先ごろ、知り合いの先生の病院で、大腸内視鏡挿入時の大腸穿孔事故が2件立て続けに起こったそうだ。一例は、S状結腸の大きな憩室を大腸の管腔と勘違いしたのが、原因。また、一例は卵巣部の癒着により挿入が困難な症例であったそうだ。それぞれ、大腸内視鏡を始めて、約500例目の先生と、約1500例目の先生が起こしたそうだ。昨日、その病院に用件があって出向いたとき、知り合いの先生から、どうすれば、大腸内視鏡挿入時の大腸内視鏡穿孔事故を回避できるのかと尋ねられた。

 大腸内視鏡挿入は、簡単な症例もあるが、難しいときは本当に難しい。だいたいベテランの私でも、400例に1例くらいは困難、1000例に1例は超困難と感じる症例がある。難しくなったとき、内視鏡が進まなくなると、内視鏡医師はあせり、いらつく。その感情が理性に勝って、無理な操作をすると穿孔につながる。感情が高ぶると無意識に手に力が入ってしまうものだ。手にかかる力は、作用・反作用の法則で、まさに、腸壁にかかっている力だということを忘れないようにしてほしい。

 内視鏡医師は感情が高ぶったら、それを自覚して認識して、冷静に自己コントロールを図る必要がある。急ぐのをやめ、内視鏡から手を離し、鉗子挿入口を全開にして10分ぐらい休むとよい。お茶でも飲んで気分をかえる。腸管から空気が抜けて、大腸の形が変わり、突然、入りやすくなるということもある。また、体型にあったスコープに代えるのも手だ。やせた人なら、細いスコープに、太った人なら、太いスコープというぐあいに。もちろん、やっぱり、入らないということもある。500例目ぐらいだと、回盲部までの全大腸の挿入率は90ないし95%ぐらい(10ないし20件に1件は入らない)、1500例では、97ないし98%ぐらい(40件に1件くらい入らない)が平均的だから、入りにくいものは無理をせず、それ以上の挿入を諦め る。穴を開けるよりはマシだ。そして、日を変えて再トライするなり、更なる上級者にお願いするのが良いと思う。

 私は、これまで、約4万件の大腸内視鏡検査を行ってきたが、「やさしい操作」と「熱くなったら一休みの精神」を心がけることで、幸いにして、大腸内視鏡挿入時には大腸穿孔を起こしたことはないが、それでも、油断はしていない。