たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2007年06月

Difficult Polyp 直径4cmの亜有茎性大腸ポリープの切除

 最近、とある患者さんが来院。まだ、50歳前というのに、聞けば、S字状結腸に亜有茎性の約4cmの大腸ポリープがあって、都内の有名な国立病院で開腹手術を勧められているという。しかし、患者さんは、いろいろな社会的・家庭的諸事情で、どうしても、おなかを開けたくない。そこで、何とか、内視鏡的にその大きな大腸ポリープを切除できないものかと思い、インターネットで調べ上げて、「この先生なら、内視鏡で大腸ポリープを取ってくれるのでは!?」と思い、私のところに来たとのこと。

 

 確かに、私は、これまでに4cm以上のポリープを、百個単位の数字で、内視鏡的に切除してきている。最高6cmの大腸ポリープも内視鏡的に切除したことがある。ただし、固有筋層まで浸潤した進行癌や、粘膜下層の深くに浸潤した癌は、内視鏡的に切除できない。内視鏡的切除の適応条件は、大腸の場合、病変が粘膜内に留まるか、もしくは、浸潤しても病変が粘膜下層の浅くにとどまることである。

 

 「なぜ、開腹手術を勧められたのですか?」と聞くと、「病理検査でははっきりと癌細胞が見つかったわけではないが、バリウム造影によるレントゲン検査で大腸壁の変形が強く、病変の一部が癌化して、粘膜下に深く浸潤している可能性があるから。」といわれたとのこと。「病理検査で腺腫であっても病変の一部が癌化していることも多く、取らなければ、癌が進行する危険性が高い。」ともいわれたそうだ。

 確かにそれは正しい。だが、大きなポリープの表面の組織検査で、腺腫の診断が出ている場合、仮に、病変の一部が癌化しているとしても、一般に、80-90%の病変は癌が粘膜下に浸潤していない。また、亜有茎性のポリープの場合、バリウム造影レントゲン検査の深達度診断の正診率は50-70%ぐらいでそんなに高くない。

 

 そこで、拡大内視鏡で、病変をみた。表面には、浸潤に特徴的なびらんはなく、浸潤を示唆する微細文様、pit pattern Ⅴnもない。ただし、病変は大きく、大腸の管腔をほぼ塞いでいて、切除は技術を要する状況である。

 熟練した内視鏡医なら、こういった病変は、まずは取ってみるとしたものである。取った標本をみて、病変が癌化していたどうか、粘膜下層まで癌が浸潤してるかどうか、そして、癌の転移のリスクファクターの有無(すなわち、癌細胞の血管やリンパ管への浸潤と癌先端の組織の異型度)を正確に診断して、その後、追加の開腹手術リンパ節郭清手術が必要かどうか、判断するわけである。組織を顕微鏡で見れば、診断は99.9%正しい。治療方針を正しく決めるためには、内視鏡的切除が一番正しい診断方法でもあるのだ。(こういうのを、治療的診断とも、診断的治療ともいう。)

 日を改めて、内視鏡的切除を行った。ちょっとしたテクニックを使って安全にきれいに病変を切除した。術後は穿孔と出血を避けるために2-3日入院してもらった。病理結果の結果、腺腫内には、巣状に癌細胞の集団があったものの、腫瘍は粘膜下に浸潤しておらず、追加の開腹手術は、とりあえず、不要となった。

 

 ある疑問が湧き、「その国立病院では、どんな先生に診てもらいましたか?」と患者さんに尋ねた。「まず、若い先生に診てもらい、大腸検査も痛かったです。そこで、まず、すごく不安になりました。さらに、その後、いろんな先生が出てきて、なんだか、「たらい回し」された感じでした。」とのこと。

 今、一部の公立病院では、熟練した医師が、過剰勤務と相対的に低い給与体系から、燃え尽きてしまっているという「うわさ」だ。何せ、病院に支払われるお金の多寡は、看護師の数や病名で決まるのであって、ポリープの取り方のうまさで決まるのではないのである から。

老人問題の行政危機は、「家族」重視政策で解決を

1)介護事業大手のコムスン、組織的巨大不正請求が行政処分に、事実上の廃止へ。

2)一方では、社会保険庁の年金納付記録の紛失 さらに 1400万件!国民年金も納付記録削除?!

 さて、このような問題がおこる根本には、制度の無理があると思う。老人を誰が世話して、どう生計を立てるのか?この問題は、実は、故橋本龍太郎首相が1990年代に皆に突きつけた質問に由来する。橋本首相は国民に向かって、「老人をみるのは、家族ですか?それとも、国ですか?」と尋ね、「私のかなえは長男の嫁で、長年の親の世話で、大変でした。ですから、国が老人をみます。」と述べた。思うに、これは、戦後政治が究極のスパルタ的志向の体制であったことを物語るものであろう。家族よりも個人を大事とする、一見かっこいい個人主義思想のように見えるが、実際は、個人と政府を直接つないだスパルタ的集団主義に他ならない。個人は政府とのつながりで生きるということなのだ。

 

 歴史に学べば、家族という仕組みを破壊した、集団主義のスパルタの隆盛は一代限り。結局、家族中心主義を貫いたアテネに、ギリシャの覇権は集まるのである。お亡くなりになった橋本首相は、こういった歴史をご存知であったのであろうか?また、中国では戦国時代は法家の思想を取り入れた秦が覇者となり統一を遂げたあと、平和な時代には、家族を重んじる愛を中心とした思想、孔子、孟子の儒家の思想のもとに、漢は平和と繁栄を極めていくのである。第二次世界大戦後の廃墟の中からの復興には、集団主義は有効であったが、核兵器のかさのもと平和の続く現代においては、集団主義こそ時代遅れなのではないだろうか。集団主義がモラルハザードに結びつき、社会が倒れ てしまった姿は、毛沢東の大躍進政策の失敗、ソビエトの崩壊など、現代史にも明らかである。わが日本でも、今まさに、モラルハザードが露見し、問題化してきているのだ。一方、シンガポールのリカンユウは、家族重視の保険政策を成功させた。

 

 家族は、人類を未来へつなぐタイムカプセルだ。家族は、過去から未来へ、時を超えて我々人間をつないでいく大事な仕組みなのである。あまりに本能的な仕組みなので軽視されてしまってるように思う。家族を大事にするという枠組みの中で、老人問題も考えなければならないのではないだろうか。老親、親、子、孫とつながって暮らす仕組みをサポートする政治が、今の日本に必要だと思う。それが、出生率の改善にもつながるだろう。文化の継承にもつながるだろう。老後は子にみてもらうとなれば、子供を大事に育てるだろう。子供の虐待も減るであろう。

 

 人間の夢は一代ではかなわないことも多い。何代もかけてかなうこともある。

 

  家族というシステムの社会における重要さを考慮すると、相続税は廃止すべきだ。世界には相続税のない国が多い。日本も天皇の世紀(大化の改心以後の奈良大和朝廷時代から平安時代初期までと明治維新以後から現代まで)以外は、相続税がなかった。

 また、子供にも選挙権を与えよう。20歳までは親権者が、子供に代わって投票することにすればいい。 そうすれば、必然的に子供を大事にする政策をとる政党に票が集まるだろう。子供を大切にといいながら、事実上子供は政治からはずされているのが現況だ。

 同様に、認知症の老人を大切にと考えているなら、世話をする子供が、老親に代わって投票できるようにしたら、いいと思う。

テレビ朝日出演、「皇太子殿下、十二指腸亜有茎性腺腫で内視鏡手術へ」という宮内庁発表の解説を行う

 今日は、テレビ朝日のお昼の番組ワイドスクランブルに出演して、宮内庁発表を解説してきた。ポイントは亜有茎性とはなにか?腺腫とは何か?病気の原因は?症状は?取り方は?入院日数が1週間と長いのはなぜか?などなどであった。番組の出演メンバーは、大和田獏さんと大下容子アナウンサーが司会者で、山本晋也監督と川村晃司さんがコメンテイター、レポーターは荒木茂彦さんという構成であった。



 午前11時ごろ、テレ朝に担当ディレクターの渡邊崇さんの案内で入棟。ロビーから続く広い廊下に、大売出しのビラのように、朱書きされた、番組名と視聴率のビラが何十枚も張ってある。視聴率競争って、すごいんだ、なんだか予備校みたいと思いながら、控え室へ入る。控え室は8畳程度の広さで、一部が4畳半の青畳となっている。洗面台と鏡があり、オートロックの分厚いドアであった。そこでディレクターと打ち合わせをしてから、化粧コーナーへ。どこかテレビで見たような人たち、アナウンサーや俳優の人たちがいる。隣にいた、テレビでよく見る美人のアナウンサーさんと「おはようございます」と挨拶を交わして、ここは、テレビ局なんだと妙に納得してしまった。


 本番は、生出演。始まる前は、少し緊張して、動悸を感じた。皇室のビデオが流れている間に席につき、off-airの間、山本晋也監督から「ポリープと腺腫はどう違うのか?」とか「内視鏡の名人という基準は何か?」「先生は自分の検査はどうしているの?」とか、あれやこれやと質問攻めにあって、すっかりいつものお医者さん気分になって、ちょっとリラックス。本番では、皆さんの誘導にしたがって、打ち合わせの順ですらすらと話が進んだ。パネルを示しながら、「亜有茎性とは半球状の形です。腺腫は良性ですが、突然、悪性化してしまう可能性があるので切除の必要があります。十二指腸腺腫の原因は年齢と遺伝などです。十二指腸ポリープに症状は特にありません。入院日数が長いところから見ると皇太子殿下の十二指腸腺腫は大きいのでしょう。」と。さらに、山本監督はわざとボケをいい、パネルの説明を求めて、取り方を示すタイミングを与えてくれた。ボールペンで、ここを切るのだと、粘膜下層を指し示した。川村さんから、「切った後は再発がないのか?」と打ち合わせにない質問が飛んだ。一瞬戸惑ったが、「時々あります。」と答えた。東大のあのメンバーなら、切り残し て局所遺残ということはなかろうが、腺腫は多発しやすいので、別の腺腫が新たに発生して、再発ということが十分ありうるのである。



 それにしても、山本晋也監督の巧みな話術と頭の切れには、すっかり感心してしまった。

皇太子殿下は名川教授の下でESD(内視鏡的粘膜下層切開剥離術)による十二指腸ポリープ切除に成功。穿孔と後出血(コウシュッケツ)のリスクは?

皇太子さま、ポリープ切除手術が無事終了(2007年6月6日19時41分  読売新聞)

 皇太子さまの手術を担当した東大病院の名川弘一教授らが6日夕、記者会見し、十二指腸に見つかったポリープの切除について「予定通り順調に進み、成功裏に終わった」と説明した。 名川教授によると、手術は軽い全身麻酔をかけたうえで口から内視鏡を挿入し、先端の電気メスでポリープを切除する「内視鏡的粘膜下層切開剥離(はくり)術(ESD)」で行われた。ポリープは2センチに満たない人さし指の先ほどで、出血もなく、1時間10分で終了した。 麻酔から覚めた皇太子さまは呼びかけに「大丈夫です。もう終わったんですか」と尋ねられ、病室でベッドの周囲を歩かれて痛みもなかったという。 胃酸を抑える薬を投与し、早ければ8日夜からおもゆで食事を再開、1週間ほど経過を見た後、東宮御所でさらに静養される。切除したポリープは念のため病理検査するという。


皇太子さま:ポリープ除去の手術、無事終了
  毎日新聞 2007年6月6日 22時19分 (最終更新時間 6月6日 22時41分)


 東京大医学部付属病院(東京都文京区)で行われていた皇太子さまの十二指腸ポリープを取り除く手術は、6日午前に無事終了した。午後、治療を担当した名川弘一・医学部付属病院教授らが手術の模様を説明した。手術は午前10時10分から始まり、約1時間10分で無事終了した。出血はほとんどなかったという。切除部分は念のために病理検査する。ポリープの大きさは人さし指の第一関節程度だった。流動食の後、数日後に普通の食事ができるようになるという。【真鍋光之】

皇太子さまのポリープ手術成功 (日経新聞2007年6月6日22:00)

 東大病院で6日実施した皇太子さまの十二指腸ポリープ切除について、担当医の名川弘一教授が同日午後に記者会見し「手術は成功した」と発表した。約1週間入院し、経過を見るという。
名川教授によると、手術は午前10時10分から約1時間10分で終了。内視鏡の電気メスで十二指腸にできた人さし指の先端ぐらいの大きさのポリープを切除した。教授が術後、「大丈夫ですか」と声をかけると、皇太子さまは「大丈夫です。もう終わったのですか」と答えられた。病室では雅子さまと会話し、ベッドの周りを歩かれたという。



 
新聞各紙がインターネットで伝えるところを見ると、ポリープは約2cmぐらいだったようだ。ESDなのに出血が少なかった所を見ると、病変び付着部は十二指腸の大わん側にあったのではないかと思われる。術後の遅発穿孔は、確率は1%以下だが、48時間まではありえる。その期間は絶食が必要。それで、8日の夜(術後2日目)に初めておもゆ、ということである。後出血の確率は約5%ぐらいである。後出血の半数ははじめの3日までにおこるが、2週間までは起こりうる。それで、2週間の安静療養なのだ。ともあれ、手術が順調に終わって、ひとまず安心した。皆さん、ご苦労様でした。

皇太子殿下 十二指腸腺腫になる。 十二指腸ポリープの内視鏡的治療のポイント

皇太子さま、6日にポリープ切除手術 2007年5月31日19時53分  読売新聞)

 宮内庁は31日、十二指腸にポリープが見つかった皇太子さまが6月5日に東大病院に入院、翌6日に内視鏡を使った切除手術を受けられる、と発表した。手術後も約2週間の入院と静養が必要という。記者会見した金沢一郎・皇室医務主管によると、皇太子さまは3月24日の定期健康診断でポリープが一つ見つかり、5月12日には内視鏡で組織片を採取、顕微鏡で検査したところ、ポリープは良性と診断された。十二指腸のポリープ切除手術は胃などと違って切除部位が傷付きやすく、皇太子さまのポリープは非常に珍しい場所にあるという。金沢医務主管は「万全を期すため、東大病院で手術することにした」と述べた。手術後は同病院で約1週間の入院、退院後もお住まいの東宮御所で約1週間の静養が必要という。

皇太子さま、6月6日に東大病院でポリープ切除 (2007年5月31日23:00 日経新聞)

 宮内庁は31日、皇太子さまの十二指腸ポリープの切除を、6月6日に東京大学医学部付属病院で行うと発表した。内視鏡を使った切除術で、開腹はしない。5日から約1週間入院し、退院後も東宮御所で少なくとも1週間静養される。同庁によると、ポリープは「亜有茎性良性腺腫」で、大きなものではないという。ただ十二指腸のポリープは症例が少ないため、万全を期して東大病院で専門医らが切除する。皇太子さまは3月24日に宮内庁病院で健康診断を受けられた際に十二指腸ポリープが見つかり、5月12日に同病院で組織片を採取して詳しく調べていた。

皇太子さま、6日にポリープ切除=東大付属病院で-術後1週間入院・宮内庁  5月31日18時0分配信 時事通信

 宮内庁は31日、皇太子さまの十二指腸に見つかったポリープについて、6月5日に東大医学部付属病院(東京都文京区)に入院され、6日に内視鏡で切除すると発表した。皇太子さまは、3月24日の定期健診で十二指腸にポリープが見つかり、5月12日に宮内庁病院で内視鏡で検査を行った。その結果、ポリープは亜有茎性良性腺腫と確認された。十二指腸のポリープは1万人に2、3人程度の珍しいものであるため、万全を期すため設備や人員が整った東大医学部付属病院で切除し、術後の経過も慎重に診る必要があるという。切除後1週間前後入院し、退院後も少なくとも1週間はお住まいの東宮御所で静養する。

東大病院は万全の体制で内視鏡手術へ

 マスコミ各社が、5月31日、一斉に報じたところによると、皇太子殿下の十二指腸ポリープは、亜有茎性の良性腺腫で、発生部位は腺腫としては非常に珍しい場所とのことである。そして、6月6日に東大病院で切除されることになった。東大病院で行うのは術中の穿孔や大出血に備えてのことである。術後2週間の安静を予定したのは、後出血を危惧しているためである。私は十二指腸も含めて、各種ポリープを山のように取ってきたが、穿孔という偶発症は、万が一といったレベルだが、やはり、一定の率でおきてしまう。病変が大きくなると、穿孔や大出血という偶発症の危険率も上がる。偶発症発生のときは、開腹してでも助けようということなのだ。ちなみに、「十二指腸ポリープは1万人に2-3人」という時事通信の報道には、疑問がある。十二指腸ポリープは、2-3人に一人にはあるありふれた病変である。おそらく、今回の皇太子の十二指腸ポリープ、つまり、亜有茎性の腺腫に限ってのコメントを、解釈し間違えたものと考えられる。

 さて、一般に、十二指腸というのは、結構特殊なところである。管腔がせまく、空気の入れ方によっても、スコープの動かし方にかなり制限を受ける。また、十二指腸壁は、1mmの薄さの大腸よりもさらに薄い。特に、膵臓で裏打ちされていないところの、内視鏡的処置は穿孔しないように細心の注意が必要だ。筋層と病変の間に液体を注入して、穿孔のリスクを減らすEMR法を採用するのも一法だろう。十二指腸では、キャップ法やITナイフは穿孔例の報告が多いので、お勧めできない。スネアで切断するとき、通電して妙に硬い感じがしたら、筋層をつかんでいる可能性が高いので、スネアの握りなおしが必要だ。スネアは腰の強すぎるのは避けたほうがよい。病変が大きかったり、特殊な形をしていてスネアがうまくかからないときは、無理に一括切除しようとするより、分割切除のほうが穿孔のリスクは低い。また、十二指腸ポリープは切除後に病変が奥へ落ちていくと予想されるので、病理標本を確実に得るためには、2チャンネルスコープを用いて、ダブルスネア法でやるのがいいだろう。

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