たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2009年10月

Barrett's Cancer バレット癌(食道腺癌)の内視鏡診断 

 今日は東京大学病院で学生相手にクルズス(少人数相手の講義)をしてきた。講義のテーマは主に食道癌。

1)食道癌はsmに入れば進行がんであり、5年生存率は50%前後。したがって、食道癌はm癌のうちに見つけるのが大切。

2)一般に消化管の癌とくに食道癌は、m癌は「ぺら」としていいて、sm癌は「ごつ」としていると説明し、図譜で確認。

といったものであった。

 

 いつも、講義に使うディスクを今日は家に忘れてしまいました。いつも皆さんに見せているスライドを以下に載せておきます。

 

 日本では食道癌と言えば、90%ぐらいが扁平上皮癌である。しかし、欧米では、食道癌のうちバレット癌(腺癌)が増えていて、既に扁平上皮癌を超えて、食道癌の50%-60%がバレット癌である。食道腺癌もsmに入ると予後がm癌に比べて急速に悪化する。5年生存率は50%前後。

 ちなみに、米国では、約10年前の教授クラスの胃カメラ(上部消化管内視鏡)の一回の検査代が2000ドル(10年前は日本円に換算して約27万円)を超えていた。(ちなみに米国の研修医は無料か極めて低価格、日本ではどのレベルの医師が内視鏡検査を行っても見るだけでは1万3000円)。しかし、見逃して患者が死んだときは10億円単位の賠償が迫られることもあると聞く。

 ところが、このバレット癌(バレット腺癌)は、困ったことに、通常内視鏡観察では、「ぺラ」とした状態(=深達度m)では極めて見つけづらい。つまり、助かるうちに見つけづらい内視鏡医泣かせの病変なのである。扁平上皮癌は、ヨード染色陰性という感度がほぼ100%の検査法があるが、バレット腺癌(深達度m)には、感度100%の方法は、通常観察ではないのである。見逃し死亡の賠償金は10億円単位、このプレッシャーに対抗するために、欧米の内視鏡医はどうしているのか?

 

 「バレット上皮を1cm刻み、90度刻みに絨毯爆撃のように、バイオプシー」するのである。バレット上皮が20cmあれば、80個のバイオプシーを行うのである。手間がかかるのはいうまでもない。しかし、10億円単位の賠償金を考えれば、その手間を厭う人はいないだろう。絨毯爆撃バイオプシーのことを聞いたとき、私は賠償金をめぐる裏事情を知らなくて、欧米の内視鏡医のそんな面倒な行為の意味が理解できなかった。たしかに、そんな高額な賠償金があるとしれば、20センチのバレット上皮に対して、80個のバイオプシーといった、きちがいじみた行為も理解できる。しかし、それにしても、アホラシイ方法だ。

 

 1980年代後半から、1990年代の私の研究成果は、「ぺら」とした腫瘍を大腸で確実に見つける技術を開発したことである。そこで、平坦型大腸腺腫・腺癌を見つける技術(色素拡大内視鏡によるピットパターン診断)を、さっそくバレット腺癌に応用してみたところ、成功例が相次いだ。大腸癌で見られる悪性のパターンとバレット腺癌で見られる悪性のパターンが酷似していたのである。

 その事実を2000年から2-3年米国で発表したが、ポスター展示であったにも関わらず、質問の人たちが列をなして、朝から夕方まで、そのやり方について細かく訊かれた。バレット腺癌の色素拡大内視鏡診断について、論文を書いて、米国の内視鏡雑誌に載った写真が次のものである。

 

小さく細かく枝分かれして、ネットワークをなした、ピットパターンが浅く平らに陥凹した面(3mm×2mm)に認められる。

ちなみにこの写真は、米国の内視鏡学会により卒後研修の教材として採用された。

 

 ところで、その後どうしているかと言えば、バレット上皮には全例、お酢を散布している。お酢を散布すると、それだけで、構造が明らかになるのである。全例にお酢や色素を散布するというのは、日本では私だけだったらしい(当時、学会のシンポジウムで、全例に色素や酢を撒く人は挙手と聞かれて、居並ぶ10数名のシンポジストの中で挙手したのは私ひとり・・・であった。)が、微小なバレット腺癌発見にはきわめて有効な方法である。お酢を撒いて見つけた癌が次の絵である。

 

線状に細く密集し長く延びたピット構造の領域がバレット腺癌。直径約3mm大。

 

 学生諸君は、内視鏡診断はここまでするべきだということをよく理解してください。この絵が命の懸った絵で、アメリカでは10億円単位の価値があります。

 

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iPS細胞施設見学

  京都の国際会議会館でJDDWが開催された。初日の10月14日から10月17日まで参加したついでに、15日に千葉勉先生のつてで、京大病院のiPS細胞施設を見学してきた。青井貴之先生が案内してくれた。研究施設外様は一言で言うと、東大と同じ。青井先生にいろいろ質問したところ、体内の幹細胞をニッチから叩き出す物質の研究が進行中とのこと。これが進めば、自分の細胞をiPS化して、体内の古くなった幹細胞と入れ替えるなんてことができるかもしれない。つまり、理論的不老化への道だ。

 

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JDDW2009 第17回日本消化器関連学会週間で、拡大内視鏡による核パターン診断を発表

  京都の国際会議会館でJDDWが開催された。初日の10月14日から参加。15日はシンポジウムで超・拡大内視鏡の最前線で、「拡大内視鏡による核パターン診断の臨床病理学的検討」を発表した。5年前にアメリカのDDWで発表していた内容に、少し追加した内容であったが、日本で発表するのは初めてで、日本人では知らない人が多かったためか、結構反響があった。4年前に論文にまとめておくべきであった。しかし、この世界は妙に面白い。自分の考えていることを誰にも話していないのに、まったく同じアイデアを思い付いているひとがいるのである。(ただし、ちょっとは違うことも多いが・・・・)。学会でそういうことを何度も経験してきたが、今回は何回目だっただろうか?


 今回の拡大内視鏡による核パターン診断の発表ポイントは、簡単にいえば核パターンが「バラバラで大きな丸なら癌」。(核パターン3型=癌)。下の写真は左が拡大内視鏡像で、右がそのあたりの顕微鏡像である。内視鏡的病理診断は実現可能まで、あとわずか。


 この技術で何がわかるのか?拡大内視鏡を見るだけでその病変に癌があるのかないのかが、ほぼ100%わかるのである。その場で正しい治療方針を立てることができる。

 

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猛威を奮い始めたインフルエンザ。 タミフルは感染初期に飲むのが重要。 再診の方にはタミフルを郵送も可。 

  インフルエンザが大流行し始めている。先月の下旬、中国の大連にいったところ、日本人学校が運動会後にインフルエンザが流行して、閉鎖になった。東京に帰ってきたら、末娘の小学校がインフルエンザにより学年閉鎖。息子の中学校も学年閉鎖。麻布高校も運動会の後、インフルエンザが一気に広まり、学校閉鎖になった。いづれも、新型か季節型なのか、公表されていない。しかし、流行の時期がいつもの季節型とは異なるので、おそらく、新型であろう。


 新型インフルエンザに対する対応策はワクチンやタミフルなどの特効薬などがある。新型インフルエンザに対するワクチンは、来週か再来週に投与が始まりそうである。しかし、厚生労働省はワクチンを投与すべきかどうかの診察は、無料で行うようにと、医師会に要求しており、医師会は反発してもめている。新型インフルエンザは緊急の課題であり、早期に解決してもらいたいものである。


 タミフルは、感染初期に内服することが大切である。タミフルは、インフルエンザウィルスが細胞に付着するときに、ウィルスが取りつく分子をブロックして、インフルエンザウィルスの体内感染、広がりを抑制する。したがって、感染の初期に飲まないと効果がない。ウィルスが体中に広まってからだと、効果が薄いのである。ウィルスに感染したら、神経細胞も肺細胞も最終的には壊れる運命となるからだ。


 タイミング的には、ちょっと寒気がでたり、のどが痛いといった、高熱が出る前のタイミングで飲むのが、タミフル内服の最良のタイミングである。ちょっと前のガイドラインでは、高熱が出てインフルエンザのキットでA型陽性が証明されたら、初めてそこでタミフル投与と言っていた。ところが、先日の横浜で、キットが偽陰性で、タミフル投与のタイミングがさらに遅れて、インフルエンザ脳症が発症してしまう死亡症例がでた。ガイドラインに沿っていて、子供が死んだのである。そこで、日本のガイドラインは変更になり、今やタミフルの早めの投与が勧められている。再診であれば、電話診察でも投与OKとなった。


 我が家でも末娘が学年閉鎖のとき、末娘は高熱がでて学校を休んだ。発熱一日目に、タミフルを飲ませて、発熱は2日でおさまった。定跡どおりの展開であった。そして、その後兄弟に3-4日後、寒気やのど痛の症状が出たとき、すぐに、タミフルを飲ませたところ、結局それ以上症状は悪化せずにおさまった。タミフルを感染初期に飲むのは、作用メカニズムから予想されたように、極めて高い効果であった。

 

 当院では、再診の方には実費でタミフルを郵送します。ご希望の方は、メール(tabuchi@mrg.biglobe.ne.jp)にてご連絡ください。

 

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