たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

サンディエゴ

米国DDW サンディエゴで開催される 

 5/19午後0:00に学会場に到着。ポスター、主に工藤進英教授の教室の一連のポスター発表を見て、4:00から
New Technology for the Therapeutic Endoscopy
に参加したところで、珍事は起きた。これまで何回も、いろんな国で学会には出ていたが、こんなことは初めての出来事であった。最後から2人目のプレゼンター(Endoscopic Visualization of the Entire Small Intestine in 27 Consecutive Patient Using Novel Motorized Spiral Endoscope | 285 |  Paul A. Akerman)が螺旋型小腸内視鏡を発表を初めて5分ぐらいのとき、がっしりとした感じのアフリカ系アメリカ人(真黒な黒人)が、演台につかつかと歩み寄って発表者に何やらぶつぶつと迫った。ちょうど、新しくバージョンアップした螺旋型の内視鏡を人体に初めて適用した結果を述べているときだったので、その実験台にされてトラブルが起きたのかととも思った。そして、Akermanがアフリカ系アメリカ人(真黒な黒人)に対して「yes」と言ったかと思うと 、黒い人はよくわからない英語で演説を始めた。すぐに若い白人の女性のスタッフが駆け付けたが、演説は3-4分続いた。若い白人の女性のスタッフはアフリカ系アメリカ人を興奮させないように注意しながら、「出て行きましょう」と促していた。しかし、アフリカ系黒人はその場にとどまり、ついに、「もう時間がありません。私は90ドル払わなければ、牢屋に入れられる。」この言葉を何回も繰り返しはじめた。


 物乞いだったのだ。


 次の発表者(Gastrointestinal Tissue Sampling With Endoscopically Deployed and Retrieved Sub-Millimeter Wireless Microtools 5:00 | 286 | )  Florin M. Selaru1が、いくらか渡した。かえると思いきや、さらに数分粘った。結局それ以上暴れなかったので、警察も呼ばれず、終わったが、セッションの時間が短くなって、2人の演題の質問と討論の時間が省略された。日本でもアメリカでもヨーロッパでも、中国でもタイでも韓国でも台湾でもチェコでもロシアでも、こんなことはなかった。ちなみに、サンディエゴの町には物乞いがあふれていた。アメリカはプロテスタントの国(労働で生きる国)とおもっていたが、カトリック的な国(施しで生きる国)に変貌しているようだ。


 ちなみに、螺旋形内視鏡は、バージョンアップして、ドライブ部分をモーターにして分離していた。約半分の症例で、平均20-30分でほぼすべての小腸が観察できたと報告していた。発表に誇大がなければ、現在のバルーン小腸内視鏡は半分見るにも90分ぐらいかかるので、ひょっとすると螺旋形小腸内視鏡は今のバルーン型小腸内視鏡を凌駕するかもしれない。

 

 5/20 今日から企業の展示ブースが開いた。アメリカでも Fujinon の名前が消えて、今年は、Fuji Film となっていた。1998年に私が撮ったEC485ZWによる色素拡大内視鏡の写真が今年もブースに使われていた。当時の担当者は誰も残っていないけれど、この2枚の写真、よっぽど気に入られているようだ。クリスタルバイオレットとメチレンブルーの二重染色であるのだが、この画像当時は何を意味するのかよくわからなかった。しかし、今の目で見ると、腺管の形や核層の厚さが明瞭に観察され、間質に浸潤している白血球と思われる細胞の核も明瞭に見えている。また、焦点深度が今のEC590zwシリーズより深いので、全体的な拡大観察にも成功している。たしかに素晴らしい画像だ。


 ちなみに、画素数は85万画素(画像解析で130万画素表示)で史上最大の画素数を搭載した内視鏡であった。14年前は記録媒体も乏しく、この画像と動画を残すのに、画像を4台のコンピューターに分けて記録し、さらに再合成をするという手間がかかった。プロセッサーの処理能力は当時は低かったので、画像は15秒に一こま。したがって、ちらついて、臨床的には辛かった。この内視鏡があまり売れなくて、当時のM社長が突然解任されて、このスコープの次もなくなったのであるが、最近のプロセッサーで見るとちらつきもとれていて、すばらしい絵が出る。

 

 5/21 10:00からのAGA Presidential Plenary に参加。冒頭のPresident's Announcement (by Prof C. Richard Boland) を聞いていると、アメリカで行われている医療改革に、現場の医師は反対のようである。会場の大画面に氷山に向かうタイタニック号のスライドを表示しながら、Prof C. Richard Boland会長は「医療は危機に向かっている。この改革は涙なしでは語れない。危機に向かっている中で、われわれは一致団結しなければならない。団結してわれわれの意見をワシントンに届けよう。」と訴えていた。


 また、同じPresidential Plenaryセッション How will we prevent colorectal cancer in the future  において、Prof Dennis J. Ahnen はここ20年ぐらい、アメリカでは大腸癌の死亡者数は減ったが、これは、われわれが大腸内視鏡を行いポリープをとってきたからだと述べた。


いいニュースです。(つべこべいわないで)私たちがすること(大腸内視鏡検査)はよくみえるでしょう。


 確かに、このスライドは説得力がある。1975年にくらべて2010年では大腸癌の訂正死亡率は約半分となっている。また、大腸内視鏡によるスクリーニングの実施割合が、対象年齢のなんと65%もあるのだ。スクリーニング法として、日本ではずっと便潜血が採用されてきた。国立癌研究センターの疫学部門のお偉いさんは、免疫学的便潜血反応の開発者で、この間も日本の学会で大腸内視鏡検査は大腸癌死亡者数を減らすには無効で、大腸癌死亡者数を減らすには便潜血しかないようなことを言っていたが、彼はこういうデータをまったく勉強していないのであろうか。


 私は、便潜血陰性なのに進行大腸癌で死んだ人や便潜血反応が陽性となって大腸癌が見つかったが病状が進み過ぎていて、死んだ人々を何人も見てきた。私は1996年の厚生省の班会議のメンバーの一人であったが、その時、既に便潜血反応の限界は指摘されていたはずだ。大腸内視鏡検査にもっと重きを置いていれば、日本の大腸がんの死亡者数も今の半分になっていただろうと思われる。二万人/年×20年÷2=二十万人。これが、政策間違いによる大腸癌死亡者数のおおよその数字である。

「ポリープ(平坦陥凹型腫瘍も含む)を取れば大腸癌は発生しない。」「大腸ポリープ(平坦陥凹型腫瘍も含む)をすべて取るべきだ。」


 この理念を捨てて、私に社会的圧力を加え始めたときに、厚生労働省の役人は二十万人を密かに殺しはじめていたのだ。このことが、このアメリカのデータをみれば、明らかにわかる。世界に冠たる医療体制と、野田首相は胸を張る。しかし、「癌の罹患者が65万人で死亡者が34~35万人」という日本の現実は、とても世界に冠たるなどという言葉は使えず、知識と知恵に基づいた、不断の改善努力を迫っているのである。

 

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アメリカ合衆国サンディエゴ消化器病週間 San Diego DDW (digestive disease week)に参加 第4日目 

サンディエゴ観光 など 

  午前中は、ASGEのまとめのセッションに参加。21年前に私が日本で考案して実用化した、水浸挿入方法が、アメリカ流にRCTで大真面目に評価されていたのにはびっくり。結果は従来方に比べて優秀という結論であったが、今頃になって評価ですか?!と複雑な気持ち。引用文献には私の名前は無かったのは残念。開発当時、英語の論文を書かなかったのでしかたないか・・・。


 3日間半もまじめに学会に参加し、少し疲れたので、午後からはサンディエゴ観光に出かけた。晴天で初夏の風が爽快。2000年と大きく違っていたのは、空母ミッドウェイが、老朽化のため現役を退いて、港に係留されて、博物館として公開されていたことだ。空母ミッドウェイは、負けしらずの空母で、アメリカ海軍栄光の象徴でもある。作戦司令室では、2003年3月イラクのバクダットを攻撃したときの様子が再現されていた。サッカーコート3面分の甲板には今までの戦闘機が所狭しと載っている。管制塔に登って、操舵室に入り、舵をまわしてみた。


 つい2-3年前まで現役で働いていた空母を公開するなんて、アメリカ海軍は無敵の余裕だ。管制塔から降りるとき、ベランダが激しく錆びていた。なるほど、無敵艦も「老い」には勝てなかったというわけかと妙に納得した。

 

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アメリカ合衆国サンディエゴ消化器病週間 San Diego DDW (digestive disease week)に参加 第2日目 

爆発事件?事故?学会場が大きく揺れる。進歩する学問と技術 大腸用カプセル内視鏡、逆行観察用細径内視鏡、virtual colonoscopy など
 

  サンディエゴはからりと晴れ上がり、強い日差しの一日であった。お昼時、展示ブースめぐりをしていたときに、ドカンと大きく学会場がゆれた。消防車が学会上の前をけたたましく何台も走り抜けた。何事かと思っていたら、約1時間して、講演の最中に全館放送が流れた。「学会場の東方で問題があったが、避難する必要はありません。」 放送のたびに、講演が何度も中断された。ここ10年ほぼ毎年、学会に来ているが、このような出来事は始めてである。「テロかな?ガス爆発かな?」と思っていたが、学会は、放送による中断があっただけで、ほぼ無事に進行した。


 2-3年前から、大腸用カプセル内視鏡が開発されているのだが、その臨床的評価が発表されていた。まず、一番の問題点は、大腸は停滞時間が長いので、電池切れになって全大腸が観察できないのである。1-2割は下部大腸と直腸が観察できないらしい。腸の動きを早くするために、いろいろな工夫がされていたが、さらなる工夫が必要であろう。また、1cmを超える大きなポリープでも見落としがあり、全体としての大腸ポリープに対する感受性も8割ぐらいで、今のままでは、大腸ポリープのスクリーニングには、少し限界があるように感じられた。しかし、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の評価には、十分使用できそうである。


 大腸内視鏡観察は大腸ひだの裏が見落としやすい。そこで、内視鏡先端に透明なキャップなどをつけ、襞を押さえつけて、裏側を見たりするのであるが、Advantis Medical System 社から、鉗子孔から挿入できて、Uターンのできる画素数320*240の直径約3mmぐらいの内視鏡が開発されていた。反対側から襞の裏を見ようというわけである。この製品はこれからの臨床評価であろう。


 また、CTによる大腸表面の画像化技術(vertual colonoscopy)も電子機器と優れた画像処理プログラムの向上により、かなりの所まできていた。

夜は、普段会えない先生方や日本人関係者と会食して、情報交換。

 

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アメリカ合衆国サンディエゴ消化器病週間 San Diego DDW (digestive disease week)に参加 

第1日目 進歩する学問と技術 テロメラーゼ阻害剤、超細径内視鏡 SFE (scanning fiber endoscope)、硬度表示エコー、NOTESの標準化、内視鏡による消化管壁の縫合技術の評価などなど 

  サンディエゴを訪れるのは、2000年以来、8年ぶりだ。前回は、今は神保町で開業している末岡伸夫先生と一緒に、バレット癌の色素二重染色による拡大内視鏡診断をポスター会場で発表して、一日中、質問者が続くほど、大変注目された。私の開発した染色システムで撮影した色素拡大内視鏡のバレット癌の写真を、スタンフォード大学の消化器病学の教授が、卒業後教育の教材として使いたいと、申し出があったほどであった。最近は、いろいろな問題に煩わされているので、研究に割く精神的ゆとりがないため、今回は残念ながら特に発表はないが、発表がないのは、かえって落ち着いて、多くの発表を聞くことができて、気楽で楽しいものである。

 アメリカの消化器病週間に来ると、ここ2-3年、必ずサプライズな発表がある。今回は、直径1.2mmの操作型ファイバー内視鏡=SFE (scanning fiber endoscope)であった。米国で既に試作機ができて、臨床試験が終わっていたのには、びっくりした。画像もまずまずで、Eric J. Seibel先生いわく、「目を持ったガイドワイヤ」(guide wire with eyes)ということらしい。直径1.2mmという細さも凄いのであるが、これからは1mmを目指すという。この技術はさまざまに利用・応用されることになるだろう。


 それほどではないが、次に、驚いたのが硬度(=軟度)を表示するエコー画像処理システムである。硬い軟らかいは、触診と同じで,臨床上重要であるのは明白であるのだが、膵臓がんや転移性肝臓がんで このシステムによる画像が、がんの存在診断に特に有効であった症例が2-3示されていた。まだ、いろいろと技術的な問題があるようであるが、近いうちに臨床に供されるのは間違いあるまい。


 去年、びっくりしたNOTESであるが、今年は各国から237題もの発表がある。今日は、ドイツから人型練習モデルまでが発表されていた。海外では標準化が近いのである。腹腔内の細菌感染の問題や、胃壁の縫合操作の問題についても、基礎的な発表がなされていた。腹膜炎の問題について、開腹手術と経胃腹腔鏡で、腹腔内汚染があまり変わらないとする発表があった。また、消化管壁縫合技術面では、開発されている縫合技術7つのうち、4つが手縫いと同じ縫合力があるとの発表もあった。私が1999年に始めて報告し、私自身が今でも行っている「クリップによる消化管壁穿孔縫合」も、手縫いとほぼ同等の縫合力という評価であった。(確かに、だから、私の直腸ー尿道漏の縫合がうまくいくわけである。高い縫合力を得るにはそれなりの「こつ」がいるのではあるが・・・・。


 その他、前から報告のあった、テロメラーゼ阻害剤が、第3層試験を終了しそうで、もうすぐ、脳腫瘍グリオーマの治療薬として臨床に出てくる?という。また、テロメラーゼに関連したところでは、肺線維症が挙げられてていた。テロメラーゼ活性が先天的に低めの人に喫煙などの悪化因子が加わって、発生しやすい ことが、ここ1-2年わかってきたようである。抗がん剤としてのテロメラーゼ阻害剤だけでなく、老化や老化に関連した各種疾患治療を目的とした、テロメラーゼの活性剤やテロメラーゼアゴニストの研究も、今後、大きなテーマの一つとなりそうである。

 

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