5月20日から5月25日までロスアンゼルスで米国消化器病週間(DDW)が開催された。5月のロスアンゼルスは、からっと晴れ上がって、素敵な青空であった。私は、去年の秋のコペンハーゲンと同様、色素拡大内視鏡による核診断について発表した。最新型の拡大内視鏡を用いると、核が見えること。さらに、その所見からの大腸腺腫と大腸癌の鑑別診断が、よくできることを発表した。聴衆の反応は、予想よりも好評であった。


 ところで、今回の学会で、内視鏡について主に話題になったのは、診断や治療に関する、新たな、さまざまな道具である。大腸内視鏡挿入については、気体で大腸を膨らませてプロペラで入っていくエアロ内視鏡や、先端につけるキャタピラ型内視鏡、硬化と軟化が一瞬で変えられて、形態が自由に固定できるスライディングチューブなどの発表があった。診断面では、カプセル内視鏡の更なる進化(前進後退、旋回運動の遠隔操作、食道観察、胃観察、大腸観察)やその臨床応用の結果が、数多く発表されていた。また、DBE(ダブルバルーン内視鏡)、コンフォーカル(confocal)内視鏡(=共焦点式レーザー内視鏡)、NBI(峡帯域強調画像)とAFI(自己蛍光画像)の更なる進化と臨床応用結果が数多く発表されていた。また、ラマンスペクトルによる特殊生検カンシの開発も初めて発表されていた。治療面では新型カンシ様ステイプラーや各種縫合装置による全層縫合の進化と、それに伴う、各種臨床応用の報告のほかに、経消化管的腹腔手術の動物実験も報告されていた。


 癌予防薬については、NO-NSAID(一酸化窒素付加非ステロイド抗炎症剤)の有望な実験結果が示されていた。ちなみに、ここ数年、力が入れられていた、CoX2阻害剤は治験の段階で、心不全の頻度が増加するということで発売取りやめとなり、NOが付加されたようだ。それで返って、より強い癌予防効果を持つかもしれない薬にたどり着いたようだ。米国の研究の方向性は、日本消化器内視鏡学会とはかなり異なっていた。


 最後のアメリカ消化器内視鏡学会会長(任期一年)の演説では、今後の消化器内視鏡を取り巻く、医療環境が述べられた。消費者のニーズを超える技術の開発は、消費者の 支持を受けないで廃れていく。30年前、トヨタの車はぼろで、ニーズに追いつかない代物であった。GMは30年前いい車を売っていたが、、その後、消費者のニーズを越える、性能がいいのだが高価な車を作ってしまい、ちょうど消費者のニーズに合う、それなりの価格の車(レキサス)を売るようになったトヨタに、今現在、負けている。内視鏡業界も消費者のニーズを越える余分で高価なことを戒める必要があろうと、コメントしていた。演説の最後に感極まって、涙をぐっとこらえて、声が何回も裏返っていたのが印象的であった。まじめで熱いのだ。また、アメリカは日本も含めて世界に負けないのだという意思を感じさせた演説でもあった。