たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

患者

病気腎移植について

 病気の腎臓を移植して、腎不全透析患者を救った万波先生が、非難されている。患者を救うのが医師の使命であるから、私は、患者を救った万波先生を非難するのは間違いだと思う。

  病気の腎臓が、レシピー(移植された側の患者)にとって、どれほど有害なのか、関連学会は、今後しっかり検討してみる必要があろう。移植しなければ死んでしまう腎不全患者と、ゴミ箱に捨てられる腎臓を目の前にして、移植の達人が、社会的にも生物学的にも崩れていく患者を救おうとして、成功した医療行為を、手続違反という理由だけで、非難すべきではない。非難すれば、医師自らの使命と倫理の放棄になろう。病気腎でも人が助かることがあるという事実を重く受け止め、その適応と限界を研究することこそ、関連学会に、今、求められている課題ではないだろうか。

自民族に対する精神病理学的な虐待

  私の母校である岡山芳泉高校の初代教頭、佐藤峰夫先生は、若かりし頃、あのインパール作戦に赴いた。佐藤峰夫先生は、 大変立派な先生で、人格者であり、教育に熱心であった 。運動会や文化祭などの締めとして行われた万歳三唱の音頭は、必ず、先生が行った。その鬼気迫る迫力は、とても印象深いものがあった。新設高校 の教頭として、何代にもわたって生徒たちから尊敬されていた。晩年の著作の中で、次のように、インパール作戦を述べていらっしゃる。


  「
昭和19年3月、大本営でさえ成算に自信のなかったインパール作戦が東條の応諾でもって発動され、雨期と無補給と飢えのためにすべての兵士が、生きたまま幽鬼のように衰癆(すいろう)し、英印軍の砲弾で死ぬ以前に、大半がジャングルのなかで溶けるように死んだ。(中略)戦争の定義から外れた作戦で、自民族に対する精神病理学的な虐待としかいいようがないものであった。」


  今から、5年ほど前に、タイのバンコクの熱帯医学研究所を訪れた際、タイの教授が次のようにいった。「マラリアもデング熱も蚊で媒介されますが、蚊の種類が違い、マラリアを媒介する蚊は水のきれいなところ、デング熱を媒介する蚊は水の汚い所に発生します。かつて、日本軍が分け入ったタイとビルマの国境は、タイ国内でも有数の水のきれいなところ、つまり、マラリアの流行地です。タイ人はよく知っているので、そんなところに大切な軍隊を送り込みはしません。」


 無知で傲慢な政府役人などの権力者が非合理的な指令を出し、従わねば見せしめとして人々を懲罰し、自民族を虐待している精神病理は、確かに何も今に始まったことではない。しかし、いまは時代が違うはずだ。医療従事者や患者をHIV感染症の危機にさらすような指令を出す政府役人は、即刻、処分されなければならない。

 

クリニックの案内・地図(ポリープ切除付)無痛内視鏡消化管ドック田渕正文院長の履歴

田淵正文院長の業績消化器疾患について超音波による前立腺がん治療:HIFU | E-mail |

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患者のモラル m-file 1

 8月19日付けの読売新聞は一面で、「横暴な患者、病院苦悩」との大見出しで、患者の暴力事件430件、暴言事件990件を指摘した。


 全国の大学病院で、昨年1年間に医師、看護師が患者や家族から暴力を受けたケースは、少なくとも約430件あることが、読売新聞の調査で明らかになった。理不尽なクレームや暴言も約990件確認された。病気によるストレスや不安が引き金となったケースも含まれているが、待ち時間に不満を募らせて暴力に及ぶなど、患者側のモラルが問われる事例が多い。回答した病院の約7割が警察OBの配置などの対策に乗り出しており、「院内暴力」の深刻さが浮かび上がった。調査は、先月から今月にかけ、47都道府県にある79の大学病院を対象に行い、59病院から回答があった。このうち、何らかの暴力あるいは暴言があったと回答した病院は54にのぼる。暴力の件数は約430件、暴言・クレームは約990件。暴力が10件以上確認されたのは6病院、暴言・クレームが50件以上あったのは5病院だった。「クレームはここ2年間で倍増した」(大阪大医学部付属病院)など、暴力や暴言・クレームが増加しているという回答は、33病院に達した。ただ、こうした件数や事例を記録に残していない病院もあり、今回の調査結果は、「氷山の一角」の可能性が高い。暴力の具体例では、入院手続きの時間外に訪れた軽いけがの男性に、医師が「ベッドの空きがないので明日来てほしい」と告げたところ、缶コーヒーを投げつけられ、注意すると顔を殴られて、顔面を骨折したケースがあった。入院患者から「言葉遣いが気に入らない」という理由で足に花瓶を投げられた看護師もいた。けがを負う病院職員は少なくないが、「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」という意識から、警察に届け出ない場合も多いという。暴言・クレームでは、複数の患者がいたために、すぐに診療を受けられなかった患者の家族が、「待ち時間が長い」と腹を立てて壁をけったり、暴言を吐いたりした。検査後に異常がなかったことがわかると、患者から検査費用の支払いを拒まれた病院もあった。精神疾患や重い病気で心理的に追い詰められた患者が、暴力や暴言に走ってしまった事例もある。しかし、多くの病院は、それ以外の患者や家族による理不尽な行為に悩んでおり、「(一部の患者から)ホテル並みのサービスを要求され、苦慮している」(慶応大病院)との声が上がっている。具体的な対策をとっている病院は44にのぼり、警察OBを職員に雇い、患者への応対に当たらせている病院は21、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院は10あった。院内暴力を早期に発見・通報するため、監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置する病院もあった。(2007年8月19日3時4分  読売新聞)


 当院では、これまで、幸いなことに、暴力事件はなかった。しかし、患者のモラルという点で、一番印象に残っている事件は、保険証の流用、一郎ちゃん詐欺未遂事件である。


 今から7-8年ぐらい前のある日、胃が痛いから診察してほしいと、ニート風の20代後半の男性が来院。「国民次郎(仮称)」という国民保険証を提示した。痛みが強いため、緊急の上部消化管内視鏡検査を実施。胃の中にびらん・潰瘍があり、組織検査を実施。胃薬を出して、「胃に潰瘍があるからしばらくは、飲酒や過食をしないように」と説明して、帰宅させた。ここまでは、よくある診察シナリオであったが、問題はその夜だった。


 深夜12時ごろ、電話が入り、その患者が、血を吐いたという。すぐに、来院してくださいと答えて、患者は救急車でやってきた。患者は酩酊していた。すぐに、点滴ラインを確保して、緊急内視鏡を実施。胃の中は血だらけで、食べ物も大量に入っていた。聞けば、しゃぶしゃぶ食べ放題で、腹いっぱい食べたうえに、アルコールも大量に飲んだという。内視鏡的止血処置を試みるも、患者が不穏で体動が強く、深夜のため対応できるスタッフも少なく、出血の勢いも強かったので、内視鏡的止血術は、うまくいかなかった。大学病院の緊急外来へ搬送を決定。家族にも行き先を連絡した。


 救急車で、旗の台の昭和大学病院へ搬送、私も乗り込んで行き、担当医に引き継いだ。そこへ、母親登場。「一郎ちゃん、大丈夫?」「一郎ちゃん、しっかりして!」。・・・・・・。「お母さん、この人は、次郎さんですよねぇ。」「いえ、次郎は、一郎の弟です!」


 彼は、昭和大学病院の適切な処置で、何とか一命を取り留めた。後日、聞いたところによると、国民一郎は保険非加入であった。そこで、弟次郎の保険証を貸してもらって来院したという。国民一郎さんのモラルは、大変低いものだ。医師の指示は守らないし、健康保険の詐欺も行おうとした。実は、国民一郎さんの事件は、氷山の一角。当時、20~30人に1人は、無効な保険証を提示していた。レセプトを出すと、保険番号間違いとして、3~5%がつき返されていた。


 健康保険証にも、顔写真の添付が必要だと思う。また、保険証が本当に有効なものかどうか、保険者に確かめるオンラインシステムが必要だと思う。ちなみに、最近、「無効な保険証を回収しなかった保険者は、医療機関に診察費を支払わなければならない。」という判決が出ている。

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