たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2007年05月

がん対策の政府案・厚生労働省案がまとまる。しかし、これでは癌死亡が減らないのは明白。真理に目をそむけず、学問の進歩を学んで、効果的な政策を取ってほしい

本日、以下のような報道が流れた。

<がん対策>10年内に死亡率20%減少へ 推進協が計画案  5月30日22時17分配信 毎日新聞

政府のがん対策推進協議会(会長、垣添忠生・日本対がん協会長)は30日、がん対策基本法に基づく「がん対策推進基本計画」案をまとめた。がんによる死亡率(75歳未満)を10年以内に20%減少させ、患者・家族の苦痛軽減と療養生活の質を向上させることを全体目標に掲げた。計画は6月中に閣議決定される見通しで、患者の声を大幅に取り入れた初のがん対策が動き出す。がんは81年から日本人の死因第1位で、現在も年間30万人以上が死亡している。政府は84年度以降、3次にわたる「対がん10カ年総合戦略」を進めているが、今回の基本計画は、法律に基づく初の計画。策定には患者代表4人が参加した。計画は重点課題として、放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)の充実▽痛みを軽減する緩和ケアの推進▽患者の予後などを調査する「がん登録」の整備――を提示。実現するための対策も提言している。一方、協議会がいったんは合意した「喫煙率半減」の目標は盛り込まれなかった。計画に付帯される委員の意見集に「数値目標として掲げることが望ましい」と記載するにとどまった。【須田桃子】

 <がん対策推進基本計画の骨子>

 ■全体目標
▽10年以内に死亡率の20%減少
▽患者・家族の苦痛の軽減と療養生活の質の向上

 ■重点課題と主な目標
▽放射線療法や化学療法の推進=5年以内に全拠点病院で実施体制を整備
▽治療の初期段階からの緩和ケアの実施=10年以内に、がん治療に携わる全医師が緩和ケアの基本知識を習得
▽がん登録の推進=5年以内に全拠点病院の担当者が研修を受講

 ■その他の主な施策と個別目標
▽在宅医療を選択できる患者数の増加
▽3年以内に全2次医療圏で相談支援センターを整備
▽5年以内に乳がんや大腸がんなどの検診受診率を50%以上にアップ

 結論から言うと、これではだめである。敗戦濃厚だ。

 重点課題として、1)放射線療法や化学療法の推進がうたわれているが、現時点の化学療法・放射線療法は、生存期間は延長するが、5年生存率は改善しないというのが定説。したがって、この方法では死亡率は減らない。内部矛盾している案だ。2)また、緩和ケアというのは、そんなに難しいものでなく、患者に愛情を持っていれば習得は簡単。薬も昔に比べて随分よくなっている。むしろ、医師が患者に愛情をもてるような環境を作れるかどうかが問題。いまや、医師の労働環境は劣悪化している。3)癌登録は悪くはないが、だからといって、集団で同じことをしていると、現況は打破できまい。いろんなことを試すものがいたほうが、ブレイクスルーは生まれやすい。進行癌や転移がんに対する治療は、以前に比べれば進歩しているが、大局的には手詰まり状態が続いている。4)むしろ、分子病理学の進展・応用による新薬の開発・促進が急務であろう。5)現況で、癌の数を減らすには、癌の原因を除去するのがもっとも効果的である。たばこ、ピロリ菌、肝炎ウィルス、アルコール、パピローマウィルス。分かっているのになぜやらないのか?やろうとしないのか?


 私が会長であれば、次のような政策を掲げるであろう。


●たばこの販売禁止。

●国民全員に対するピロリ菌の検査と陽性者の除菌。

●国民全体に対する肝炎ウィルス、パピローマウィルスの検査と治療、ハイリスク者に対する濃厚検診。(一方ではローリスク者の検診免除)。 

●胃癌、食道癌、乳癌、大腸癌などは、検診を社会保険加入の要件として、検診の受診率を上げる。

東京 1)松岡農林水産大臣 自殺 2)社会保険庁:年金納付記録紛失 5095万件!

 5月28日米国から帰国したら、衝撃的な事件が2つ起こっていた。ひとつは、松岡農林水産大臣自殺。緑資源機構の官製談合事件の追及を逃れるための自殺であったのは誰の目にも明らかである。またひとつは、社会保険庁の年金納付記録紛失5095万件、すごい数字だ。社会保険庁も相当おかしい。解体が決まり、職員のモラル低下は目を覆うばかりの惨状である。


 1990年代初頭に始まったIT革命と、東西冷戦消失による世界貿易の活性化により、いまや、国はその体制を競い合う時代に突入している。資本、人材、情報が国境を越えてダイナミックに動いている。明日の発展が期待できない国には、資本や人材が集まらず、衰退している。明日の期待される国には資本も人も集まってますます繁栄している。高い公的強制納付金(税金や健康保険、年金)と低い行政サービス、不正の横行する非効率な政府があるわが国からは、今後、さらに資本や人材が国外に流出していき、このままでは、衰退の一途をたどることになるのは明白だ。衰退とは、他の国では治せる病気を、日本では治せないということだ。例えば、慢性胃炎のピロリ菌退治のように。


 不正を正し、無駄をなくし、効率的で機能的な政府を作るという政策こそが、わが日本国が滅びないための急務の課題であろう。


●不正を正すため、予算執行におけるお金の流れを、すべて、ガラス張りにする必要がある。予算執行はすべて電子マネーを使い、誰がいつ誰に対していくら、どういう名目で、予算を動かしたか、インターネットに公表すべきだ。

●また、行政サービスの効率化と機能化のために、米国のようなソーシャルセキュリティカードのような、個人を特定できるカードを作り、それを行政サービスの基本とする必要がある。


 しかし、よく考えてみると、


●一番大事なのは、政治家や官僚からシロアリ精神を排除することだ。戦後、先輩たちが苦労の末に築きあげた建物を、えさとして、むさぼるのは止めてほしい。

ワシントン  2004年現大統領ジョージWブッシュ建立 第二次世界大戦石碑、ミッドウェイ海戦 危機を乗り切った米国の信念と技術と勇気

 5月19日から5月24日までワシントンで米国消化器病週間(DDW)が開催された。5月のワシントンは、気持ちのよい青空であった。リンカーン記念館から見る独立記念塔は、北国特有の5月の北西から強い夕日を浴びて輝き、天を突き刺し立っていた。今回のワシントンは、33年ぶりの訪問であった。以前は、ホワイトハウスの執務室まで見学できたのだが、今回は、ホワイトハウスをはるか遠く500mぐらいのところからしか見ることができず、残念であった。2001年の9/11世界貿易センター事件以来の、タリバンやイラクをはじめとするイスラムとの戦いが、ホワイトハウスを開放できない最大の理由であろう。昨年秋、モスクワのクレムリンには、数十メートルまで近づけたのだが・・・・・。ただし、その代わりに、スミソニアン航空博物館が面白かった。アポロ計画による月探査や、各種のロケットの展示に迫力があった。


 ところで、観光して驚いたことがあった。独立記念塔の脇に、現在大統領をしている、ジョージWブッシュが第二次世界大戦記念のモニュメントを建立していた。その中に、第二次世界大戦で米国と日本の勝敗の分岐点となったミッドウェイ海戦の一文があった。米国は、開戦前、負ける可能性が高いと考えていたようなのだ。その危機感の高揚と迅速性が、レーダーをはじめとする技術の優位と、空母をたたくという優秀な作戦をもたらしたらしいのだ。逆に言うと、日本軍の慢心と技術開発の遅れ、発想の貧困がこの海戦の敗因だったらしいのである。なんだか、今の日本の官僚や政治家たちと同じだなと感じた。残念で恐い話である。危機に瀕しての対応は米国に学ぶべきだ。医療でもそうだが、戦いは 技術と信念とタイミングを逃さない勇敢さが大事なのだ。真実や真理、科学技術の進歩に背を向けて、自らの利益を追求し続ければ、黒船に叩かれて、崩壊するしかあるまい。

BATTLE OF MIDWAY  JUNE 4-7, 1942

They had no right to win, yet they did, and in doing so they changed the course of a war.

Even against the greatest of odds, there is something in the human spirit - a magic blend of skill, faith and valor - that can lift men from certain defeat to incredible victory

ワシントンDDW(米国消化器病週間)報告 NOTES誕生

 さて、今回のワシントンDDW米国消化器病週間の目玉はなんと言っても、「NOTES」であろう。Natural Orifice Transluminal Endoscopic Surgery 略して NOTES。1999年、私が、破れた消化管をクリップで縫合した十数例をオーランドDDW米国消化器病週間で初めて発表した。そして、内視鏡でも破れた消化管を縫合できるという概念が生まれた。これが基礎になり、EMRがさらに進化して、より攻撃的なESDの技術が進歩した。その一方で、内視鏡で破れた消化管を縫合する技術の開発が進み、今度は逆に、消化管を破って何かできないかという、発想が生まれてきた。胃を切り開いて、内視鏡を腹腔内に進め、経胃的に腹腔鏡を行う、豚を材料にした動物実験が進められた。2年前のシカゴのDDWで、経胃的腹腔鏡を行い、虫垂を切除した人体での世界初の一例が(インドで実施)ビデオで、発表された。そのときは、口から出てくる虫垂を見て、大変驚いた。凄いことをするものだなと。


 そして、今回、胃経由だけでなく、大腸や膣経由の腹腔鏡も含めて、これらの腹腔鏡による手術に、新たな命名がされた。それが、「NOTES」である。今回は、人で行われた、経大腸的、大腸右半切手術や、豚に対する経大腸的左腎臓摘出術や、豚に対する経胃的膵尾部切除術などなどのすごいビデオが発表されていた。まだまだ、実験的なこのNOTESが今後どう育っていくのか、注目される。米国は、ESDを飛び越えて、NOTESへと進んでいる。

 

第73回日本消化器内視鏡学会総会報告   カプセル内視鏡・経鼻内視鏡・ダブルバルーン式小腸内視鏡・拡大内視鏡・特殊光内視鏡・超拡大内視鏡・レーザー共焦点式内視鏡

 5月9日から11日まで、新緑薫る、東京のグランドプリンスホテル新高輪と国際館パミールで、東邦大学医学部消化器内科教授 三木一正先生会長のもと、第73回日本消化器内視鏡学会総会が開催された。いろいろと勉強になったが、個人的には、特別講演2の愛知癌センター腫瘍病理部長、立松正衞先生の話が面白かった。ピロリ菌には梅エキスの中のリグナンという成分がよく効くと発表していた。実験室レベルでのデータだったが、臨床的にはどうなのだろうか、引き続きの研究発表が期待される。また、系統発生のはなしで、鳥には大腸がないとか、胃の酸と消化酵素が別々の細胞から分泌されるのは、脊椎動物の中でも哺乳類だけ?!だとか、大腸腺管は腺管ごとにmonoclonalだとか・・・結構面白い話を教えてもらった。話題の主体は、胃の腸上皮化成のはなしで、sox2,cdx1,cdx2やmuc5ac,muc2+mac5ac,muc2・・・といったものとの胃癌発生母地である腸上皮化成の絡みや、胃癌は幹細胞レベルからではなく、もう一歩進んだ前駆細胞レベルででてくるとかといったことであったが、脇のほうが面白かった。


 経鼻内視鏡・拡大内視鏡・特殊光内視鏡・超拡大内視鏡・レーザー共焦点式内視鏡など
各種の内視鏡がこの10年ほどの間に、開発され臨床応用されている。これらのスコープ開発の方向性は大きく3つあり、より簡単に、楽に検査をおこなうという第一の方向性と、より正確により精密にという第二の方向性と、見えなかったもところ(小腸)をなくすという第3の方向性である。第一の代表が経鼻内視鏡・カプセル内視鏡である。第二の方向性が拡大内視鏡・特殊光内視鏡・超拡大内視鏡・レーザー共焦点式内視鏡である。第3の方向性がカプセル内視鏡・ダブルバルーン式小腸内視鏡だ。それぞれの方向に、臨床的な経験やアイデアが積み重なって、発展していく経過を見るのは、楽しいことだ。オリンパスからモノバルーン式小腸内視鏡が新たに発売されていた。内視鏡の分野はすべて、わが社でやるぞ!というオリンパス社の気概を感じた。

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