11年前から、9年前まで、多発性大腸ポリープがあって、大腸内視鏡検査に通っていた82歳のおばあちゃんが、おなかがすこし張るということで、8年8か月ぶりにやってきた。いろいろな事情で来院できなかったが、昨年出した経過観察のお勧めのはがきをみて、また見てもらいたいと思ったそうだ。本人いわく「もう、としだからいいかとおもってたけんど、やっぱりすんぱいだからさ 。先生はじょうずでいたくないからさ、くたよ。」82歳でも元気な人は元気なのである。早速、大腸内視鏡を行ってみると、横行結腸に、約2.5cm大の表面隆起型(IIa型)の大腸がんが見つかった。表面のピットパタ―ンはp5nで、核パターンはn3だった。とりあえず、 年齢と全身状態を考慮して適応拡大症例として、ESDを行い成功し、局所の癌切除はきれいにできた。切除標本の深達度はsm3だった。



 想定通り、大腸内視鏡検査間隔、8年8か月は空け過ぎである。大規模研究によると、大腸にポリープがない人で、がん死を防ぐための検査間隔は、日本の研究では3年ごと、アメリカの研究では5年ごとの全大腸内視鏡検査が勧められている。大腸にポリープが多発する場合は、その多発具合によって異なるが、それよりも密に行うことが望ましい。


 ちなみに、自説であるが、クリーンコロン(大腸ポリープをすべて切除してポリープがなくなった大腸のこと)後の大腸腫瘍の発生頻度と大きさの検討からは、 腫瘍の平均増大速度は大腸腺種で年に1mm、大腸癌で月に1mmである。大腸がんのうち、平坦陥凹型のものは平均7.5mmで粘膜下に浸潤し、隆起型は平均12.5mmで粘膜下に浸潤していた。100%の大腸がん予防 を望むなら、やはり1年1回がお勧めだろう。


 数年前、とあるお役人から、「君がいなくても誰も困らないよ」と言われて、医師として診療妨害と名誉棄損を受けた。「5mm以下のポリープは癌化しない」から、それを取っている医師は医療資源を荒らしている悪者だと決めつけられたのである。が、このおばあちゃんは間違いなく、私がいなくて困った人の一人だった。「小さなポリープは癌化しないから、取らなくていい」などと権力におもねった間違った概念がはびこるから、このおばあちゃんのような症例が増えて、この10数年、日本の大腸癌死亡者数は増えているのだ。


 1988年から1990年代後半まで、東急百貨店の保険組合では、わたしが乗り込んで、50歳代の社員全員のポリープをすべて取った。結果、それまで毎年2人ずつ大腸がんで死んでいたが、それがピタリと止まり、大腸がんの開腹手術すらもなくなったのである。


 健康を願う人にとって、だれがほんとの悪者だったのか、この大腸がんが黙示している。


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(ポリープ切除付)無痛内視鏡消化管ドック田渕正文院長の履歴

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