たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2007年10月

UEGW(ヨーロッパ消化器週間)2007 in Paris 第三日目 最終日

 朝早く行われた、新しい大腸内視鏡のセッションに参加。内視鏡をカバーして、汚さないシステムが紹介されていた。確かに、洗う手間が省ける。午前中は、NOTESのセッションに参加。腹腔内に入った穴、3-4cm大の穴をどう塞ぐか、いろいろな方法が討論されていた。ヨーロッパには、NOTESトレイニングセンターがあって、そこに、各地の先生が集まって、豚相手に技術が磨かれている。日本にもそういう トレーニングセンターが必要だろう。


 その次は、NBIとかFICE(ヨーロッパではCVCと呼ばれていた)、とか、日本では、多くの聴衆を集めていたテーマのセッションに参加。日本ほど聴衆はいなかった。今回の学会は、NOTESがメインテーマであったようだ。


 午後からは学会上を抜け出して、修復なったベルサイユ宮殿の鏡の間を見学 。2年前、チェコの学会の帰り立ち寄ったら、工事中で見学できなかったリベンジである。鏡の間は 、スペイン人、イタリア人、中国人、韓国人、日本人、などなど、世界各地の人を大勢集めていた。


 内視鏡販売会社の人から聞いた話によると、ヨーロッパは、東ヨーロッパを中心に内視鏡の売り上げも年50%の上昇だそうである。今回別件で訪れたオルレアンでも子供をよく見かけ、1989年のベルリンの壁解消以後始まったヨーロッパの繁栄は、ますます、続きそうと感じた。ルイ14世の時代のような強いヨーロッパが戻ってきそうだ。


改装なった2007年10月31日のベルサイユ宮殿鏡の間

UEGW(ヨーロッパ消化器週間)2007 in Paris 第二日目

 午前中は、NOTESのセッションに参加。ヨーロッパではNOTESを真剣に育てようという、雰囲気が感じられた。さて、今日一番驚いたのは、超音波内視鏡を利用したNOTESという演題であった。発表者は Annette Frischer-Ravens 博士。なんと、超音波内視鏡を使って、壁外の情報を得て、食道壁の的確な場所を切り開いて、壁外にあるリンパ節を取り出すという、信じられない芸当をしていた。また、食道を切り開いて、縦隔に入って、空気を入れて、気縦隔として、心房に針を指して、心臓手術をしていた。びっくり仰天である。消化器内視鏡を用いた心臓手術?!


 彼女と山本博徳先生と一緒に、昼食を食べた。その際、心臓に針を刺して血は止まりますか、リンパ節を取り出すのはどのくらい時間がかかりますかとか、いろいろ質問させてもらった。一般には、左鎖骨上かから縦隔鏡を行うのであるが、技術的には、食道経由のほうが簡単だそうである。内視鏡を用いた心臓手術はきっとビッグマーケットになると彼女は力説していた。 



 彼女は本当によくしゃべる人だった。明快に答えてもらえるかたわら、日本社会の変貌、日本の医療などについて、いろいろと矢継ぎ早に、質問を受けた。日本も医療訴訟が一般的になってきたと説明すると、驚いていた。

 午後は山本博徳先生と道田知樹先生とテニスをしようとしたところ、通り雨が降り、土のコートはたちまち水浸し。期待のテニスはできなかったが、その代わり、虹が出た。

UEGW(ヨーロッパ消化器週間)2007 in Paris 第一日目

 2007年10月29日からUEGW in Parisに参加。ヨーロッパはIBD先進国なので、初日はIBDを中心に講演を聴いた。日本では、インフリキシマブしか、認められていないが、こちらではそれに加えて、CZP(セルトリズマブ・ペゴル)やADA(アダリブマブ)が使用できる。


 そのクローン病に対する臨床試験の結果を聞いていたが、トップダウン「はじめに強い薬すなわち坑TNF-α製剤を使い、次に、アザチオプリンを使う」方法のほうが、ボトムアップ「はじめに弱い薬を使い、効果がなければ、強い薬を使う」方法よりも、2年後の緩解率が大幅に高かった。

日本では、クローン病に対して、ボトムアップしか、保険診療では認められていない。この結果を踏まえて、坑TNF-α抗体の使い方を検討する必要があろう。

厚生労働省発表は、大本営発表に似ている。開業医の収入は勤務医の1.8倍のトリック

 開業医の収入は、勤務医の1.8倍という発表があった。日本経済新聞では、それゆえ、開業医の診療報酬をもっと減らすことができると書いていて、来年の4月の診療報酬改定では、開業医の診療報酬を減らすべきだと書いている。

 

 何も知らない若者がこの記事を読むと、そうだなと納得してしまうかもしれない。

しかし、私から見ると、3つのトリックが隠れている。

 

 1つは、開業医の年齢と、勤務医の年齢を考慮していないこと。開業医は経験豊かな高齢者が多く、勤務医には卒業したばかりの先生が多い。年齢別に比べる必要があろう。

 2つは、開業医の経費と、勤務医の経費は異なる。開業医は薬も買わなくてはいけないし、テナント料も経費として払わなくてはいけない。年収を比べるのではなく、課税所得を比べるべきだ。

 3つは、実は、診療報酬は、ここ数年、診療所に比べて、病院をより厳しくして、診療費を切り詰めてきた経緯がある。何のことはない、時期をずらして、病院も診療所も全部切り詰めているのである。

 現在の医療費は年間約29兆円である。日本政府は「2025年には医療費をさらに8兆円切り詰めて、医療費を年間21兆円にする。」という目標を達成するために、3つのトリックを利用して、詭弁を弄しているのだ。C型肝炎訴訟・薬害エイズの問題でもそうだが、真実を真摯に語らず、ごまかして逃れようとする、日本政府の体質がありありと浮き出ている。

 

 厚生労働省の発表は、どこか、大本営発表に似ていると感じるのは、私ひとりだけであろうか?このままでは、医療界は、今後も、打撃を受け続け、最後には焼け野原になり、とどめに原爆を落とされて、消滅してしまうのであろう。

 

 ちなみに、キャリアの厚生省官僚と開業医と病院勤務医の世代別平均課税所得を公表したら、皆様が予想もしない金額が公表されるだろう。キャリア官僚の年収・課税所得額はかなり高いのである。

薬害肝炎問題 厚生省(現在の厚生労働省)の責任 

 約20年前、ミドリ十字(今は吸収されてこの名前の会社はない)の血液製剤中の一部に、C型肝炎ウィルスが含まれていた。それを、使用した人たちの一部が、C型肝炎に感染して、発症して苦労している。

 問題は、その感染に関する情報が、患者に伝えられなかったことである。厚生省(現在の厚生労働省)が情報のところで止まっていたことが、発覚して、しかも、それが、「故意にであるらしく」、つまり、厚生省の立場が悪くなるので、情報を隠していたらしいということの証拠が出てきたのである。隠していたことが、患者の病状の悪化につながった。

 

 今後の厚生労働省の取るべき対応は

1)患者を治すこと。(幸い、近年の治療法の進歩で、C型肝炎は7-8割完治する病気となってきている。つまり、治療の費用を出すということ、病気を治す努力・研究に協力すること。)

2)患者の被害を補償すること。

3)情報操作を反省すること。当時の担当官の氏名・経歴の公表と処分を行うこと。

4)情報操作の体質を変えること。(国民の健康と命を守ることを最優先として、自らの保全は2番とすること。)

 

 また、司法当局も、厚生官僚が自らの利益のために、意図的に真実を隠して、患者を傷害したことが疑われるので、

5)「傷害罪の適応を考慮した、捜査を行うこと。」が必要であろう。

 

 厚生労働省は情報を操作している。都合の悪いものは隠し、都合のいいものは誇張している。このような行為は、刑法においては個人なら許されている。裁判では、自らに不利な証言はしなくてもよい。しかし、個人では許されることも、行政という多くの人たちが関わる公共的なことでは、許されないのは、明らかであろう。多くの無垢の人たちが迷惑するからである。

JDDW後日談 台湾の先生方が当院を見学

 今回の学会に、台湾から参加していた先生が2名(台中にある秀伯記念医院の陳建華先生と台南にある台南市立病院の郭振源先生)、日本に来たついでにと、わざわざ東京まで足を伸ばして、当院の見学に訪れた。見学のテーマは内視鏡の入れ方と色素拡大内視鏡、核の観察、及び、FICEであった。小腸絨毛の中心の毛細血管のループの中を、血液がすばやく、流れるのを、はじめてみて、「オーッ」と驚きの喚声をあげていた。細胞の核の観察は、見慣れない絵なので、あまりよくわからなかったらしく、説明してやっと「フーン」といった感じの反応であった。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第四日目・最終日

 今日は学会の最終日であった。神戸は快晴。少し肌寒い感じもするが、からりと晴れ上がった最高の天気であった。

 

 午前中は、「ESD標準化のための手技の工夫ー上部消化管ー」に参加。司会は井上晴洋先生と小野裕之先生であった。いろいろと進歩していて、さまざまな工夫が述べられていた。ESD標準化まで、もう一歩の所まで来ているといった印象であった。

 

 昼は「胃癌化学療法の治療戦略ー新しい時代の幕開けー」を聞く。胃癌の化学療法は、ファーストラインがTS-1かTS-1+シスプラチン。セカンドラインがタキソール。タキソールは特に癌性腹膜炎によく効く。そして、これからは、これらの薬に、アバスチンやその他各種の分子標的薬を加えた治療に向かっている。東大の腫瘍外科で、胃癌の癌性腹膜炎に対して、タキソールによる治療 ・治験が行われているが、同僚の北山丈二先生によると、一年生存率は86%であったとのこと。驚きの高さである。

 

 午後は、「経鼻内視鏡による上部消化管スクリーニングの現状と問題点」に参加。司会は、辰巳嘉英先生と本田浩仁先生であった。無麻酔で上部内視鏡検査をするときは、経口内視鏡よりも経鼻内視鏡のほうが楽である。交感神経系の亢進が少なく、内視鏡時の血圧の上昇も低い。しかし、経口内視鏡に比べて、画像が悪く、検査に時間が20-30%余計にかかるという欠点も指摘されていた。鼻出血は約10%弱ぐらい、鼻痛は50%ぐらいであった。耳管の違和感や、副鼻腔炎などの珍しい報告もあった。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第三日目

 学会も3日目になると少し疲れてくる。このJDDW2007神戸に先行して、アジア太平洋消化器病会議は月曜日から開かれていて、「ちょっと長すぎる。」とぼやく声もちらほら聞こえてくる。

 

 午前中は、シンポジウム「特殊光観察に内視鏡診断」に参加。司会は工藤進英先生と神津照雄先生。NBIとAFI、FICE、confocal endoscopy,蛍光内視鏡などなど、内容はあまり目新しいものはなかったが、NBIの発表が多く、NBIによる微小血管診断が深化していた。

 

 午後は、消化器がん検診学会特別企画に参加。トップバッターは、厚生労働省管轄国立がんセンター予防・検診技術開発部 濱島ちさと先生であった。彼女は、最近、「前立腺がん検診にPSA測定は不要。」と言い放って、現在、泌尿器学会と対立している人物である。どんな人か大変興味があった。ちょっと小太りの、度の強いめがねをかけた、30歳ぐらいの女性であった。声が大きく、自信に満ちていた。肌にはつやがあり、黒髪もきれいで、健康的な美しさがあった。前立腺がんや癌死からは、最も遠い人種である。

 濱島ちさと女史の講演のテーマは、「がん検診における評価の基本概念」であった。

 

 まず、評価は、「その検診をした場合、その検診をしないときに比べて、どれだけ死亡数を減少させるか?」という死亡数減少効果を基本とすると述べた。そして、評価手順は、その検診に関する文献検索して、それらを読み、質のよい論文を選び出し、その論文に重み付けをして、スコア化して、検診を評価するというものだ。専門家にも意見を聞くが、専門家の意見の重み付けは一番低く、一番高い評価は、無症状者に対する無作為対照試験。要因対照試験や患者対照試験、介入試験はそれらの中間の評価で、前向きのほうが後ろ向きよりも評価を高くするという。

 さて、そのようにして、各種の検診方法を評価したところ、PSAによる前立腺がんの検診は、集団検診として、有効とは評価されなかったというわけだ。 (ただし、個人検診では有効との評価、マスコミでは集団検診での無効という評価だけが喧伝されている)。便潜血反応による大腸癌検診は集団検診として効果有りと評価されたという。このガイドライン(検診のやり方)を評価するやり方を、AGREEというそうだ。厚生労働省では検診の 評価を5年ごとに見直すという。

 

 この検診評価方法の問題点は、いくつかあると思う。

 

1)評価の根拠(文献)が古いデータを用いる点。

 文献に頼っているので、文献になる前の新しい知識は含まれていない。5年に一度見直すというから、実際に読んでいる論文は平均10年前ぐらいになるかもしれない。すると、次の十年の検診内容を決めるのに、十年前の知識を利用しているということで、間近な知識・実状は無視されているということなる。

 

2)死亡数減少を検診の目的としている点。検診には自分の健康を確認して安心を得るというメリットもある。

 検診(症状がないのに検査を受けるという行為)の目的は、死亡を回避したいということだけではなく、自分は病気でないという安心を得たいということもある。この2つは同じように思うかもしれないが、ちょっと違う。病気の中には、結局は、よく治るのだが、治すときの負担が早く見つけると軽くなるという病気もあるのだ。前立腺がんはこの範疇に入ってくると思う。患者さんをはじめ現場の人間は、その辺のいきさつをよく知っている。死も勿論、避けたいが、精神的な苦痛、肉体的な苦痛も避けたいのである。

 

3)真実はすべて文献にされているわけではない。

 医療情報の中には、さまざまな諸事情で、論文にしていないことがある。

たとえば、みんなが長年の経験・知識から、当たり前だと思っていること対して、無作為対照試験を行うことは、倫理的に許されないのである。 治療成績から見ると、胃癌と大腸癌の診療について、診断、早期癌の治療、進行がんの手術治療の点ではまちがいなく、世界一の成績を収めている。日本がフロンティアにいて世界をリーディングしているために、日本に無作為対照試験がほとんどなく、AGREEで評価すると日本の胃癌・大腸癌の診療ガイドラインは低い評価しか与えられないという皮肉な結果になるのだ。

 

4)文献に頼るだけで現場の調査を行っていない。

 がんセンターの机の上で検診は行われているのではない。がんセンターの机の上で人が病気になっているのではない。現場に出て

実状を調査して、それも評価に入れるべきである。

 

5)評価する者・組織にバイアスがかかっている。

 濱島ちさと先生は、給与を厚生労働省からもらっており、現在、厚生労働省は医療費削減政策、老人切捨政策を目標としている。AGREEにも、論文の発表者が誰からお金をもらっているかという項目もあり、濱島ちさと先生も自らの主張・論文をAGREEで評価してみるなら、質の低い論文と評価されるという皮肉な結果になるであろう。

 

6)医療現場では集団検診と任意検診(個人検診、プライベート検診)が明確に分かれているわけではない。

 検診の受ける側、すなわち、国民大衆は、検診に集団検診と個人検診が分かれていて、評価基準が異なっているなどとはまったく、思っていない。あるのは、自分の健康と命という評価基準だけである。行政を行うものは、その辺の事情(現場の事情)もわきまえた評価をするべきである。

 

 AGREEは欧米でも認められているガイドラインの一般的評価法である。 上記で述べたように、AGREEには、評価方法として、多くの問題を抱えている。ガイドラインの本来の目的、「人の命と健康を守るのにいかに役立つか?」という観点から見ると、問題のある評価法といわざるを得ない。

 AGREEが舶来であるという点が、彼女が「このやり方は間違ってない」とする根拠であった。AGREEを盲目的に受け入れる彼女の意識にはちょっと問題があると思う。 なんだか、外人かぶれ、英語コンプレックスの女学生という感じがした。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第二日目

 ブレックファーストミーティング「ムコアップを使用したEMR・ESD」があさ8:00という早朝のセミナーに参加。EMRやESDに粘膜下注入液に、臨床研究として利用していたヒアルロン酸希釈液(商品名ムコアップ)が医療材料として保険採用された。0.4%ヒアルロン酸ナトリウムは今まで用いられていた、生理食塩水、グリセリンなどに比べて、膨隆が強く持続時間が長い。一歩前進というところか。座長は工藤進英先生と山本博徳先生。演者は田中信治先生、矢作直久先生という豪華版であった。

 

 膨隆時間を長くするために、私は、今から20年前1987年に、20%グルコース液を大腸EMRに使用した。私は、それ以後、臨床的にあまり困らなかったので、そこで停まってしまったのであるが、その後いろいろと工夫があった。2000年ごろにグリセリンをはじめて使って、論文をいくつも書いたのが、矢作直久先生。ヒアルロン酸を使ったのが山本博徳先生。ちなみに、工藤先生も私同様、あまり困らなかったようで、いつも、生食といっていた。

 

 午前は、「ESD標準化のための手技の工夫ー下部消化管ー」に参加。司会は田中信治先生と矢作直久先生。症例数が増えて、先行施設ではだんだん成績が向上しているが、現在の手技では、やはり、平均2時間の長時間で、穿孔のリスクも10%ぐらいある。手技上のいろいろな工夫が提案されていて、それらを見ると、手術時間30分程度で、穿孔のリスクも2%以下という成績も、今後、期待できそうな印象を持った。本間清明先生の鋏型ナイフが面白そうであった。

 

 ランチョンセミナーでは、クレスチンの癌抑制効果についてのセミナーに参加。坂本純一先生(名古屋大学社会生命科学講座教授)が、メタアナリシスという手法で、これまでの優れた論文のデータを集積して、クレスチンの有効性を証明していた。癌の量の少ない状況でクレスチンは有効であった。講演でも言われていたが、時代によって、クレスチンの毀誉褒貶は甚だしいものがあった。1988年には、利かない薬といわれ、1996年には、癌の死亡率を5年生存率を10%も上げる妙薬といわれて、共に、読売新聞、朝日新聞の一面を飾った。マスコミはいい加減だ。自分で書いたことでもすぐ忘れる。

 

 午後は、「医療崩壊」の著者、虎ノ門病院泌尿器科 部長 小松秀樹先生の講演があった。スライドは使わず、話がいろいろ飛んで、ちょっとわかりにくかった。今回のテーマは、医療崩壊だけでなく、司法界対医療界であった。「診療行為に関連した死亡に係る死亡究明などのあり方に関する検討会」、いわゆる「医療事故調査制度」についての話であった。福島県立大野病院事件を契機に、司法界と医療界が対決している。司法会のトップは、司法界と医療界が衝突して、司法界の無謬性、信頼性、権威性が揺らぐことを恐れているといった言葉が印象に残った。

 

 サテライトシンポジウムでは、オリンパスの「フロンティア内視鏡」に参加。膵管鏡、胆管鏡が2003年にビデオ化されて以来、画像がずいぶんよくなっていたのには、感心した。ただ、まだ以前と同じくよく壊れるそうである。

 

 消化器内視鏡はまだまだ伸びる。その方向性が示されたいいシンポジウムであった。

JDDW2007神戸 第15回 日本消化器病週間 第一日目

 10月18日から21日までの4日間、神戸でJDDW2007(日本消化器病週間)が開かれている。

 

 午前中は「大腸pSM癌診療の新しい展開」へ出席。司会は斉藤裕輔先生と正木忠彦先生であった。コメンテーターは、癌研院長の武藤徹一郎先生であった。

 従来、sm深層までの浸潤(sm2sm3)、脈管浸襲(=ly(+) or v(+))、腫瘍が未分化、腫瘍先進部の悪性度の高さ(BUDDING)が開腹手術適応ということであった。

 新しい展開として、浸潤の深さについては数値で表す試みが常識化してきていた。転移なしの浸潤距離については、1000μmが主流なのだが、1700μmとか、いろいろ議論があった。「mで転移して驚いた症例も、標本を詳細に調べなおしてみるとsm浸潤がみつかった。切除標本の取り扱いは丁寧にしましょう」などなどと議論していた。「マトリライシン染色をすると、転移の予測に有効だ」という報告もあった。

 

 拡大内視鏡診断では、「ピットパターン5n型は、sm-massive、5i高度不整型は浅いのから深いのまである。」と、また、毛細血管診断では「毛細血管のない領域のある病変はsm-massive」とか議論されていた。また、「pSM癌が上記の開腹手術適応状態で、諸般の事情で手術しなかった場合、再発率は20%ぐらいで、再発後の治療でその約33%しか救えなかった」という話もあった。これは、私の臨床経験に近い数値であった。

 

 武藤徹一郎先生の総括では、「内容は10年前とほとんど変わらない。内科の先生方は、この医療資源の乏しくなった時代に、医療全体からみると微々たること(おそらくピット診断や毛細血管診断のこと)をやめて病棟でうろうろしていてほしい(化学療法などをしっかりしろということか)」とのコメントであった。私の見解としては、「この10年、大筋は変わらないが、細かいところでは診断は深化している。」と思う。ただし、治療について、まったく、議論がなかったのは残念で、「pSM癌、開腹手術適応状態であるにもかかわらず、手術しない場合、TS-1などの抗がん剤投与はどれくらい再発を抑えるのか?」という 疑問についても議論してほしかった。

 

 午後は、消化器癌診療ガイドラインの現況と諸問題に出席。司会は杉原健一先生と下津川徹先生であった。食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、の診療ガイドライン作成者が指定講演を行った。また、ガイドラインの評価を行うAGREEというシステムも紹介されていた。消化器癌は癌罹患数の6-7割をしめ、そのガイドラインの社会的影響は、大変大きなものである。

 

 私が、面白かったのは、ガイドラインのでき方であった。胃癌、大腸癌は2001-2002年ごろに、手弁当で医師集団が作成、食道癌は学会主導で作成、肝臓癌と膵臓癌は、厚生労働省の補助を受けて2004-2005年に作成されていた。肝臓癌は4000万円の予算が支給されていた。膵臓癌もそれなりの予算が支給されていたようだが、実際は200万円ぐらいでできたとコメントしていた。

 

 肝臓癌のガイドライン作成の4000万円の予算はどのように使われたのか、お金の行方の明細を報告してもらいたいものだ。安倍前首相の美しい日本の会議費用「12人集めて2回で4000万円」から判断してわかるとおり、大盤振る舞いする予算は政治的なのである。厚生労働省はガイドライン作成に実費の20倍もの金額を出しているのである。

 

 そう、考えてくると、今後、ガイドラインは、情報公開というよりも、情報操作の道具、医療費締め付け、医療界締め付けの道具として用いられていくのではないかと危惧される。今、政府は医療費削減のために、医療現場の自由裁量を容認できないのである。マスコミでは報道しないが、なにせ、2025年には現在の医療費29兆円を、さらに8兆円削減して、21兆円にするという目標を掲げているのであるから。 (今でも現場は大変なのに、こんなのが実現したら、医療は完全崩壊してしまうと思うが、それでも財務省がここまで厚生労働省に圧力をかけるのは国力がここまで落ちていくということか?)

 

 議論の中で、司会の杉原健一先生は、「アメリカの大腸癌診療ガイドラインでは、大腸癌治療のファーストラインは、アバスチンとオキザロプラチンと書かれているが、この費用は一ヶ月70万円もかかる。こんなのは、費用の点で、今の日本の保険診療では受け入れられない。保険診療できないことはガイドラインに載せるべきではない。アメリカでは自由診療があるから、受け入れられるのであるが、社会体制の違いを考慮した、国別のガイドライン作成が必要だ。」と力説していた。 

 

 杉原先生も「抗がん剤投与にアバスチンの併用が、延命効果がある。」とわかっている。「患者さんの利益のために情報公開が必要だ。」ともおっしゃっている。しかし、「医療は保険診療」ということが、彼の頭脳の中で固定観念として根付いてしまっているために、「ガイドラインにアバスチンは入れられない。」と発言しているのだ。保険診療が命を短くしているという図式だ。 (ちなみに、私のクリニックは自由診療なので、アバスチンは利用できます。)

 

 「アバスチンは抗がん剤投与に併用すると延命効果がある。しかし、費用がかかり過ぎるので、今の日本の保険診療では、採用していない。」と真実をガイドラインに書くべきだと思う。真実を伝えなければ、国民も奮起しまい。

都立病院未収入金 13億円に 10年前の2倍 

 10月5日付けの毎日新聞によると、「東京都立病院で医療費が支払われないまま1年以上経過した未収入金が、ここ10年で、約6億円から13億円に倍増した。医療費の未収入金は全国の病院で問題化しており、厚生労働省は今年6月に医療団体や保険運営の代表者の代表、学識経験者を集めた検討会を設置している。」という。


 中国やアメリカでは、前金で医療を行うのが通例である。モラルが崩壊した日本もその常識に従う時代となったのであろう。

第66回日本癌学会学術総会 報告 

 第66回 日本癌学会学術総会が、学術会長、鶴尾隆、癌研癌化学療法センター所長のもと、2007年10月3日から5日まで、パシフィコ横浜で開かれた。去年の癌学会と違って、今年は、基礎系に重点を置いた企画が多かった。 約2000題の発表・講演があり、癌に関する情報は、幾何級数的に増大していて、治療の試みもどんどん進んでいるなあというのが実感だった。

 

 特に、岡山大学の藤原俊義先生(岡山芳泉高校の後輩)のがん治療用にデザインしたアデノウィルス「telomelysin」が面白かった。ほかにも、DNAキメラmiRNAやエーザイ や協和発酵の抗がん剤も面白かった。東京大学医科学研究所の中村祐輔先生の癌免疫療法の講演も彼らしく力が入っていた。 日本にも、結構、可能性のある、がん治療デザインがいくつかあるのである。彼らの講演を聞いていると、「癌克服はそう遠い未来ではない。」と感じてしまうほどだ。

 

 日本は、国際的に見ると、少ない予算の割りに、基礎的がん研究に優れている。しかし、それを、ベッドサイドへ持っていく仕組みがな い。新たな薬は、日本ではなく海外でまず、臨床応用がされている。上記の興味深い治療法も開発段階でほとんどがアメリカがらみである。研究をしているのは日本人なのに、恩恵を受けるのはまず、アメリカの人々なのである。これが問題になっていた。 従来の、日本における、薬を商品化するシステムには無駄が多く、コストがかかるため、皆が日本を避けて、アメリカへと進んでいった。それで、今や、日本には、薬を商品化するシステムが なくなったという。

 

 そういう事情を踏まえて、今回の学会では、研究者に抗がん剤開発の社会的仕組みを教える企画があった。癌新薬開発ヴェンチャービジネスの社長や、大手薬屋さんの社長さんが出てきて、抗がん剤の開発の実態が語られ、研究者に社会の仕組みを教え たのである。従来にはない目新しい企画 で、感心した。研究成果を癌退治につなげる社会的な仕組みを理解することは、学者にとっても社会にとっても、癌が治せる可能性が上がるわけだから、確かにとても大切なことだ。

 

 今の日本で、学者が研究成果を薬にしようと思うと、ヴェンチャーキャピタルを利用することになるのであるが、日本の癌新薬関連のヴェンチャー 企業は、17-18あるが2つを除いてほぼすべて収縮しているという。一方、アメリカでは膨らむものと収縮するものが半々だそうである。講演したヴェンチャー社長曰く、「これを言ったら 身もふたもないのだが、アメリカの癌新薬開発ヴェンチャービジネスへの投資家は、皆、財をなした半端でない大金持ちで、 投資家自身が癌を治そうという強い信念を持っていて、成果が出るまで待てる。」のだそうである。日本には、やっぱり 、理念のある半端でない大金持ちが居なかったのか?!

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