4月14日から16日まで、内科学会が横浜国際会議場で開かれた。分子標的療法のシンポジウムがあった。今回、話題となった薬は、抗TNF-α抗体(レミケードなど)、抗IL-6抗体、抗CD20抗体などである。抗TNF-α抗体はリウマチ様関節炎、クローン病に著効し、抗IL-6抗体は、キャッスルマン氏病、リウマチ様関節炎、若年性特発性リウマチ様関節炎、クローン病、などに著効することが示された。また、抗CD20抗体は、 B細胞性リンパ腫をはじめ、一部の多発性骨髄腫やSLE(全身性紅斑性狼蒼)などに著効を示していることが報告された。その効果は顕著で、従来のステロイドや免疫抑制剤治療に 比べて、大変優れた効果を示していた。その優れた効果と病気の初期に効きやすいという特性から、アメリカでは、これらリウマチ系の自己免疫疾患に対しては、安い薬から順に使う (ボトムアップ)のではなく、効果の強い分子標的療法薬をはじめから使う(ヘッドダウン)の投薬法が提案されている。リウマチ様関節炎・SLEはステロイドで上手に管理する病気から、 分子標的療法で完全に治ってしまう病気になった。シンポジウムの終わりに、座長は「パラダイムシフトが起こった。」と表現した。


 私が大学卒業後に最初に研修したのは、東京大学附属病院物療内科であった。物療内科(今のアレルギー・膠原病内科)には多くの難治性の患者さんが入院していた。中でも、若い女性が罹患するSLE、しかもSLE脳症は悲惨であった。SLEとは、紫外線を浴びた皮膚が赤く変化する病気で、顔に蝶形紅斑がでて気づかれることが多い。関節痛や発熱、腎炎、脳炎などもおこる難治の病気で、患者さんたちの人生は破壊され る。病気の本態は、原因不明の抗体産生の異常亢進で、Bリンパ球系の病気である。CD20は前Bリンパ球に出現する分子で、これを攻撃することで、異常なBリンパ球が正されるという。 したがって、理屈からいうとBリンパ球を病気の本態とする病気では、病気が簡単に治る可能性があるということである。報告では、SLE脳炎が見事に治癒した症例が2例示されていた。私は、22年前の研修医のころを思い起こした。あのころ に、この薬があったら、助かったはずの若い娘さんたちの顔が自然と瞼に浮かんできた。彼女たちのSLE脳症は治癒せず、文字通り、かわいそうな人生であった。合掌。