たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2008年02月

医師の苦悩 医師の使命と社会保険制度 

 2月の下旬は、受験シーズンである。医学部医学科を目指す若者たちは、いま、必死に受験と取り組んでいることであろう。

 

 私の場合も、医学部受験は人生を決める大イベントであった。なぜ、医学部を目指したかといえば、母と祖母から、「一族からせめて一人は医者になって欲しい。」と、強力に頼まれたからである。もともと、私は幼いころから数学が得意であったので、理学部か工学部か法学部に進もうと思っていたのだが、お話好きという別の特性を生かすには、医学部もありかなと思ったのである。

 九段の日本武道館で行われた東京大学の入学式(1978年=昭和53年)、桜の花舞散る下で感じたことは、医師になる使命感というよりも、正直、受験戦争を戦い抜いた安堵感と達成感であった。しかし、大学のとき、私自身が難病を患い、特定疾患患者となって、病気の怖さ・切なさを嫌というほど味わい、病気を治す、患者を治すという医師の使命の大切さを、心の底から実感した。だから、自らの専門を決めるとき、迷いは一切なく、自分の病気を専門とした。

 医師国家試験に合格して臨床に入ってみると、私の病状などとは比べものにならない、悲惨な患者さんが多数いた。治らない病気も数多く、効果的な治療法がなく、死んでいく人々の山であった。治療法があって克服された病気と、そうでなく克服されていない病気、その差は歴然としていた。川におぼれて死のふちへと流されていく人々を救うには、方法があれば、どんなに費用がかかろうとも、救うというのが、24年前の常識であった。「人の命は地球より重い」当時の閣僚の言葉である。

 

 1980年代は、日本経済が絶好調の時代で、社会保険医療の枠が最善の医療の限界とほぼ同じであった。今から思えば、医師として悩み少なき時代であった。現在、私が医師になった24年前と比べれば、さまざまな病気の本態が解明され、治療法も見つかってきている。しかし、治らない病気、治せない病気も数多く、多くの人々が病気を治せずに死んでいという状況には変わりはない。癌は、治療法がかなり進んできたもの、いまだに克服されていない。その他、難治の疾患を数えたら、きりがない。

 1990年を境に、日本経済が没落し始めて、経済的限界から、社会保険医療のレベルが後退し始めた。一方、医学の進歩は続き、各種の病気の解明、治療法の開発が進んだ。これらの成果は経済的制約から、社会保険医療に取り入れられなかったものも、数多い。必然、社会保険医療の枠と最善の医療の限界が乖離し始めて、今は大きく隔たってしまっている。病気を治し、患者を救うという医師の使命を達成するためには、社会保険医療制度が障害となるケースが増えてきたのである。

 つまり、医療の使命を達成するためには、人の世の法令順守だけでよいというわけにはいかなくなってきたのである。自然界には、人の世の作る法とは、別の法、すなわち、自然のさまざまな法則がある。自然界の法に逆らえば、人は健康を損ない、命を落とす。そのため、医師は使命達成のため、自然の法を学び、研究する。国の法令や規則が、自然の法と対立するとき、医師は苦悩せざるを得ない。

 

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HIFUの合併症、尿道直腸漏を大腸内視鏡で縫合閉鎖

 昨年の11月末に、他院でHIFUを行い、遅発性の尿道直腸漏になった患者さんについて、同僚の鈴木誠先生から相談された。「人工肛門にして外科的に縫合を勧めているのだが、人工肛門はどうしても嫌だといっている。どうしたらいいだろう?」「1996年から何例も大腸壁を内視鏡で縫合している。一度みせてくれないか、縫合できるかどうか検討してよう。」ということで、患者さんがやってきた。左図のごとく、すぽんと孔が開いていた。

いつものとおり、内視鏡で縫い合わせて(成功する縫い方にはこつがある)、便が尿道口から出るのは治った。右図は、縫ってから、23日目の画像である。その後、今日まで78日経過したが、経過良好である。


 

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第4回消化管学会2日目  「5mm以下の大腸ポリープの臨床病理学的検討からみた小さな大腸ポリープを放置する危険性」を発表。

(5mm以下のポリープを取るなという社会保険組合の要求は不当だった)

 近年、効率性を求める医療サイドと 医療費を抑制したい保険組合の事情から、 5mm以下のポリープを無視・放置している医療機関も少なくない。しかし、大腸ポリープ(大腸腫瘍)はそもそも前癌性病変であり、5mm以下の癌も確実に存在する。そこで、5mm以下のポリープを放置する臨床的リスクを検討したわけである。

 自検例、約3万6千例の大腸内視鏡検査で、発見されて病理検査された、5mm以下の大腸ポリープは、約3万3千病変、癌や高度異型腺腫、カルチノイドといった絶対的切除適応病変は、内視鏡検査120回に1個。 陥凹型腺腫は、15回に1個。低異型度で非陥凹型の相対的切除適応病変は、6回に5個出現していた。

 5mm以下のポリープを無視・放置すると、年間2400例ぐらいの大腸内視鏡を行っている施設では、少なくとも約20病変の癌が放置・見逃されることになる。腺腫の癌化を考慮に入れれば、5mm以下のポリープを無視・放置するリスクは、さらに大きくなる。したがって、5mm以下のポリープを放置・無視するという臨床的姿勢は、推奨できない。

 

 発表の後の質疑討論で、がんセンターの先生から、クリーンコロンについての考え方についての質問があった。つまり、「どのくらいの見落としがあるか?」という質問である。「文献によると大腸腫瘍の見落とし率は10%-20%といわれている。私自身のデータは10%。半年以内に2回大腸内視鏡を行い、20分以上かけて観察を行い、見つかったすべての腫瘍を取ったとき、クリーンコロンと考えている。」と回答。

 

 さらに、「前任の佐野寧先生のデータでは、30%近くが平坦陥凹型であったが、先生のデータでは陥凹型がなぜ、6.7%(1/15)なのか?」と重ねて質問。「6.7%には、平坦型は含まれていない。純粋な陥凹型に限ったことと、6.7%には癌と高度異型度腺腫が含まれていないからだ。」と説明。

 

 また、座長が、「全部の病変を、拡大観察しているのか?」と質問。「近接型拡大内視鏡(EC7CM2など)を用いていたころは、すべて、拡大観察していたが、ズーム型内視鏡拡大内視鏡(現在はEC590zw)になって、一見、腫瘍か否かわかりにくいものに限って、拡大観察をしている。今は約30%ぐらい。」と回答。

 

 フロアから、「ピットパターン診断などを行い、本当に危ない大腸腫瘍だけを選んで取るべきではないか?」というちょっと的外れの意見があった。[この発表は、どこに、取る取らないかの境界を置くかについての判断のために基礎的なデータを示したものである。つまり 、今回の発表は、5mm以下のポリープをすべてとらないという選択をしたときのリスクを示したものである。異型度の低い5mm以下の大腸腫瘍を放置するリスクについての議論をしたわけではない。」

 

 ちなみに、私は、1994年ごろの研究(胃と腸に発表)で、「大腸腺腫を放置すれば、一定の割合で消失するものあるが、約1.3%が1年後に大腸癌になり、癌化すると月に約1mm大きくなり、平坦陥凹型で、平均7.5mmで、隆起型では平均12.5mmで粘膜下層に浸潤する。」という結論に達している。

 

 日本経済が傾いた1996年ごろ、私は、社会保険組合から呼び出されて、「社会保険組合の財政が悪化しているので、5mm以下のポリープを取らないでくれ」という要請された 。驚いた読者諸氏も多いことであろうが、事実である。それが、今回の発表の動機である。

 

 ここに示すように、5mm以下にも癌や高度異型腺腫のような、すぐに命をとるような病変が比較的高率に存在し、また、5mm以下の大腸腫瘍を取る容易さは、病変を見つける手間や難しさに及ばないので、見つけ次第、すべて取るという姿勢を私は貫いた。社会保険組合に嫌われたのは、言うまでもない。合計5000名ほど、組合経由で送られてきていた患者さんは、途切れた。

 

 「丁寧に無痛内視鏡を行い、ポリープをすべて取ってくれる名医」という評価を剥がされて、かわりに、「お金のためにポリープをあさる、ひどい医者」というレッテルが貼られて、社会的攻撃が始まったのである。

 

 当時(今もそうだが)、ポリープは3箇所以上は、何個とっても、社会保険診療報酬の値段は変わらない。私は、一例に平均40-50分かけて、平均6-7個の病変を切除していたのである。お金が目的なら、10分で3個だけとるという診療を行い、もっと症例数を稼いでいたことであろう。

 

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第4回消化管学会 大阪中乃島大阪グランキューブで開催  

 

  午前中は、「内視鏡特殊光観察の光と影ー色素内視鏡を越えられるか?」に参加。

 FICEとNBIが色素内視鏡よりも優れている点は、毛細血管が簡単に見える点である。微小食道癌・喉頭癌の存在診断では既に十分な臨床的成果を挙げている。そこで、大腸や胃ではどうか ?という企画なのだ。

 

 大腸腫瘍ではピットパターン診断の研究が、ずいぶんと進んでいる。毛細血管観察によるFICEやNBIの上乗せ診断効果はわずかなようだ。潰瘍性大腸炎に 発生する(COLITIC CANCER)癌の存在診断についても、FICE、NBI、AFIともに大きな成果は未だない。

 

 胃癌では、胃小溝や胃腺口の消失や、縮れたような不整な微細血管の出現が、癌特有の所見である。しかし、 新潟の八木一芳先生によると、癌が粘膜表面に顔を出しているときは、高い診断能を得られるが、癌が粘膜中層を這うように広がるときは、診断能は低くなってしまうそうだ。座長の八尾隆史先生は、「生検による組織検査は、 やはり、欠かせない。」とコメントしていた。未分化型の胃癌の広がりを正確に診断するのは、難しいのである。

 

 消化管内視鏡の最大の目標は、癌の有無を確認することと、癌の広がりを把握すること、癌を取り去ることである。これらが短時間に容易にできる、さらなる新しい技術の開発が要求されている。獨協医大中村哲也先生の発表、「増感因子を用いたレーザー光による診断と治療(PDD、PDT)の胃癌への応用の試み」は、その答えのひとつかもしれない。

 

 昼は、島根の木下芳一教授の「メタボリックシンドローム時代の上部消化管疾患に迫る」に参加。要は、胃酸分泌亢進の時代的背景と逆流性食道炎、機能性ディスペプシアとの関係といったところのお話だったのであるが、島根医大における20年前と5年前と今の患者の数と、年齢構成の違いについての話が面白かった。

 

 島根は、いまや3人に1人は、60歳以上の老人先進県。病院の経営のために、患者数と年齢構成を調べてみたら、80才代、70才台、60才台の患者数が純増して、20年前の2.5倍の患者がいるとのこと。しかし、医師の数は20年と同じ。 「昔の教授がうらやましい。」と。

 その話を京都大学の千葉勉教授にしたら、「それは田舎島根の特殊事情じゃないか?」といわれて、「京都でも調べてみたら」と言い返し、2人で調べてみたら、京都大学も事情は同じだったそうで、京都のことを、「 都会と思っている田舎」と、コメント。さらに、彼らの出身大学のある神戸の中核病院をさらに、調べてみたら、なんと、神戸も同じ事情だったそうである。 「田舎と思われていない田舎」・・・・。

 

 夜の懇親会で、その病院の消化器科部長と歓談。「年度末に、常勤が2人やめて、補充が見つかりません。朝の9時から夜の9時まで外来をして、くたくたです。「癌中核病院」として指名されて、50km先からでも患者が押し寄せてきて、とても、もう医療レベルが維持できません。もう、崩壊です。」 医局をつぶし、研修医の5時帰宅を推奨し、使命感をもって臨床を続けている医師 たちに、報いなかった(むしろ、いじめ続けた)政策のつけが、爆発しはじめている。文部省と厚生労働省、この政策立案に関った官僚は、医師を大切にしなかった間違いを素直に反省すべきだろう。

 医局をつぶせば、地域病院の医療レベルが下がり、研修医を5時に帰宅させれば、臨床能力の育成が遅れ、診療報酬を下げれば、病院がつぶれ、医師がパンクすることがわからなかった人たちには、医療行政を司る資格はない だろう。

 

 発見伝茶屋での2次会で、癌研の武藤徹一郎院長と話。先生、酔った勢いで曰く、「 一度、(医療界は)つぶれるしかないな、つぶれないと、わからないんだよ」「それでは、患者も医者もみんな困りますよ、先生、何とかしてください。彼ら(官僚)に一言、言ってくださいよ。」「うるさいと遠ざけられるんだ。」「ところで、先生、今の医学生に何か言いたいことありますか?東大の講義で伝えますよ」「そうだな、「使命感を持ち、大望を抱け」 ということかな。」「わかりました。」・・・・(使命感を持って、医療を続ける人が、いじめられる姿を、目の当たりにしていては、いくら使命感を持てといっても、空々しい思いに駆られるのは学生ばかりではあるまい。)

 

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