ここ1-2年、中国人と付き合うようになった。彼らを見ていて感じることは、中国人は、目的を理解すると、決断と行動が素早く、日本人は決断と行動が遅いということだ。ちなみに、中国人というのは、総称で、40-50の民族からなり、中国の戸籍には、どの民族か明記されている。有名な一人っ子政策は、モンゴル族とかウィグル族とか満族とかいった少数民族には適応されていない。中国とは多民族集合体なのである。他民族からの侵入がいつあるとも限らない、生命の危険な環境が、理に基づいた、すばやい決断、そういう性格を選び出したのだろう。

 

 先日、日本の癌診療について、NHKが番組を制作していた。アメリカの癌診療が進んでいて、日本の癌診療が遅れているとかのイメージを持たせるような、番組構成であったが、現場から言わせてもらうと、お互いに相手に優る点と劣る点をもっていて、癌診療についてアメリカの体制が一方的にいいというわけではない。乳がん検診体制は、アメリカが日本に優るのかもしれないが、胃癌検診体制は、日本がアメリカに優る。ただし、日本の胃癌検診体制には改善点が多いが・・・。

 

 それから、とても気になったのは、アメリカで開発されているさまざまな癌に対する薬に対する評価である。グリベックという薬は、慢性骨髄腫という血液の癌と消化管の肉腫の一部(GISTの多く)に特効的な効果を示した。イレッサは肺がんの一部を治せるようになった。全部ではない。保険承認をめぐってNHKの番組でも問題になっていた血管新生増殖抑制薬:アバスチンは延命効果をもつが、癌を完治することはできない。その他の新たな化学療法の薬は、延命効果、ADLの改善があり、効果のある症例の割合が増えて、たしかに良くなっているが、全体としてみると、残念ながら、いまだ癌を治せない。助からないステージではやはり95%以上は死ぬ。

 

現在、日本は「2人に1人が癌になり、3人に1人が癌で死ぬ」時代である。特効薬のない癌を予防する、すぐできる「癌撲滅政策」は、医学的に考えて何であろうか。

1)     癌死ランキング1位=肺癌に対して「たばこの販売禁止」。たばこは、肺がん、食道癌の原因になると知られている。喫煙の肺癌発生オッズは20ぐらいである。肺がんは年間約6-7万人死亡している。たばこをやめれば、20年後には肺がんの数は20分の1になる可能性もあるだろう。肺がんの死亡者数が年間3000-4000人に減るということだ。

2)    癌死ランキング2位=胃癌に対して「ピロリ菌の退治」。胃癌の大半は、ピロリ感染が元になっている。ピロリ菌を退治したグループは、退治しないグループに対して、胃癌発生がどのくらい減るのであろうか?いろいろと研究結果が発表されてきたが、ピロリ菌退治成功して3年後以降は、5分の1から3分の1に減るという。最近の研究では、除菌後お酒を飲まないグループでは10分の1以下になるようである。私のクリニックで、ピロリ菌退治した人たちの癌発生は、年0.5%ぐらいである。この政策が実施されれば、胃癌の死亡者数は約5-6万人から、1-2万人に減るであろう。

3)     癌死ランキング3位=大腸癌に対して「大腸内視鏡検診」。40-50才時の大腸内視鏡検診を開始して、ハイリスクグループの絞込みとポリープ切除をおこなうと大腸癌はほとんど予防できる。私の経験では、このプログラムにのって大腸癌で死んだ人はいない。この政策が実施されれば、年間3-4万人死んでいる大腸癌は、年間2000人以下になる。


 これが、私がすぐに思いつく、がん死のランキング1位から3位までの対策である。現在、日本人の癌死年間33万人中、約14万人が救われるだろう。医療費の削減効果も大きい。癌の特効薬のない今、疫学的な強力な健康政策が必要だろう。


 その他、肝癌はB型C型肝炎ウィルス、子宮頸がんはパピローマウィルスなど、感染症による癌は、より強力な感染予防対策により、長期的な癌発生低下が見込めるであろう。

 

昨年、アメリカDDWに行き、中国の地方政府の中には、先進的ながん予防政策を採用しているところを知って驚いた。病気を治すということは、体の中にある自然との闘いである。癌は洪水災害みたいなものである。今の日本に必要なのは、国民の健康と幸福を希求し、道理に基づいた素早い決断をして、それを実施できる政治組織であろう。