5月7日日曜日のゴールデンタイムのTBSテレビ「主治医が見つかる診療所」をみていたら、 昨年胃がんの手術を受けた大橋巨泉さんが登場した。2回除菌を受けたが、ピロリ菌が治らないという。ピロリ菌は胃癌の原因なので、何とか、治したいらしい。そこで、巨泉さん、コメンテーターの癌研有明病院JF先生にいろいろと質問した。ピロリ菌の感染ルートを尋ねられた彼女は、キスで伝染するとコメントした。つかさず、大橋巨泉さんが「僕は、ワイフと毎日しっかりキスしているが、彼女はピロリ菌除菌に成功したよ。」と突っ込みを入れた。番組ではすぐに茶々が入り、結論でなしで、話題は次に移っていった。私の2500例を超える臨床経験でも、キスでピロリ菌は伝染しない。巨泉さんの突込みが正しいのである。JF先生の名誉のために言っておくと、研究初期には、確かにピロリ菌患者の口腔内から、ピロリ菌の性質を持った菌が見つかるという報告があるにはあった。しかし、人間は、歯を磨いたりアルコールを飲んだりして、ピロリ菌は口の中では極めて生存しにくい。


 では、ピロリ菌の感染ルートは何かというと、土である。土の中には、ピロリ菌が丸く小さくなって(コッコイド型)になって、冬眠しているのである。これが、ゴキブリやハエにつき、最終的に、食べ物などに付いて胃に入ってくるのである。胃に入るとピロリ菌は、鞭毛を広げて、ヘリコプターのような形になって、増殖するのである。(この形からヘリコバクターと命名された。ちなみに、以前は、キャンピロバクター・ピロリと呼ばれていた。)


  私の臨床経験では、歯を磨いたり、アルコールを飲んだりしない、「犬」とキスする、ご婦人方の除菌は必ず失敗した。犬は、土でもどこでも舐めるのである。

最後にもう、一言、ピロリ菌に感染したときの胃癌発生率が1%以下とJF先生は述べていたが、これも間違いで、一生を通じてみると、13%ないし18%ぐらいである。今の日本は年間100万人死亡する人がいて、ピロリ菌感染率が6-7割で、年間約10万人が胃癌になるのである。内、5万5千人が胃癌で死ぬ。


  テレビは大きな影響力を持つので、内容の間違った健康番組を垂れ流すのは、殺人にも等しい。わからないことは、せめてわからないというのが、科学者の掟であろう。プロデューサーも襟を正して品位のある、内容も十分吟味した番組を作るべきである。