たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

前立腺がん

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第三日目

 学会も3日目になると少し疲れてくる。このJDDW2007神戸に先行して、アジア太平洋消化器病会議は月曜日から開かれていて、「ちょっと長すぎる。」とぼやく声もちらほら聞こえてくる。

 

 午前中は、シンポジウム「特殊光観察に内視鏡診断」に参加。司会は工藤進英先生と神津照雄先生。NBIとAFI、FICE、confocal endoscopy,蛍光内視鏡などなど、内容はあまり目新しいものはなかったが、NBIの発表が多く、NBIによる微小血管診断が深化していた。

 

 午後は、消化器がん検診学会特別企画に参加。トップバッターは、厚生労働省管轄国立がんセンター予防・検診技術開発部 濱島ちさと先生であった。彼女は、最近、「前立腺がん検診にPSA測定は不要。」と言い放って、現在、泌尿器学会と対立している人物である。どんな人か大変興味があった。ちょっと小太りの、度の強いめがねをかけた、30歳ぐらいの女性であった。声が大きく、自信に満ちていた。肌にはつやがあり、黒髪もきれいで、健康的な美しさがあった。前立腺がんや癌死からは、最も遠い人種である。

 濱島ちさと女史の講演のテーマは、「がん検診における評価の基本概念」であった。

 

 まず、評価は、「その検診をした場合、その検診をしないときに比べて、どれだけ死亡数を減少させるか?」という死亡数減少効果を基本とすると述べた。そして、評価手順は、その検診に関する文献検索して、それらを読み、質のよい論文を選び出し、その論文に重み付けをして、スコア化して、検診を評価するというものだ。専門家にも意見を聞くが、専門家の意見の重み付けは一番低く、一番高い評価は、無症状者に対する無作為対照試験。要因対照試験や患者対照試験、介入試験はそれらの中間の評価で、前向きのほうが後ろ向きよりも評価を高くするという。

 さて、そのようにして、各種の検診方法を評価したところ、PSAによる前立腺がんの検診は、集団検診として、有効とは評価されなかったというわけだ。 (ただし、個人検診では有効との評価、マスコミでは集団検診での無効という評価だけが喧伝されている)。便潜血反応による大腸癌検診は集団検診として効果有りと評価されたという。このガイドライン(検診のやり方)を評価するやり方を、AGREEというそうだ。厚生労働省では検診の 評価を5年ごとに見直すという。

 

 この検診評価方法の問題点は、いくつかあると思う。

 

1)評価の根拠(文献)が古いデータを用いる点。

 文献に頼っているので、文献になる前の新しい知識は含まれていない。5年に一度見直すというから、実際に読んでいる論文は平均10年前ぐらいになるかもしれない。すると、次の十年の検診内容を決めるのに、十年前の知識を利用しているということで、間近な知識・実状は無視されているということなる。

 

2)死亡数減少を検診の目的としている点。検診には自分の健康を確認して安心を得るというメリットもある。

 検診(症状がないのに検査を受けるという行為)の目的は、死亡を回避したいということだけではなく、自分は病気でないという安心を得たいということもある。この2つは同じように思うかもしれないが、ちょっと違う。病気の中には、結局は、よく治るのだが、治すときの負担が早く見つけると軽くなるという病気もあるのだ。前立腺がんはこの範疇に入ってくると思う。患者さんをはじめ現場の人間は、その辺のいきさつをよく知っている。死も勿論、避けたいが、精神的な苦痛、肉体的な苦痛も避けたいのである。

 

3)真実はすべて文献にされているわけではない。

 医療情報の中には、さまざまな諸事情で、論文にしていないことがある。

たとえば、みんなが長年の経験・知識から、当たり前だと思っていること対して、無作為対照試験を行うことは、倫理的に許されないのである。 治療成績から見ると、胃癌と大腸癌の診療について、診断、早期癌の治療、進行がんの手術治療の点ではまちがいなく、世界一の成績を収めている。日本がフロンティアにいて世界をリーディングしているために、日本に無作為対照試験がほとんどなく、AGREEで評価すると日本の胃癌・大腸癌の診療ガイドラインは低い評価しか与えられないという皮肉な結果になるのだ。

 

4)文献に頼るだけで現場の調査を行っていない。

 がんセンターの机の上で検診は行われているのではない。がんセンターの机の上で人が病気になっているのではない。現場に出て

実状を調査して、それも評価に入れるべきである。

 

5)評価する者・組織にバイアスがかかっている。

 濱島ちさと先生は、給与を厚生労働省からもらっており、現在、厚生労働省は医療費削減政策、老人切捨政策を目標としている。AGREEにも、論文の発表者が誰からお金をもらっているかという項目もあり、濱島ちさと先生も自らの主張・論文をAGREEで評価してみるなら、質の低い論文と評価されるという皮肉な結果になるであろう。

 

6)医療現場では集団検診と任意検診(個人検診、プライベート検診)が明確に分かれているわけではない。

 検診の受ける側、すなわち、国民大衆は、検診に集団検診と個人検診が分かれていて、評価基準が異なっているなどとはまったく、思っていない。あるのは、自分の健康と命という評価基準だけである。行政を行うものは、その辺の事情(現場の事情)もわきまえた評価をするべきである。

 

 AGREEは欧米でも認められているガイドラインの一般的評価法である。 上記で述べたように、AGREEには、評価方法として、多くの問題を抱えている。ガイドラインの本来の目的、「人の命と健康を守るのにいかに役立つか?」という観点から見ると、問題のある評価法といわざるを得ない。

 AGREEが舶来であるという点が、彼女が「このやり方は間違ってない」とする根拠であった。AGREEを盲目的に受け入れる彼女の意識にはちょっと問題があると思う。 なんだか、外人かぶれ、英語コンプレックスの女学生という感じがした。

超音波による前立腺がん治療(HIFU)に協力 

 前立腺癌の先端的治療のひとつに、超音波による前立腺がん治療(HIFU)がある。前立腺がんに対しては、手術や放射線療法、ホルモン療法があるが、HIFUの特徴は、他の療法では勃起不全は必発なのに比べて、勃起不全の合併率が30-40%であるということだ。東京大学医学部医学科の同窓生、現在、社会保険中央病院の泌尿器科部長、鈴木誠先生が、「HIFUは勃起不全を起こさない可能性のある唯一の前立腺がん治療法であるが、未だ保険認可されていないため社会保険中央病院ではできない。特に性機能を維持したい患者のために協力してくれないか」と持ちかけられて、処置室と入院病室を提供したものである。また、HIFUの重篤な合併症の一つに、直腸穿孔がある。当院では、大腸内視鏡がすぐにできるので、術前・術後に直腸を観察することにより、合併症予防にもなるとのことで、協力することにした。本日、HIFUの教祖、東海大学八王子泌尿器科内田教授にも来ていただいて、初の2例が行われ無事終了した。HIFU:泌尿器科、併設前立腺センターのページはこちらから
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