大腸癌に罹った人は、胃癌を併発しやすく、胃癌に罹った人は、大腸癌をよく併発する。だから、大腸癌の手術前には、上部内視鏡検査を行い、逆に、胃癌の手術前には大腸内視鏡検査を行って、大腸癌の併発がないか調べるのである。大腸に腺腫(前癌病変)がある人は、大腸腺腫がない人に比べて、大腸に限らず、全身どこの癌も発生しやすい。一回癌になった人は、しばらくすると 、その他の場所にも癌が出やすい。したがって、癌に罹った人は、別の場所に、癌が重ねて出てこないように、十分注意しなければならないのである。


  私が診た患者で、一番の多重がんは、カルチノイド腫瘍(大腸癌の一種)が、直腸に46個以上、異時性異所性に、多発した人である。第2位の多重がんは転移を繰り返しながらもすべて、早い段階での発見により外科的切除が行われて、いまだに生きている、大腸癌2個ー肝臓癌ー肺癌ー食道癌という人 である。そのほかに、大腸癌ー胃癌ー前立腺癌。乳癌ー胃癌ー肺癌。大腸癌ー食道癌ー肝臓癌。食道癌ー大腸カルチノイドー十二指腸癌。異所性異時性に、食道癌ー食道癌ー食道癌ー食道癌。また、大腸癌を6個同時に異所性に発見といった症例もある。奇妙な言い回しであるが、何回も癌になる人は、幸運である。なぜなら、癌に何回もなれるということは、前の癌で死ななかったからこそ、次のがんに罹患 できた?のである。3回以上の癌に罹った患者さんたちは、実は、ほとんどが生き延びている。


 私の経験のうち、死んだのは、乳癌ー胃癌ー肺癌の一人だけかもしれない。この人は、 大腸腺腫が合計30個程度あった。家族歴にも癌が多数あり、明らかに癌体質であった。2発目の胃癌は、内視鏡で発見され、内視鏡で切除できた。この方はヘビースモーカーであった。私は、癌体質だから、たばこをやめないと肺癌になると、説得し続け た。普通、癌になっていると、忠告するまでもなくたばこを止めてくれるものであるが、この人は、しかし、「社会的ストレス回避」といって、たばこを止めなかった。そして、9年目に ついに肺癌が発生して、 骨転移・脳転移と壮絶な2年間の闘病の末、お亡くなりになった。自分は癌になるはずないと無防備な人に、症状が出て癌が発見されるような場合、7割ぐらい死ぬ。仮に、運良く3割に入っても、2発目がその5年後くらいに来て、さらに、無防備のままだと、ほとんど が2発目の癌で死ぬ。「がん患者」という語句の響きのとおり、不幸を味わうことになる。ちなみに、膵臓癌の致死率は高く、この癌は、異時性の多重癌を許さない。


  癌が見つかった後、きちんと消化管ドックを定期的に受けている方々は、大腸癌・胃癌・食道癌が見つかっても、ほとんど が内視鏡的に完治している。私は、大腸に腺腫や癌が多発したり、胃癌・食道癌を内視鏡で取った患者に対しては、必ず禁煙を勧めている。しかし、先の症例のように、癌体質なのに、「たばこやめるくらいなら死んだほうがまし」とか「たばこがないと社会のストレスは乗り切れない」とか、私の前では「わかりました」と応えて、たばこのにおいが消えない人は、せっかく、内視鏡で助けても、5年後10年後には肺癌で死んでいる。消化管の癌をできるだけ早期に見つけて助けようと必死になっても、禁煙してもらわなければ、「ざる」なのだ。たばこ が止められなくて、肺癌で死んでいった方々の顔が次々と思い浮かぶ。死に際しての、家族の涙の表情が思い浮かぶ。


  たばこは販売禁止だ!。