たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

危険性

第4回消化管学会2日目  「5mm以下の大腸ポリープの臨床病理学的検討からみた小さな大腸ポリープを放置する危険性」を発表。

(5mm以下のポリープを取るなという社会保険組合の要求は不当だった)

 近年、効率性を求める医療サイドと 医療費を抑制したい保険組合の事情から、 5mm以下のポリープを無視・放置している医療機関も少なくない。しかし、大腸ポリープ(大腸腫瘍)はそもそも前癌性病変であり、5mm以下の癌も確実に存在する。そこで、5mm以下のポリープを放置する臨床的リスクを検討したわけである。

 自検例、約3万6千例の大腸内視鏡検査で、発見されて病理検査された、5mm以下の大腸ポリープは、約3万3千病変、癌や高度異型腺腫、カルチノイドといった絶対的切除適応病変は、内視鏡検査120回に1個。 陥凹型腺腫は、15回に1個。低異型度で非陥凹型の相対的切除適応病変は、6回に5個出現していた。

 5mm以下のポリープを無視・放置すると、年間2400例ぐらいの大腸内視鏡を行っている施設では、少なくとも約20病変の癌が放置・見逃されることになる。腺腫の癌化を考慮に入れれば、5mm以下のポリープを無視・放置するリスクは、さらに大きくなる。したがって、5mm以下のポリープを放置・無視するという臨床的姿勢は、推奨できない。

 

 発表の後の質疑討論で、がんセンターの先生から、クリーンコロンについての考え方についての質問があった。つまり、「どのくらいの見落としがあるか?」という質問である。「文献によると大腸腫瘍の見落とし率は10%-20%といわれている。私自身のデータは10%。半年以内に2回大腸内視鏡を行い、20分以上かけて観察を行い、見つかったすべての腫瘍を取ったとき、クリーンコロンと考えている。」と回答。

 

 さらに、「前任の佐野寧先生のデータでは、30%近くが平坦陥凹型であったが、先生のデータでは陥凹型がなぜ、6.7%(1/15)なのか?」と重ねて質問。「6.7%には、平坦型は含まれていない。純粋な陥凹型に限ったことと、6.7%には癌と高度異型度腺腫が含まれていないからだ。」と説明。

 

 また、座長が、「全部の病変を、拡大観察しているのか?」と質問。「近接型拡大内視鏡(EC7CM2など)を用いていたころは、すべて、拡大観察していたが、ズーム型内視鏡拡大内視鏡(現在はEC590zw)になって、一見、腫瘍か否かわかりにくいものに限って、拡大観察をしている。今は約30%ぐらい。」と回答。

 

 フロアから、「ピットパターン診断などを行い、本当に危ない大腸腫瘍だけを選んで取るべきではないか?」というちょっと的外れの意見があった。[この発表は、どこに、取る取らないかの境界を置くかについての判断のために基礎的なデータを示したものである。つまり 、今回の発表は、5mm以下のポリープをすべてとらないという選択をしたときのリスクを示したものである。異型度の低い5mm以下の大腸腫瘍を放置するリスクについての議論をしたわけではない。」

 

 ちなみに、私は、1994年ごろの研究(胃と腸に発表)で、「大腸腺腫を放置すれば、一定の割合で消失するものあるが、約1.3%が1年後に大腸癌になり、癌化すると月に約1mm大きくなり、平坦陥凹型で、平均7.5mmで、隆起型では平均12.5mmで粘膜下層に浸潤する。」という結論に達している。

 

 日本経済が傾いた1996年ごろ、私は、社会保険組合から呼び出されて、「社会保険組合の財政が悪化しているので、5mm以下のポリープを取らないでくれ」という要請された 。驚いた読者諸氏も多いことであろうが、事実である。それが、今回の発表の動機である。

 

 ここに示すように、5mm以下にも癌や高度異型腺腫のような、すぐに命をとるような病変が比較的高率に存在し、また、5mm以下の大腸腫瘍を取る容易さは、病変を見つける手間や難しさに及ばないので、見つけ次第、すべて取るという姿勢を私は貫いた。社会保険組合に嫌われたのは、言うまでもない。合計5000名ほど、組合経由で送られてきていた患者さんは、途切れた。

 

 「丁寧に無痛内視鏡を行い、ポリープをすべて取ってくれる名医」という評価を剥がされて、かわりに、「お金のためにポリープをあさる、ひどい医者」というレッテルが貼られて、社会的攻撃が始まったのである。

 

 当時(今もそうだが)、ポリープは3箇所以上は、何個とっても、社会保険診療報酬の値段は変わらない。私は、一例に平均40-50分かけて、平均6-7個の病変を切除していたのである。お金が目的なら、10分で3個だけとるという診療を行い、もっと症例数を稼いでいたことであろう。

 

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大食いの危険性について フジテレビの取材を受ける。 12月26日放送予定。 

 12月20日(木)、本年10月1日からスタートしたフジテレビ系列の新番組「ハピふる!」から、取材の申込があった。


「最近、大食いタレントの影響などで、“大食い”が注目されています。ただし、大食いというのは、生活習慣病、肥満・・・などなど、さまざまな危険とも、隣り合わせであると思います。私ども「ハピふる」ではそういった“大食い”の危険性を視聴者のかたがたに促すことができればと思い、今回、水曜日の「これって、私だけ?!」のコーナーで「大食いの危険性」を取り上げることにしました。ついては、先生にご協力いただきたく・・・云々」といった内容であった。

 
つまり、“大食いの危険性”について、コメントが欲しいとのこと。


 
そもそも、日本人は、わんこそばの早食い・大食い競争の例を挙げるまでもなく、早食い・大食い競争が好きな民族である。12月26日オンエア予定ということで、ずいぶん、急いでいたのか、申し込みの翌日、金曜日の夜に、番組制作会社の面々が、インタビューのフジテレビのアナウンサー武田祐子さんを連れてやってきた。武田さんはテレビで受ける印象よりも小柄で華奢な感じであった。

Q1. どのような状態で大食いといえますか?

A1. 一般的に、まわりの人よりたくさん食べれば、「大食い」といわれます。まわりの人の1.5倍ぐらい以上食べると「大食い」といわれているような印象がありますが、医学的に「大食い」は明確には定義されていません。しかし、それでは、お答えになりませんので、敢えて、私なりに考えてみました。

 ひとつは、カロリー面からのものです。人の平均一日摂取カロリー量(Kcal)は体重(kg)の25から30倍といわれています。25は坐業の人、30は肉体労働の人です。たとえば、体重60kgの人なら、1500から1800Kcalとなります。その1.5倍以上食べれば、その人にとっての大食いといえるのではないでしょうか。つまり、60kgの人なら、2300から2700kcal以上で「大食い」といえるのではないかと思います。


 もうひとつは、胃の容積から考える基準です。日本人の標準的な胃の容積は、約1.5リットルです。ですから、それより多い容量を一気に食べると、「大食い」といえるかもしれませんね。

Q2.「大食い」をすべきではないのは、どのような人ですか?

A2.医学的に大食いを避けなければならない人は、1.膵臓の弱い人、2.消化管に潰瘍のある人、3.手術後などで腹膜癒着のある人、4.肥満の人、5.糖尿病の人などです。

Q3.「大食い」には、どのような弊害が出てきますか?

A3.

1.膵臓の弱い人は、膵臓炎になり、食後、上腹部が重く痛むようになります。それでも大食いを続けると、さらに、膵臓炎が悪化して、始終、腹痛があるようになります。腹痛だけでなく、背部痛が出る場合もあります。とくに、恐いのは、急性膵臓炎です。3-4日で急死することもあります。あの徳川家康も、「てんぷら」をたらふく食べて、急性膵炎で死んだと伝えられています。
2.消化管に潰瘍のある人は、消化管が膨らむことにより、急に消化管が破れて腹膜炎をおこして、激しい腹痛と発熱に襲われたり、また、潰瘍から出血して、急に吐血や下血をするなど、命に係わる緊急事態が起こりやすくなりますので、要注意です。
3.手術後などで腹膜癒着している人が、「大食い」すると、癒着で腸が細くなっているところに、食べ物が詰まって、通過不全状態になります。これを医学的には「イレウス」と呼びます。イレウスになりますと、腸が捻転したり、腐ったりして、大変な痛みになり、腐ったところから、毒素が出たり、血液の中にばい菌が入ったりして、一気に死亡することもあるため、緊急開腹手術が必要になります。
4.大食いが続けば、カロリーオーバーとなり、肥満や糖尿病になります。肥満は、心筋梗塞、脳梗塞、などなど、恐い病気にかかりやすくなります。

5.糖尿病はひどくなると、網膜の血管が壊れて目が見えなくなったり、腎臓が悪くなって透析しなければならなくなったり、手足に痺れが来たりします。また、勃起不全がおこったり、不感症になったりして、性生活にも大きな支障をきたす場合もあります。

 さらに、注意しなければならないは、「大食い」が、病気の症状として現れることです。心因性食欲不振症では、食欲不振というものの、時に大食いします。この場合、大食いした後、自ら、嘔吐を促して、食べたものを吐くといった異常行動をとる場合があります。この病気は、やせていることにあこがれることがきっかけでなるといわれています。脳幹でのホルモン異常がおこり、精神にも安定が失われて、回復不能となり、死亡することもあります。カーペンターズのカレンが32歳の若さで、死んだのはこの病気が原因でした。我々おじさん世代では、有名な話です。

Q4.「大食い」のメカニズムを教えてください。

A4.食べ物は、胃に蓄えられて、少しずつ、小腸に流れていきます。普通、胃に蓄えられている時間は平均2時間です。食べ物は小腸に入ると蠕動で下に流れていきます。胃の容積は1.5リットルぐらいですから、たくさん食べるためには、胃から小腸への流れと小腸の下への蠕動運動が速くて強いことが要求されます。胃と小腸の間に関所は、幽門というところで、ここが大きく開いていると、食べ物が流れやすいとされています。

Q5.他局の番組になるのですが、大食いタレントの大食い時のCTを取って、胃が極端に拡張していたようですが、胃が大きくなることもあるのでしょうか?

A5.生まれつき、大きな人もいるでしょうし、大食習慣から胃が大きくなる場合も考えられます。また、特殊な結合組織を持っているため、胃が極端に拡張できる可能性も考えられます。胃の容積が大きければ、腸への流れが悪くても結構たくさん食べられるでしょうね。

 ところで、腹いっぱい食べて、もう要らないという食欲の抑制は、視床下部にある満腹中枢の刺激によって起こります。満腹中枢は胃壁が機械的に伸展されたり、血糖値が上がったり、脂肪細胞に脂肪吸収されると出てくるレプチンという物質などで刺激されます。 この満腹中枢が、さまざまな原因で障害を受けると、満腹しなくなり、いつまでの食欲が残り、「大食い」となります。

Q6.やせの「大食い」が多い理由は?

A6.やせているほうが、おなかが膨らむ余地が多いので、多く食べやすい。また、やせていると、脂肪細胞が少なく、そのため、脂肪細胞から出てくる食欲を抑える物質(たとえばレプチンなど)も少なくなる。以上のような事情で、やせの「大食い」が多くなるのではないかと思います。 

 
などなどと、打ち合わせを含めて、撮影は約2時間に及んだ。ダイレクターの近藤隆さんは、結構、下調べをしていて、胃下垂、褐色脂肪細胞、逆流性食道炎、などと、「大食い」の関係も尋ねてきた。 しかし、放映時間は、長くても1分であろう。今頃、ディレクターの筋書きにあった形で、必要な部分だけが、取れだされて編集されているはずである。どんな風に編集してくるのか、興味深いところだ。


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