第66回 日本癌学会学術総会が、学術会長、鶴尾隆、癌研癌化学療法センター所長のもと、2007年10月3日から5日まで、パシフィコ横浜で開かれた。去年の癌学会と違って、今年は、基礎系に重点を置いた企画が多かった。 約2000題の発表・講演があり、癌に関する情報は、幾何級数的に増大していて、治療の試みもどんどん進んでいるなあというのが実感だった。

 

 特に、岡山大学の藤原俊義先生(岡山芳泉高校の後輩)のがん治療用にデザインしたアデノウィルス「telomelysin」が面白かった。ほかにも、DNAキメラmiRNAやエーザイ や協和発酵の抗がん剤も面白かった。東京大学医科学研究所の中村祐輔先生の癌免疫療法の講演も彼らしく力が入っていた。 日本にも、結構、可能性のある、がん治療デザインがいくつかあるのである。彼らの講演を聞いていると、「癌克服はそう遠い未来ではない。」と感じてしまうほどだ。

 

 日本は、国際的に見ると、少ない予算の割りに、基礎的がん研究に優れている。しかし、それを、ベッドサイドへ持っていく仕組みがな い。新たな薬は、日本ではなく海外でまず、臨床応用がされている。上記の興味深い治療法も開発段階でほとんどがアメリカがらみである。研究をしているのは日本人なのに、恩恵を受けるのはまず、アメリカの人々なのである。これが問題になっていた。 従来の、日本における、薬を商品化するシステムには無駄が多く、コストがかかるため、皆が日本を避けて、アメリカへと進んでいった。それで、今や、日本には、薬を商品化するシステムが なくなったという。

 

 そういう事情を踏まえて、今回の学会では、研究者に抗がん剤開発の社会的仕組みを教える企画があった。癌新薬開発ヴェンチャービジネスの社長や、大手薬屋さんの社長さんが出てきて、抗がん剤の開発の実態が語られ、研究者に社会の仕組みを教え たのである。従来にはない目新しい企画 で、感心した。研究成果を癌退治につなげる社会的な仕組みを理解することは、学者にとっても社会にとっても、癌が治せる可能性が上がるわけだから、確かにとても大切なことだ。

 

 今の日本で、学者が研究成果を薬にしようと思うと、ヴェンチャーキャピタルを利用することになるのであるが、日本の癌新薬関連のヴェンチャー 企業は、17-18あるが2つを除いてほぼすべて収縮しているという。一方、アメリカでは膨らむものと収縮するものが半々だそうである。講演したヴェンチャー社長曰く、「これを言ったら 身もふたもないのだが、アメリカの癌新薬開発ヴェンチャービジネスへの投資家は、皆、財をなした半端でない大金持ちで、 投資家自身が癌を治そうという強い信念を持っていて、成果が出るまで待てる。」のだそうである。日本には、やっぱり 、理念のある半端でない大金持ちが居なかったのか?!