子標的薬を加えた治療に向かっている。東大の腫瘍外科で、胃癌の癌性腹膜炎に対して、タキソールによる治療 ・治験が行われているが、同僚の北山丈二先生によると、一年生存率は86%であったとのこと。驚きの高さである。

 

 午後は、「経鼻内視鏡による上部消化管スクリーニングの現状と問題点」に参加。司会は、辰巳嘉英先生と本田浩仁先生であった。無麻酔で上部内視鏡検査をするときは、経口内視鏡よりも経鼻内視鏡のほうが楽である。交感神経系の亢進が少なく、内視鏡時の血圧の上昇も低い。しかし、経口内視鏡に比べて、画像が悪く、検査に時間が20-30%余計にかかるという欠点も指摘されていた。鼻出血は約10%弱ぐらい、鼻痛は50%ぐらいであった。耳管の違和感や、副鼻腔炎などの珍しい報告もあった。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第三日目

 学会も3日目になると少し疲れてくる。このJDDW2007神戸に先行して、アジア太平洋消化器病会議は月曜日から開かれていて、「ちょっと長すぎる。」とぼやく声もちらほら聞こえてくる。

 

 午前中は、シンポジウム「特殊光観察に内視鏡診断」に参加。司会は工藤進英先生と神津照雄先生。NBIとAFI、FICE、confocal endoscopy,蛍光内視鏡などなど、内容はあまり目新しいものはなかったが、NBIの発表が多く、NBIによる微小血管診断が深化していた。

 

 午後は、消化器がん検診学会特別企画に参加。トップバッターは、厚生労働省管轄国立がんセンター予防・検診技術開発部 濱島ちさと先生であった。彼女は、最近、「前立腺がん検診にPSA測定は不要。」と言い放って、現在、泌尿器学会と対立している人物である。どんな人か大変興味があった。ちょっと小太りの、度の強いめがねをかけた、30歳ぐらいの女性であった。声が大きく、自信に満ちていた。肌にはつやがあり、黒髪もきれいで、健康的な美しさがあった。前立腺がんや癌死からは、最も遠い人種である。

 濱島ちさと女史の講演のテーマは、「がん検診における評価の基本概念」であった。

 

 まず、評価は、「その検診をした場合、その検診をしないときに比べて、どれだけ死亡数を減少させるか?」という死亡数減少効果を基本とすると述べた。そして、評価手順は、その検診に関する文献検索して、それらを読み、質のよい論文を選び出し、その論文に重み付けをして、スコア化して、検診を評価するというものだ。専門家にも意見を聞くが、専門家の意見の重み付けは一番低く、一番高い評価は、無症状者に対する無作為対照試験。要因対照試験や患者対照試験、介入試験はそれらの中間の評価で、前向きのほうが後ろ向きよりも評価を高くするという。

 さて、そのようにして、各種の検診方法を評価したところ、PSAによる前立腺がんの検診は、集団検診として、有効とは評価されなかったというわけだ。 (ただし、個人検診では有効との評価、マスコミでは集団検診での無効という評価だけが喧伝されている)。便潜血反応による大腸癌検診は集団検診として効果有りと評価されたという。このガイドライン(検診のやり方)を評価するやり方を、AGREEというそうだ。厚生労働省では検診の 評価を5年ごとに見直すという。

 

 この検診評価方法の問題点は、いくつかあると思う。

 

1)評価の根拠(文献)が古いデータを用いる点。

 文献に頼っているので、文献になる前の新しい知識は含まれていない。5年に一度見直すというから、実際に読んでいる論文は平均10年前ぐらいになるかもしれない。すると、次の十年の検診内容を決めるのに、十年前の知識を利用しているということで、間近な知識・実状は無視されているということなる。

 

2)死亡数減少を検診の目的としている点。検診には自分の健康を確認して安心を得るというメリットもある。

 検診(症状がないのに検査を受けるという行為)の目的は、死亡を回避したいということだけではなく、自分は病気でないという安心を得たいということもある。この2つは同じように思うかもしれないが、ちょっと違う。病気の中には、結局は、よく治るのだが、治すときの負担が早く見つけると軽くなるという病気もあるのだ。前立腺がんはこの範疇に入ってくると思う。患者さんをはじめ現場の人間は、その辺のいきさつをよく知っている。死も勿論、避けたいが、精神的な苦痛、肉体的な苦痛も避けたいのである。

 

3)真実はすべて文献にされているわけではない。

 医療情報の中には、さまざまな諸事情で、論文にしていないことがある。

たとえば、みんなが長年の経験・知識から、当たり前だと思っていること対して、無作為対照試験を行うことは、倫理的に許されないのである。 治療成績から見ると、胃癌と大腸癌の診療について、診断、早期癌の治療、進行がんの手術治療の点ではまちがいなく、世界一の成績を収めている。日本がフロンティアにいて世界をリーディングしているために、日本に無作為対照試験がほとんどなく、AGREEで評価すると日本の胃癌・大腸癌の診療ガイドラインは低い評価しか与えられないという皮肉な結果になるのだ。

 

4)文献に頼るだけで現場の調査を行っていない。

 がんセンターの机の上で検診は行われているのではない。がんセンターの机の上で人が病気になっているのではない。現場に出て

実状を調査して、それも評価に入れるべきである。

 

5)評価する者・組織にバイアスがかかっている。

 濱島ちさと先生は、給与を厚生労働省からもらっており、現在、厚生労働省は医療費削減政策、老人切捨政策を目標としている。AGREEにも、論文の発表者が誰からお金をもらっているかという項目もあり、濱島ちさと先生も自らの主張・論文をAGREEで評価してみるなら、質の低い論文と評価されるという皮肉な結果になるであろう。

 

6)医療現場では集団検診と任意検診(個人検診、プライベート検診)が明確に分かれているわけではない。

 検診の受ける側、すなわち、国民大衆は、検診に集団検診と個人検診が分かれていて、評価基準が異なっているなどとはまったく、思っていない。あるのは、自分の健康と命という評価基準だけである。行政を行うものは、その辺の事情(現場の事情)もわきまえた評価をするべきである。

 

 AGREEは欧米でも認められているガイドラインの一般的評価法である。 上記で述べたように、AGREEには、評価方法として、多くの問題を抱えている。ガイドラインの本来の目的、「人の命と健康を守るのにいかに役立つか?」という観点から見ると、問題のある評価法といわざるを得ない。

 AGREEが舶来であるという点が、彼女が「このやり方は間違ってない」とする根拠であった。AGREEを盲目的に受け入れる彼女の意識にはちょっと問題があると思う。 なんだか、外人かぶれ、英語コンプレックスの女学生という感じがした。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第二日目

 ブレックファーストミーティング「ムコアップを使用したEMR・ESD」があさ8:00という早朝のセミナーに参加。EMRやESDに粘膜下注入液に、臨床研究として利用していたヒアルロン酸希釈液(商品名ムコアップ)が医療材料として保険採用された。0.4%ヒアルロン酸ナトリウムは今まで用いられていた、生理食塩水、グリセリンなどに比べて、膨隆が強く持続時間が長い。一歩前進というところか。座長は工藤進英先生と山本博徳先生。演者は田中信治先生、矢作直久先生という豪華版であった。

 

 膨隆時間を長くするために、私は、今から20年前1987年に、20%グルコース液を大腸EMRに使用した。私は、それ以後、臨床的にあまり困らなかったので、そこで停まってしまったのであるが、その後いろいろと工夫があった。2000年ごろにグリセリンをはじめて使って、論文をいくつも書いたのが、矢作直久先生。ヒアルロン酸を使ったのが山本博徳先生。ちなみに、工藤先生も私同様、あまり困らなかったようで、いつも、生食といっていた。

 

 午前は、「ESD標準化のための手技の工夫ー下部消化管ー」に参加。司会は田中信治先生と矢作直久先生。症例数が増えて、先行施設ではだんだん成績が向上しているが、現在の手技では、やはり、平均2時間の長時間で、穿孔のリスクも10%ぐらいある。手技上のいろいろな工夫が提案されていて、それらを見ると、手術時間30分程度で、穿孔のリスクも2%以下という成績も、今後、期待できそうな印象を持った。本間清明先生の鋏型ナイフが面白そうであった。

 

 ランチョンセミナーでは、クレスチンの癌抑制効果についてのセミナーに参加。坂本純一先生(名古屋大学社会生命科学講座教授)が、メタアナリシスという手法で、これまでの優れた論文のデータを集積して、クレスチンの有効性を証明していた。癌の量の少ない状況でクレスチンは有効であった。講演でも言われていたが、時代によって、クレスチンの毀誉褒貶は甚だしいものがあった。1988年には、利かない薬といわれ、1996年には、癌の死亡率を5年生存率を10%も上げる妙薬といわれて、共に、読売新聞、朝日新聞の一面を飾った。マスコミはいい加減だ。自分で書いたことでもすぐ忘れる。

 

 午後は、「医療崩壊」の著者、虎ノ門病院泌尿器科 部長 小松秀樹先生の講演があった。スライドは使わず、話がいろいろ飛んで、ちょっとわかりにくかった。今回のテーマは、医療崩壊だけでなく、司法界対医療界であった。「診療行為に関連した死亡に係る死亡究明などのあり方に関する検討会」、いわゆる「医療事故調査制度」についての話であった。福島県立大野病院事件を契機に、司法界と医療界が対決している。司法会のトップは、司法界と医療界が衝突して、司法界の無謬性、信頼性、権威性が揺らぐことを恐れているといった言葉が印象に残った。

 

 サテライトシンポジウムでは、オリンパスの「フロンティア内視鏡」に参加。膵管鏡、胆管鏡が2003年にビデオ化されて以来、画像がずいぶんよくなっていたのには、感心した。ただ、まだ以前と同じくよく壊れるそうである。

 

 消化器内視鏡はまだまだ伸びる。その方向性が示されたいいシンポジウムであった。

戦争に負けるということ 日本消化器病週間・学会報告  その2

    2005年の日本の年間死亡者数は約100万人で、内32万人、約3分の1が癌で死んでいる。癌を予防する方法は、医科学の進展により、ずいぶんと進歩してきた。しかし、リーダーの能力不足により、その進歩が、日本人のがん予防に十分に役立っていない。


  昨日、学会の帰りに、赤レンガ造りの北海道庁に立ち寄ってきた。二階に樺太資料室があった。昭和20年8月9日、ソ連が日ソ不可侵条約を破棄して、ポツダム宣言に基づき、北緯50度の国境を越えて、南樺太に進軍。当時、南樺太の日本人住民と兵士は延べ41万人。昭和20年9月5日の同島の日本軍の武装解除までに、大半が死亡。


  写真は、旧ソ連兵から寄贈された、日本兵の遺品である。ヘルメットが無残にも打ち抜かれている。合掌。ビルマ、フィリピン、沖縄、満州(中国東北地域)、サイパン、広島、長崎、東京、大阪- - - -でも、同様の悲劇があった。当時の日本政府の間違った政策とリーダーの無能で、国民は塗炭の苦しみと悲しみと地獄を体験した。


 今の政府の取り組み方で、がんとの戦争に勝てるのであろうか?

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The Final Answer ピロリ菌と胃癌 日本消化器病週間・学会報告

     浅香正博北海道大学消化器内科教授が、札幌で開かれている日本消化器病週間で、10月12日に、ピロリ菌と胃癌について、「ファイナルアンサー」と題して、講演を行った。浅香正博先生とは、私が1993年に北大で「大腸腫瘍のピット診断」の講演を行ったときからの知り合いである。当時は、講師で、消化器部門のハウプトであった。彼はテニスが趣味の貴公子である。


 講演の中で、教授は全国集計の結果、年齢訂正の日本人が生涯を通じて胃癌になる確率は、ピロリ菌抗体陽性者で11.2%、ピロリ菌陰性者で1.8%であったと 発表した。ピロリ菌の感染(もしくは感染の既往)は、胃癌の発生を6.2倍に増やしているというわけだ。また、教授自身の胃内部を示した。10年前はピロリ菌がいて、荒れた年寄り風のでこぼこ状態であったが、ピロリ菌除菌して、10年経過したいまは、つるつるてかてかの若くて健康な胃に戻っていると述べた。除菌は、若返りの一環でもある。


 胃癌の死亡者数は全国で約6万人である。除菌政策を採用すれば、少なくとも、胃癌の死亡者は2万人以下になるであろう。若年者のピロリ菌感染は、とくに、危険なので、ぜひ、退治すべきである。これ以上の政策の 。遅れは、重大な責任問題だ。ピロリ除菌政策を即時に採用しなければ、現在の厚生労働大臣をはじめ、同省役人は、近い将来、罰せられることになるであろう。


 当院では、ピロリ菌のチェックと除菌を行っています。1000例を超える経験があります。ご希望の方は、ご一報ください。

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