梅雨が明けてから、はや二週間ほど、東京の猛暑は尋常ではない。コンクリートとアスファルトの照り返しとクーラーの室外機からの熱風が強烈で、中目黒周辺の道の昼過ぎから5時ぐらいまでの温度は40度から45度ぐらいまである。クリニックの前の道路とクリニックのガラス窓に打ち水をすると、サーっと乾いていくが、それでも。すっと温度が下がるのがわかる。また、目黒川沿いの桜並木の下は少し温度が低い。

 

カプセル型小腸内視鏡で確認された空腸部の悪性リンパ腫。

この患者さんは若いころから、毎年バリウム造影によるレントゲン検診を受けていた。

 

 さて、話は飛ぶが、胃癌のレントゲン検診は海外ではどこでも行われていないのを、皆さん、ご存知だろうか?WHOが胃癌のレントゲン検診をしてはいけないと勧告しているのである。胃癌のレントゲン検診でX線を浴びて発生する白血病や悪性リンパ腫などの癌の数と、レントゲン検診を行って、早期発見によって助かる胃癌患者の数を比較すると、世界的には、前者が後者を上回るため、レントゲン検診を禁止しているのである。

 

 では、なぜ日本で胃癌のレントゲン検診が行われているのか?それは日本では、胃癌の患者が多く、レントゲン検診の精度が高く、早期発見で助かる人が多かったからである。(過去形であることに注意)。しかし、最近の日本は事情が少し違う。1983年にピロリ菌が発見されて、1990年に日本の学界では、ピロリ菌が慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因だとわかり、そして、疫学的考察から、胃癌との強い関係が指摘された。1994年には、ピロリ菌は胃癌の一番の原因であるとWHOが世界に向けて通知した。(わが国の厚生省はこの宣言を否定)。1995年ごろから、ピロリ菌退治の方法が確立されて、2001年ころには、ピロリ菌を退治すると、胃癌になる確率が、退治しない場合の約5分の1になることが、全国の大学、大病院の臨床研究で証明されているのだ。(厚生労働省はこの学会からの報告を香港からの論文を根拠に否定)。しかし、唯々諾々とレントゲンによる胃癌検診が日本では続いている。

 

 賢明な読者なら、私が何を言いたいのか、もうお分かりであろう。ピロリ菌にかかっていない人や、慢性胃炎になっていない人からの胃癌発生はきわめて低いのである。そういった胃癌のリスクが低い集団の人たちに対しても、レントゲン検診が、旧態依然と進められているのだ。これはよくない。即刻改善すべきだ。胃癌のリスクの低い集団の人たちに対して、レントゲンによる胃癌検診を行うべきではない。実は、リスクは簡単に評価できる。今は、ピロリの感染や慢性胃炎の存在は血液検査や便検査で簡単にわかるのである。ピロリ菌の抗体価、便中のピロリ菌抗原、血液検査(ペプシノーゲン1とペプシノーゲン2)などを調べればよいのである。

 

 レントゲン検診による早期胃癌の発見率は、昔のファイバースコープの時代ですら、内視鏡検診による早期胃癌の発見率の3分の1しかなかった。内視鏡は無痛で行う無痛内視鏡技術も進歩し、また、拡大内視鏡では病理所見に近い観察能力を持つまでにいたっている。

 

 しかし、日本政府の厚生労働省は、今年も、「胃癌検診の基本はレントゲン検診である」と宣言した。また、慢性胃炎のピロリ菌退治を社会保険診療で 治療できるように、学会は10年来頼んでいるのに、厚生労働省はまだ認めていない。国民の命と健康を守るために、厚生労働省の上級お役人は、目を覚ましてほしい。自分が天下りするかもしれないからといって、利益集団である検診施設組合や健康保険組合などの政治的圧力に屈して、国民の命を犠牲にしていいんですか?

 

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