小腸内視鏡として開発されたダブルバルーン内視鏡は、挿入困難な大腸にも応用できる。そこで、FTS(フジノン東芝システム)から、大腸用のダブルバルーンが開発されている。今週は、その試作機(EC450B15)を借りる機会を得たので、毎年、挿入の難しい症例2例を呼び出して、試してみた。また、たまたま、診察に来た、大腸内視鏡の草分け的名手、新谷弘美先生が、挿入できなかった症例にも、使用してみた。

 

 大腸内視鏡が盲腸、終末回腸まで挿入される率というのは、内視鏡医の技術を評価するひとつの目安である。私の評価基準は95%の挿入率で、初心者終了。98%の挿入率で、並みの大腸内視鏡医、99%で上手な大腸内視鏡医、99.75%で、大腸内視鏡の準名人クラス。99.9%で、大腸内視鏡の名人クラスと考えている。ちなみに、私の最近の挿入率は99.83%ぐらいである。

 

 大腸内視鏡挿入困難な症例は、昔(現在の80~90歳代)は、結核による腹膜癒着症例が多かったが、最近(現在の60~70歳代)は、大概、手術後の癒着による、腸管の不都合な癒着によるものである。その他には、腸管回転異常による、先天性奇形というのもある。

 

 今週集まった、大腸内視鏡挿入困難例は、すべて、術後の癒着症例である。胃癌による胃切除例が一例。この例は、横行結腸の中央部が周囲と強く癒着している。二例目は、3回開腹した症例で、s状結腸と横行結腸と盲腸が広い範囲で癒着している。また、新谷弘美先生が挿入できなかった第3の症例は、s状結腸が長い上に、胆嚢切除を行っていて、横行結腸の右半分と上行結腸が強く癒着していた症例である。

 

 1例目、通常の大腸内視鏡(EC590ZW5)を用いると、例年、ぎりぎり入ったり、入らなかったりであった。盲腸まで挿入されても、癒着のため、スコープが固定されて、観察がかなり障害されていた。この症例は、ダブルバルーン内視鏡を用いても、挿入はきわめて難しかったが、何とか挿入には成功した。観察は、ダブルバルーンのほうがうまくできた印象があった。

 

 また、第2例目は通常内視鏡でも、ほとんど、挿入できていたのだが、かなり時間がかかっていた症例である。ダブルバルーンで挑戦してみたところ、理屈どおりに、すいすいとは進まず。引いての直線化ができないので、結局、オーバーチューブをスライディングチューブのように使用して盲腸まで挿入成功。残念ながら、かなり時間を要した。

 

 最後の、新谷弘美先生挿入断念例であるが、まずは、通常のスコープでトライ。肝わん曲部での癒着が強力。一日多数例を行う忙しい新谷先生が断念したのも理解できた。そこで、件のダブルバルーン大腸内視鏡を使用。しかし、残念ながら、やはり、癒着が強力で、引いても直線化ぜず、腰が弱くてダブルバルーンでは挿入できなかった。

 

 そこで、腰の強いプッシュ式の小腸内視鏡EN410CWを取り出して、挿入を試みた。EN410cwは長い上に、先端周辺の腰が強く、アングル捜査の追随性が優れている。いわば、私の秘蔵の内視鏡である。この挿入困難例でも、アングル操作で、癒着部を見事に突破できた。ちなみに、この小腸内視鏡EN410cwは、FTS社がダブルバルーン小腸内視鏡を開発する前に、私のアドバイスで作成された内視鏡で、私にしか売れなかったようで、世界に一台だけらしい。

 

 大腸内視鏡挿入困難例3例中、2例に成功したものの、ダブルバルーンの操作は煩雑で、手にかかる力も強く、疲れるので、私は好きでない。また、画像も焦点が近接ではなくピットパターンが見えないので嫌いだ。ちなみにEN410CWはピットが見えます。洗練された挿入システムの開発の必要性を痛感した一週間であった。

 

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