たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

問題

日本癌学会学術総会 札幌で開催される 

 学会に参加するときは、クリニックを休んでしまうので、前後は忙しくなる。20日からの参加予定であったので、少しでも緩和しようと、19日は水曜日であったが、振り替えでクリニックを開いたところ、なぜか、新患も急患も多く、加えて、スタッフの急病で、結局、朝までかかって徹夜となった。こんなときは、学会に行っても間違いなく、寝てしまうので、参加しても無駄なのであるが、時々起きて、話が聞けることもある。しかし、やはり情けない。飛行機もホテルも予約していたので、朝6:10の朝一の飛行機に乗って、札幌に出かけた。飛行機は座ってから降りる直前まで、寝ていたようで、離陸も着陸も覚えていない。


 今回の学会は参加登録4500名、演題約3000台。20日の昼には、James P. Allison先生の抗CTLA-4抗体(ipilibmab)による悪性黒色腫の治療の話を聞いた。2-3年前から注目されている治療法で、今回は、抗CTLA-4抗体(ipilibmab)に、IVAXを加えて治療すると、悪性黒色腫の治療成績が飛躍的に改善するという話であった。ものの見事に消えた肺転移巣画像を見せてもらった。この薬を使えば、これまで効果がほとんどなかった癌免疫治療も新たなる時代に入りそうだ。


 20日の昼からは、シンポジウム「癌研究と社会」を聞く。分子標的薬剤関係の研究費は他国に比べてアメリカは莫大で、開発された新薬はたいていアメリカ系資本で、高価で日本の貿易赤字の原因となり始めている。先の抗CTLA-4抗体(ipilibmab)はFDAで承認されたが、1クール12万ドル、今の為替で、約950万円とか。目もくらむ金額である。この高価な薬、日本にはまだ入ってきていない。


 このような事態を背景に、中村祐輔先生が、日本発の抗ガン剤、日本の利益という観点をかなり強く訴えていた。たしかに、日本の学者にもいい種が多くあるので、なんとか、国内で薬が開発できないものかと思う。結局は日本国民が新規 の実験台になることを嫌がれば、日本国内開発は難しいであろう。時代は動き、今日の新しいものは、明日の古いものとなる。効きにくい薬はより効く薬に負ける。実験台という言葉は刺激的であるが、次の時代を切り開くためには、国民の意識改革も大切だと思う。


 ただ、癌克服は人類の夢なので、日本だろうとアメリカであろうと、また、別の第3国であろうと誰が開発してもいいのではないだろうか。貿易収支の問題は、別の分野でアメリカや他国に売れるものがあれば、それでいいのだから。


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第9回日本抗加齢医学会総会 第1日目に 参加 

 5月はまだまだ学会が続く。大腸ポリープを多く持つ人は、がんになり易く、また、加齢による内科的な問題を抱えている場合も少なくない。というわけで、日本抗加齢医学会に参加。日本抗加齢医学会は単に見た目の美容の問題だけでなく、老人の問題も取り扱って いる。それに、異種分野の学会は結構刺激的で、面白いアイデアも浮かぶきっかけとなる。今日おもしろかったのは、

1)京都府立医大消化器内科グループ(吉川敏一先生・古倉聡先生)の「がんワクチンの話」(パラフィン包埋組織から作成)

2)慶応大学、鶴岡研究所、冨田勝先生の「がん細胞の代謝、フマルサン呼吸」癌細胞は低栄養・低酸素のもとでは、寄生虫と同じ呼吸代謝をしている!

3)東京都老人総合研究所の鈴木隆雄先生の後期高齢者医療不要論。彼は「最近の日本では癌も含めて疾患別死亡率曲線がゴンペルツ曲線に似てきたので、75歳以上人には医療は不要だ。」と述べた。それに対して、それが招請講演であったにもかかわらず、フロアーの北里大学の先生からきつい反論があり、また、座長もきつい皮肉を浴びせた。私も、鈴木隆雄先生の考え方は、原因と結果の分析の仕方 を間違えていると思った。治療しているので、疾患による死亡が減り、ゴンペルツ曲線に近似してきたのだと思う。疾患死が減ったからと言って治療をやめていいという理屈は通らないでしょう。彼の考え方は結論ありきの詭弁と言わざるをえない。(やっぱり、こういう太鼓持ちの人でないと東京都のお役人になれない・・・?!)

 

 

 

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医療のIT化 保険証のインタ-ネット確認とレセコン・電子カルテの配布を、オンライン請求の前に行政は行うべきだ。

 レセプトのオンライン請求の義務化が問題になっている。紙でなく、電子情報で請求してもらったほうが、何かと便利らしい。しかし、どうも理由は判然としない。IT政府を目指すといえば、かっこいいのだが、内実はどうなのか、やっぱり判然としない。データが保存しやすいからであろうか????同級生が、支払基金で審査委員をしているのだが、電子請求のほうが、審査に時間がかかるという。理由は、めくる時間が電子レセプトのほうが遅いのである。おそらく、その時間に、電子情報をデータを画面に見やすく表示するためにソフトが走るのであろうが、それが、一枚の紙をめくる時間の2倍かかるそうだ。よって、処理スピードは半分に落ちたそうである。


 一昨日、夜の12チャンネルの番組を見ていたら、医師会の要求で、自民党担当部会にてオンライン義務化は骨抜きになることになったそうだ。それに対して、アナウンサーや、コメンテイターは、かなり批判的なコメントをしていた。お爺さん先生たちも新しいことに協力しろ!とかなんとか言っていた。また、景気対策のために、オンライン化が必要だとも行っていた。しかし、実際の現場、クリニックサイドでは、オンライン請求はほとんどメリットはない。むしろ、導入のためには、手間と費用がかかるばかり、時間とお金の無駄遣いである。やっぱり、厚生労働省のお役人は俺たちをいじめることしか考えていない!ということになるわけだ。便利にならないうえに、お金もかかる。爺さんでなくても、気が進まないというものだろう。


 景気対策をかねて、医療のIT化を目指すなら、まずは、保険証をIT化してもらいたい。紙の保険証ではそれが有効かどうか、窓口ではわからない。現況では、申告に基づいて、IDを確認しているに過ぎず、いちろうちゃん事件(健康保険に入っていない兄が健康保険に入っている弟の保険証を使って受診し、最悪、死亡診断書の名前までもが間違ってしまいそうになった事件)はいつでも起こりうる状態が続いている。IT化で窓口ですぐに、有効で正しい保険証かどうか、専用の機材にかざせばわかるようにして欲しいものだ。


 次に、オンライン請求にこだわるなら、コンピューターとレセプトプログラムを各クリニックにに配布してほしい。レセプト業者の話では、現在、日本で市販されているレセプトソフトは84種類だそうだ。みんなが同じ課題を別々に対応している。私も、これまで、2種類使ってきたが、決して使いやすいとはいえない

。お隣の国、韓国では、日本とほぼ同じ健康保険制度なのだが、なんと、レセコンは政府が配布しているのだそうである。

 

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この保険証は本物か? 事務手続の不正防止を <医療制度改善策 その1>  

 社会保険医療制度の問題のひとつとして、窓口で提示された保険証が本物かどうかということがある。


 まず一点は、顔写真が入っていないので、友達や兄弟のものを流用して用いても、偽名を語る限り、医療機関はチェックの仕様がない。昨今、ニートの間で、しばしば行われている不正受診の方法である。

 次に、有効期間切れの問題。有効期間が切れていても、確認するためには、わざわざ、保険者に電話連絡するしかない。手間取るので、すべての患者に行うことは、現実的に不可能である。保険証が無効のときには、医療機関は、食い逃げされた状態となる。当院も、有効期限切れなどで返却されていたレセプトは、かつて3%にも及んでいた。大変な損失であった。


 最近は、カードの回収を怠った場合、保険者に支払い義務があるという判例が出ているので、保険者への請求権が強固なものとして認められたようであるが、それでも、裁判に持ち込まないと解決できないとは、面倒なことだ。保険者も、回収に努力しても100%は回収できないのが実態だ。 


 これらの最も有効な解決策は、

1)窓口での全額払いと、レセプトの患者への交付であろう。しかし、それでは、保険者の窓口が大変になるかもしれない。それなら、

2)保険証への顔写真の挿入と、

3)インターネットによる、保険医療機関からの保険証の有効性確認システムの構築

が必要である。事務コスト軽減と社会正義実現のため、不正を生まないスムースな方向に、社会保険医療制度の改善を望む。


 
(1)から(3)のいずれにしても、保険者の手間がかかることであり、嫌がることであろう。しかし、保険制度の不正を正すためには必要な事務コストである。(3)は今の
IT技術からすれば、簡単なことだ。検索も、医療機関コードを入力の上、保険者番号、番号、記号、から行えば、プライバシーも保たれるのではあるまいか・・・・。それでも不安であれば、とりあえず、策(1)しかあるまい。

 

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日本医療の問題

 昨今の医療は、口を開けば、医療費抑制という言葉が出てくる。これは、財務省・厚生労働省のお題目のようなもので、この15年続いている。その効果で、この1-2年の医療費は30-31兆円前後である。人口の老齢化の進展により、医療費はますます増えると予想されていた。実は、10年前の医療費も30兆円ぐらいで、その十年後の今は医療費が、40兆円ぐらいと予想されていたのである。では、どうやって減らしたのか?簡単に言えば、医療単価を下げたうえに、医療の抑制を行ったのである。

 私に関係したところでは、以下のような抑制策が行われた。

 

 薬の制限

1.7剤以上の薬を出すと、医療機関と患者に罰金的な損が発生するシステムの導入。

2.薬価単位の切り下げ。

3.院内薬局の単価大幅切り下げによる院外薬局の奨励(薬剤師会の圧力により行わた薬剤師優遇政策。実は、これは、医療費を増やす結果になっている。製薬メーカーには薬剤師が多く、退職後の就職先の確保。つまり、2.とのバーターかもしれない。)

4.卸売価格の統制。薬価差益が薬多用の原因になると考えて、製薬会社と卸売り会社に、政治的圧力をかけて、官僚主導の卸売り価格の統制を行った。これにより、約3割位あった利益が、1割程度になった。言い方を変えると、利益が医療機関から、製薬会社、卸売り会社へと動いた。官製の独占禁止法違反の闇カルテルみたいなものである。したがって、この政策も本当の意味での価格切り下げにはなっていない。これも、2.とのバーターかもしれない。

 

 診断・治療の制限。

5.薬投与制限の大幅変更。ずっと以前は、薬はその副作用や、効果判定の診断のため、大半の薬が2週間しか投与できなかったのであるが、3年ぐらい前から4週までが認められ、2年前ぐらいからは、何ヶ月でも投与できるようになった。これにより、受診回数の低下がおこり、医療費が抑制された。

6.ピロリ菌:ピロリ菌の治療の導入の遅れがあった。ピロリ菌が発見されたのが1983年、今から、もう23年前。日本の学会でその消化性潰瘍に対する病原性が確認されたのが1990年ごろ。WHOで胃癌の原因と宣言されたのが、確か、1994年。国民皆保険といっておきながら、胃癌予防のためのピロリ菌退治すなわち慢性胃炎の除菌治療は、未だに、社会健康保険や国民健康保険では認められていない。

7.大腸ポリープの切除の抑制。小さなポリープは癌化しないという、間違った理論を推奨している。5mm以下のポリープは医療費がかさむので取らないでほしいと、各種保険組合から、私に直接的な圧力が、1996年以降数年間、頻回にあった。

8.カプセル内視鏡、ギブン社のカプセル内視鏡が、2000年ころにアメリカの消化器学会で初めて発表された。3-4年位前に、韓国や中国でも使えるようになり、東アジアで使えないのは日本だけ。国産のオリンパスもカプセル内視鏡の開発を行ったが、一昨年の秋に売り出したのは、日本ではなく、欧州(EU)であった。

9.血管新生抑制剤のアバスチンは、末期がん患者の生存期間を約1.5倍延ばす効果がアメリカ臨床癌学会で報告されているが、日本での承認は大幅に遅れている。抗がん剤の分野で、同様のものがいくつかある。

 

 審査の強化

10.医療費がかさんで、保険組合の資金が不足してくると、社会保険基金や保険組合の審査で、医療費が闇雲に減点される。前の月までは認められていたものが、急に減額されるのである。理不尽なものなのが多く、医療機関経営者には悩みの種である。審査員の友達から実態を聞くと、この医療機関からは何%引けと、基金の事務局員から指示がされるのだそうだ。したがって、理不尽な減点が急に発生するのである。昨年は、東大病院でも手術前のエイズウィルス検査が保険から削られた。審査をめぐる官民の癒着と賄賂の問題も指摘されている。

 

 これらの他に、他の分野でも、いろいろと同様のことが行われている。つい最近では、整形外科の受診回数制限やリハビリの回数制限が打ち出され、社会問題化している。これらの、経済的問題に加えて、医療ミスや医療事故の問題もあって、医療従事者の逃亡も目立つようになった。産科、小児科をはじめとする、各種の病棟や外来閉鎖は、単に経済的な問題だけでなく、スタッフが集まらないのである。医療費抑制策は、ついに、保険医療そのものの抑制になってい来たのである。言い方を変えると、皆保険制度があるために、世界の先端的医療と一部の標準的治療が日本では受けられなくなっているのである。保険医療を維持しようとして、その結果、医療レベルが低下しているのである。上記のような、理不尽な医療政策の下では、医師はやる気がなくなってしまう。今度の参議院選挙では日本医師会は自民党には協力しないであろう。

 

 価格の統制、薬や医療機器の認可など、日本の医療はまさに社会主義体制なのだが、その軋みが、患者の治りたいというニーズに応えられなくなってきた。一方で、患者側にも、自己負担分の未払いや病気予防への態度(喫煙や多飲酒など)の社会主義特有のモラルハザードの問題がある。また、命に対する価値観の多様化もある。官僚のモラルや能力も低下している。健康保険機構の維持にも大きな事務経費がかかっている。

 本来、医療は個別のものである。同じ病状でも、患者の生活信条や社会的状況で、同じ治療にはならないものである。わたしは、シンガポール型の医療制度に賛成である。

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