たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2014年11月

甘利明 健康・医療戦略大臣に 胃がん検診の改革とピロリ菌予防法の策定を進言

 11月初旬、相模台病院の山上松義会長のお計らいで、甘利明先生との会食の機会があり、1時間半にわたり、胃がん検診の改革とピロリ菌予防法の策定の重要性を進言した。来年度の胃がん検診は、バリウム検診からハイリスク検診へ、学問的によりまともなものに改革されるだろう。
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荒川区長、西川太一郎先生の医療費適正化の御講演を聴く

 東京のここ2-3日は寒くて12月中旬の寒さだが、暖かい部屋で食べるアイスクリームはまた格別。

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 今週は11月13日の木曜日、定例の志帥会で、医療費適正化に関しての荒川区の取り組みとその成果について、西川太一郎荒川区長のご講演があった。

#1 ジェネリックの医薬の促進(区から患者へ電話や手紙で勧誘)
#2 糖尿病患者への栄養士・保健士による直接の生活食事指導(糖尿病から透析となり、医療費が増える)
#3 複数の同系統・医療機関の掛け持ち受診者へ、保健士の派遣して、受信先をひとつにするように勧める。

 レセプトが電子化されて、患者データが簡単に手に入り集計できるようになったことで、個別に
これらの取りくみがどれくらい効果があるかすぐにわかるそうだ。誰がどういう治療を受けているか、
簡単にわかるからである。

#2、#3については、病気を減らして医療費適正化ということで、異論のないところである。

さて #1についてであるが、
荒川区の実績から、#1を全国に広めると、年間1600億円の医療費が浮くという。「国会議員の皆さんも、それぞれの選挙区での財政再建のためには、これらの策を参考にしてください」とおっしゃった。

#1について、ご講演の中でも述べておられたが、医薬品業界を中心に若干の異論もある。講演は15分と時間の制約があったので、そのあたりの事情を詳しく述べておられなかった。その辺を少し補足したいと思う。

 近年の薬の開発は国際競争が大変熾烈で、いまや日本勢は劣勢である。ここ10数年、抗体医薬品の開発に遅れて、今年の抗体医薬品の輸入額は約1.8兆円前後になっている。節約した1600億円が研究開発費の元手だったとしたら・・・・・。見掛け上の成功が、長期的には自分たちの経済を弱めている可能性がある。「収縮均衡」つまりは「デフレ」。この10数年日本経済が直面してきた問題だ。

 区の予算だけ見ていると「医療費適正化」は議論の余地のない「錦の御旗」だが、国全体からみると景気、経済の点でなかなか微妙な問題がある。区の赤字は、東京都からの支援もある。(東京都は黒字団体)
ジェネリック化の徹底をあまり激しくやらないことにも、次世代への投資としての「理あり」というわけである。

 TPP交渉では、フローマン(アメリカ交渉代表)は特許期間25年を主張して譲らない。日本の医薬品特許は15年。つまりジェネリック薬は日本では15年目から作れる。しかも、医薬品の値段は厚労省が決めている。すべては政治問題・・・・。病気が治るように、経済が冷え込まないようにしたいものだ。

 高齢化社会の日本で、医療はGDPの15%程度。今後ますます増加すると予想される。医療は単に医療というだけでなく、成長戦略の一環としての4本目の矢なのですから・・・・。

西川荒川区長志帥会講演資料20141113
 




食道がん術後、難治性食道狭窄患者 治療費の強烈な査定で、クリニックは医療崩壊寸前

 以前のこのブログで、食道がん手術の後、吻合部が離開して、線維性狭窄をきたした症例を2例 紹介した。
http://tabuchimasafumi.doorblog.jp/tag/%E9%9B%A3%E6%B2%BB%E6%80%A7%E9%A3%9F%E9%81%93%E7%99%8C 後輩が勤務する大病院で手術したあと、胃と頚部食道の吻合部がかい離、線維性狭窄をきたした2例である。
  
 バルーン治療でも一切治らず、食事がまったくできなくなってIVH管理。再手術など癒着が厳しくてとてもできない。すっかり困り果て、後輩は、私なら何とかしてくれるのではないかということで2人の患者を送り込んできた。1人は6cm、1人は2cmの完全線維化狭窄。私の得意の内視鏡で何とかならないかというわけだ。

 ともに、周囲の大動脈などの重要血管に当たらないように注意深く、APCで食道トンネルをほった。そして、カバーステントを留置して、なんとか治療に成功。ふたりとも、飲めもするし食べることもできるようになった。2人とも多いに感謝してくれた。(ここらあたりまでは、以前のブログに書いた。)


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2回目に駆け込んできたときの深夜の緊急内視鏡像。狭窄部は直径約1mm-1.5mmで水もほとんど飲めない状態。



 しかし、吻合部狭窄を起こすのは血流が十分回復して来ないことが主因と言われている。バルーンで十分拡張しても、留置ステントが脱落すればい10日で狭窄となった。しかし、他によい方法が報告されていなかったので、ステント脱落と留置を繰り返しながらも、上皮の張るのを根気強く待った。結果、6cmの方はかなり良くなった。一年弱、ステントなしでも食事が満足に通過するようになったのである。
 
 一方、2cmのほうは、ステントが簡単に落ちてしまうので、上皮がなかなか張ってこず治療が長引いていた。食道狭窄拡張とステント留置を何度も繰り返した。狭窄症状は食べ物が詰まったりすると急激に出現してしてくる。よって、緊急内視鏡検査を実施して、適応ありと判断して深夜の緊急の手術となることが多い。飲めない食べられないとなると、深夜でも、スタッフ集めて緊急内視鏡だ。

 2cmの狭窄だった人は本年4月に、2週間開けて、2度の狭窄発作をおこした。よって深夜に二連のバルーン拡張とステント留置術を行って規定通り約75万円を請求したのであるが、半年経って、昨日レセプト査定内容がかえってきた。深夜加算と2連目の拡張術はすべて認められず、約75万円の請求が50万円の減額処分をうけて約25万円しか認められなかった。がっくり。

 バルーン拡張は一連のものは1回しか請求できないというルールがあるので、それを適応したらしいが、査定には詳しい理由の記載はない。4月の場合は、一度改善して退院。その後再び悪くなっているので、この二つの手術は一連ではない。その辺の事情は請求書に書いたのに・・・・・・。バルーンは、一本12万円前後ステントは10万円ぐらいで、原則使い捨て。スタッフのことを考えると、はっきり赤字だ。

 うちの30年来のスタッフは、「こんなに苦労して、寝る間も削って治しているのに、こんな査定を受けるなんて、とんでもないわ、もうやってられない」と怒り心頭に達している。

「「詰まった。飲めない・食べれない。」と患者が駆け込んできても、もう、うちでは治せないと治療拒否しましょう。」

 彼女がいなくなると私も1人では内視鏡ができないので、「まあまあ」となだめているが、経済的にも精神的にも医療崩壊だ。国保の査定の先生の責任は重大だ。

 国保の審査委員に皆さん、担当者が目黒区医師会の方か、東京都本部の方かどなたかは存じ上げませんが、現場で必死で頑張っている医療スタッフの足を引っ張らないでください。

 ところで、ちなみに、今年の5月アメリカのDDWで、食道がん術後の難治性の食道狭窄の治療のセッションに参加。全世界でこの問題に直面している医師が集まっての会合た。ディスカッションの中で、ステント留置の秘法を聞いてきた。6月にその方法を行って以来、2cmの方のステントは簡単に落ちなくなった

 食道がん術後の難治性の食道狭窄にお困りの方は、保険の適否は別として、治せるかもしれませんので、ご相談ください。

 (学会参加の旅行がまるで紀行文みたいという影の声がありましたが、学会にもちゃんと出ていますよ、タケシさん)


 
 

 



ビッグデータと医療

本日、NHKでビッグデータと医療という番組をしていた。
「患者を救う大革命」と銘打って以下の題材を紹介していた。

#1 新生児の感染兆候を酸素飽和度と脈拍で知るーアメリカ 
#2 インフルエンザの流行をyahooの検索ワードで知るー日本
#3 前立腺手術と在院日数は「痛み」の解決がポイントー日本
#4 病棟の転倒予防対策:病棟ごとに危険時間帯のちがいがあり、職員の配置の工夫を ー日本
#5 喘息と発作の場所と原因チェック:吸引器を使用した場所と時間ーアメリカ
#6 P53制御たんぱくnek2の発見(プログラムによる論文検索による)-アメリカ

正確なデータがたくさん集まるという点で、評価できる。
#1、#5は特によい成果と言える。
#6も よい。
#3も 悪くない。
しかし、#4はいまいち。転倒しない対策が、ベッドを離れたのを、手すりに設置した感知器で察知して
ナースステーションのベルが鳴って、看護士が部屋に走り、倒れるのを防ぐというシステムだ。
それが、消化器病棟と脳卒中病棟で違いがあるから・・・・・人の配置をかえればよい。
ちょっと、いまいち。
工夫と知恵、たくさんあるからわかるんだということだけではない。



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