私は28歳の時、「大腸内視鏡を志すなら、自分でも大腸内視鏡検査がどんなものか体験してみなさい。」という先輩先生方のお勧めで、先輩の先生に大腸内視鏡をしてもらった。2mmの白色のポリープがS状結腸に見つかった。検査をしていただいた先輩の先生にティーチングスコープで病変の画像を見せてもらった。先輩の先生いわく、「田渕君、どうしましょうか?君は若いから腫瘍の可能性は低いけどね・・・・」。
当時はまだ、ファイバー内視鏡が主流でピット診断はない時代だった。いまからみれば画像が粗く、腫瘍かどうかは判然としない。2mmだが、万が一、もし癌だったら困る。よく見ると少し張った感じがして目立つ気もする。やっぱり怪しいと思い、ホットバイオプシーしてもらった。病理結果は、中等度異型大腸腺腫。わずか2mmでも癌になる可能性の高い病変であった。爾来、定期的にチェックして、大腸ポリープを切除してきた。
その後の私の研究では、そのような腫瘍性ポリープが癌化する確率は一年で約1.3パーセント。あの時、この病変は小さいから取らなくていいですと選択していたら、私が彼のようになっていた確率は約30%強。彼のことは決して他人事ではない。
去年の秋の癌学会の話によると、今の日本では全死亡者数110万人。55%の人が癌になり、37%の人が癌で死んでいるそうだ。癌の患者の大腸内視鏡検査をすると、大腸腺腫は97%以上の確率で見つかる。つまり、大腸腺腫がなければ癌にならないというわけだ。内視鏡で大腸を隈なくよく見て、小さな病変にも拡大内視鏡を用いて的確にアプローチするということは決して無駄なことではない、むしろ、必須だ。
しかるに、昨今の大腸内視鏡の現状をみると、小泉改革で医療界がいじめられた結果、人々の心が荒廃して、日本中に粗診粗療が蔓延している。日本全体の大腸がん死亡数が、ここ数年、上昇してきたのは理由があるのだ。
彼も35歳ぐらいから、定期的に大腸内視鏡検査を受けて、ポリープを取っていれば、こんなことにはならなかった。
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