たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

医療

ビッグデータと医療

本日、NHKでビッグデータと医療という番組をしていた。
「患者を救う大革命」と銘打って以下の題材を紹介していた。

#1 新生児の感染兆候を酸素飽和度と脈拍で知るーアメリカ 
#2 インフルエンザの流行をyahooの検索ワードで知るー日本
#3 前立腺手術と在院日数は「痛み」の解決がポイントー日本
#4 病棟の転倒予防対策:病棟ごとに危険時間帯のちがいがあり、職員の配置の工夫を ー日本
#5 喘息と発作の場所と原因チェック:吸引器を使用した場所と時間ーアメリカ
#6 P53制御たんぱくnek2の発見(プログラムによる論文検索による)-アメリカ

正確なデータがたくさん集まるという点で、評価できる。
#1、#5は特によい成果と言える。
#6も よい。
#3も 悪くない。
しかし、#4はいまいち。転倒しない対策が、ベッドを離れたのを、手すりに設置した感知器で察知して
ナースステーションのベルが鳴って、看護士が部屋に走り、倒れるのを防ぐというシステムだ。
それが、消化器病棟と脳卒中病棟で違いがあるから・・・・・人の配置をかえればよい。
ちょっと、いまいち。
工夫と知恵、たくさんあるからわかるんだということだけではない。



医療と社会経済   

  治す方法がわかっていても、その方法を購入する財力がなければ、病気を治すことはできない。財力に見合う治療法しか、選択できない。この事実を回避したいのであれば、知恵を絞ることも大切であるが、基本的には、医療の進歩を上回る経済力を持たなければならない。これは、自由診療では勿論のこと、ともに助けあう社会主義的な保険医療でも、同じである。


 昨年2008年秋、アメリカ発の金融危機が日本に襲来した。日本の財力の約33%が、この金融危機で消滅した。多くの資産が消滅した日本経済には、今や暗雲が立ち込めている。この危機をチャンスに変えて、生き抜くには何が必要なのだろうか?洞察力、 技術力、行動力、独創力、組織力、知識力、知力、努力、・・・・・、健康、・・・・、運。

 

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田淵正文院長の業績消化器疾患について超音波による前立腺がん治療:HIFU | E-mail |

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加油日本 

 2008年8月8日午後8時8分に、北京オリンピックの開会式が始まった。8続きの時を選んだのは、8が縁起のいい数字だからだ。国の発展を願う気持ちは大切なことだ。自国を誇る壮大で華麗な開会式は、中国政府の知恵と決意の賜物であろう。逆に国が崩れれば、民は悲惨な目にあう。最近では、清国末期の中国、第二次世界大戦の日本がそのいい例だ。明日は終戦記念日で、敗戦からちょうど63年目である。


 2日前、終戦直前8月10日から14日までの東条英機のメモが国立公文書館で見つかった。「東条英機は、敗戦理由を「核爆弾などの敵の脅威におびえ簡単に手を挙ぐるに至るがごとき国政指導者及国民の無気魂」としながらも、開戦に及んだ指導者としての自らの責任に触れている。」と報道されている。下記参照。


 東条英機は愛国者であったと思うが、残念ながら「知恵」が足らなかった。核爆弾の脅威におびえない人はいない。こんな自明な真理も否定しているとは、政治家として指導者として、まったく駄目である。竹やりでは機関銃に勝てないのである。技術がなければ、気持ちだけでは勝てないのである。死んでは、身体は動きません。死んでは、命令を遂行できません。だから、指導者は人が死なないような戦略を考えなくてはいけない。曽祖父は戦前、大臣であったが、暴走する「陸軍」と、負けたこの大将が大嫌いであったそうだ。勝負はやっぱり勝たなくてはいけない。特に戦争の場合、負けは悲惨だ。


 オリンピックの勝負を見ているとよくわかるが、気持ちが勝負を左右するのは、技術とパワーが拮抗しているときだけである。技術とパワーの基には、科学と知恵に基づいた鍛錬がある。


 こんなことは、オリンピック選手が一番よくわかっている。同じく、敗戦を経験した人々にも、自明の真理であった。「なぜ、核爆弾の開発に日本が先に成功しなかったのか?なぜ、レーダーの開発に先に成功しなかったのか?」 その悔しさが原動力となって、敗戦後、日本国民は科学と技術革新に努めて、日本国の再興に成功したのである。


 今の日本国が直面している、崩壊する医療・福祉を救うのも、法を守れという精神論ではなく、おそらく深い理性に基づいた技術革新であろう。それは、単に医学的技術だけでなく、人文科学的な技術、すなわち、「知恵」のある制度も大切であろう。給料が安ければ、介護職は集まらない。特効薬が使えず、手術法が認められず、病気が治せなければ、医療職は倦んでしまう。患者は、治らず、苦しんで、死ぬ。


 「加油」(ちゃーよう)とは中国語で「がんばれ」という意味である。「ちゃーよう、ちゃーよう」とオリンピック放送で盛んに聞こえてくるが、「油を加える」、すなわち、自国でのエネルギー開発や、理にかなった油のようにスムーズな医療福祉制度開発に成功すれば、日本経済も日本社会も回復して、医療も福祉も復活してくるだろう。

 

東条英機・陸軍大将 手記を確認…終戦直前の心境つづる
8月12日13時56分配信 毎日新聞
 太平洋戦争開戦時の首相、東条英機・陸軍大将が終戦直前の1945年8月10~14日につづった手記が、国立公文書館(東京都千代田区)に保管されていることが分かった。戦争目的を「東亜安定と自存自衛」としたうえで、ポツダム宣言受諾を「敵側の隷属化に立つに至る」とつづっている。また、敗戦理由を「敵の脅威におびえ簡単に手を挙ぐるに至るがごとき国政指導者及国民の無気魂」としながらも、開戦に及んだ指導者としての責任に触れている。手記は、政府がポツダム宣言受諾を決めた45年8月9日の翌日の10日に首相官邸で開催された重臣会議の様子についての記載から始まり、席上、戦争目的が達成されないままポツダム宣言を受諾すれば、戦争による多くの犠牲者が死んでも死にきれない、という趣旨の発言をしたことが記述されている。しかし、昭和天皇の裁断で、終戦を受け入れたことを示す記述もある。11日から13日にかけては、今後の情勢分析や敗戦の原因などをつづっている。14日には、首相時代の秘書官あてで「死をもっておわび申し上ぐる」と記したり、戦犯に問われることを予期して「敵の法廷に立つごときは日本人として採らざるところ」とも記し、自殺する覚悟をつづった。

 東条大将は41年10月に首相に就任したが、戦局の悪化を受けて44年7月に辞任。45年9月に自殺を図ったが、一命を取り留め、極東国際軍事裁判(東京裁判)でA級戦犯として死刑判決を受け、48年12月に処刑された。手記は、東京裁判で東条大将の弁護人を務めた清瀬一郎弁護士が法務省に寄贈した資料の中にあった。99年に法務省から公文書館に移管された。「東京裁判」などの著書がある赤沢史朗・立命館大法学部教授の話 終戦直前の東条元首相の考えを間接的に示す資料はこれまでもあった。こうした資料に記載されていたことが、この手記で本人の考えとして明確に裏付けられた。

 

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医師の任務とは?  

  医師の仕事とはなにか?患者の病気を治して健康にすることだと思って、24年間医師を行ってきた。あまりにも、当たり前だと思っていたので、特に、何の疑問も持たず、何も調べずに過ごしてきた。ところが、ある事件がおこり、今、医師とはなにか、改めて、深く考えさせられている。


 医師法第一条によれば、医師の任務「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」・・・・・。患者の病気を治すとは書いていないが、医療・保健・健康な生活の確保という言葉の中に、その意が含まれていると考えられる。やっぱり、私の考えは間違っていない・・・。


 この20年間、とくに、後半の10年は、強い医療費抑制政策が取られてきた。10年前には年間40兆円と予想された医療費が、今は28兆円だ。高齢化、経済の地盤沈下といった社会状況の中で、医療費抑制政策は、理解できる。しかし、社会保険医療現場の状況は、合理化のレベルを超えて、医療そのものの抑制という状況だ。


 この時代のコンテキストのなかで、医師として行うべきこととは何なんだろうか・・・・?

 

 2005年日本で消費された原油は、ほぼ100%海外、主に中東諸国(サウジアラビアとアラブ首長国連邦)に依存している。原油の輸入量は約2.5億キロリットル。一人当たりの原油一日消費量、5.3リットル。原油価格一バレル100ドル(1リットル0.63ドル=67円、1ドル106円)として、353円。結構使っている。しかし、それでもアメリカの約2.5分の1。中国の8倍。年間の輸入総代金16.7兆円。この8掛けとして、13.4兆円。医療費の50~60%である。

 

 抑制された医療費は、中東諸国へと向かった?

 

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日本医療の問題

 昨今の医療は、口を開けば、医療費抑制という言葉が出てくる。これは、財務省・厚生労働省のお題目のようなもので、この15年続いている。その効果で、この1-2年の医療費は30-31兆円前後である。人口の老齢化の進展により、医療費はますます増えると予想されていた。実は、10年前の医療費も30兆円ぐらいで、その十年後の今は医療費が、40兆円ぐらいと予想されていたのである。では、どうやって減らしたのか?簡単に言えば、医療単価を下げたうえに、医療の抑制を行ったのである。

 私に関係したところでは、以下のような抑制策が行われた。

 

 薬の制限

1.7剤以上の薬を出すと、医療機関と患者に罰金的な損が発生するシステムの導入。

2.薬価単位の切り下げ。

3.院内薬局の単価大幅切り下げによる院外薬局の奨励(薬剤師会の圧力により行わた薬剤師優遇政策。実は、これは、医療費を増やす結果になっている。製薬メーカーには薬剤師が多く、退職後の就職先の確保。つまり、2.とのバーターかもしれない。)

4.卸売価格の統制。薬価差益が薬多用の原因になると考えて、製薬会社と卸売り会社に、政治的圧力をかけて、官僚主導の卸売り価格の統制を行った。これにより、約3割位あった利益が、1割程度になった。言い方を変えると、利益が医療機関から、製薬会社、卸売り会社へと動いた。官製の独占禁止法違反の闇カルテルみたいなものである。したがって、この政策も本当の意味での価格切り下げにはなっていない。これも、2.とのバーターかもしれない。

 

 診断・治療の制限。

5.薬投与制限の大幅変更。ずっと以前は、薬はその副作用や、効果判定の診断のため、大半の薬が2週間しか投与できなかったのであるが、3年ぐらい前から4週までが認められ、2年前ぐらいからは、何ヶ月でも投与できるようになった。これにより、受診回数の低下がおこり、医療費が抑制された。

6.ピロリ菌:ピロリ菌の治療の導入の遅れがあった。ピロリ菌が発見されたのが1983年、今から、もう23年前。日本の学会でその消化性潰瘍に対する病原性が確認されたのが1990年ごろ。WHOで胃癌の原因と宣言されたのが、確か、1994年。国民皆保険といっておきながら、胃癌予防のためのピロリ菌退治すなわち慢性胃炎の除菌治療は、未だに、社会健康保険や国民健康保険では認められていない。

7.大腸ポリープの切除の抑制。小さなポリープは癌化しないという、間違った理論を推奨している。5mm以下のポリープは医療費がかさむので取らないでほしいと、各種保険組合から、私に直接的な圧力が、1996年以降数年間、頻回にあった。

8.カプセル内視鏡、ギブン社のカプセル内視鏡が、2000年ころにアメリカの消化器学会で初めて発表された。3-4年位前に、韓国や中国でも使えるようになり、東アジアで使えないのは日本だけ。国産のオリンパスもカプセル内視鏡の開発を行ったが、一昨年の秋に売り出したのは、日本ではなく、欧州(EU)であった。

9.血管新生抑制剤のアバスチンは、末期がん患者の生存期間を約1.5倍延ばす効果がアメリカ臨床癌学会で報告されているが、日本での承認は大幅に遅れている。抗がん剤の分野で、同様のものがいくつかある。

 

 審査の強化

10.医療費がかさんで、保険組合の資金が不足してくると、社会保険基金や保険組合の審査で、医療費が闇雲に減点される。前の月までは認められていたものが、急に減額されるのである。理不尽なものなのが多く、医療機関経営者には悩みの種である。審査員の友達から実態を聞くと、この医療機関からは何%引けと、基金の事務局員から指示がされるのだそうだ。したがって、理不尽な減点が急に発生するのである。昨年は、東大病院でも手術前のエイズウィルス検査が保険から削られた。審査をめぐる官民の癒着と賄賂の問題も指摘されている。

 

 これらの他に、他の分野でも、いろいろと同様のことが行われている。つい最近では、整形外科の受診回数制限やリハビリの回数制限が打ち出され、社会問題化している。これらの、経済的問題に加えて、医療ミスや医療事故の問題もあって、医療従事者の逃亡も目立つようになった。産科、小児科をはじめとする、各種の病棟や外来閉鎖は、単に経済的な問題だけでなく、スタッフが集まらないのである。医療費抑制策は、ついに、保険医療そのものの抑制になってい来たのである。言い方を変えると、皆保険制度があるために、世界の先端的医療と一部の標準的治療が日本では受けられなくなっているのである。保険医療を維持しようとして、その結果、医療レベルが低下しているのである。上記のような、理不尽な医療政策の下では、医師はやる気がなくなってしまう。今度の参議院選挙では日本医師会は自民党には協力しないであろう。

 

 価格の統制、薬や医療機器の認可など、日本の医療はまさに社会主義体制なのだが、その軋みが、患者の治りたいというニーズに応えられなくなってきた。一方で、患者側にも、自己負担分の未払いや病気予防への態度(喫煙や多飲酒など)の社会主義特有のモラルハザードの問題がある。また、命に対する価値観の多様化もある。官僚のモラルや能力も低下している。健康保険機構の維持にも大きな事務経費がかかっている。

 本来、医療は個別のものである。同じ病状でも、患者の生活信条や社会的状況で、同じ治療にはならないものである。わたしは、シンガポール型の医療制度に賛成である。

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