たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2007年04月

第93回日本消化器病学会総会報告 EMRとESDのすみわけ

 4月19日から21日まで、青森県の青森市で、弘前大学第一内科教授 棟方昭博会長のもとで第93回日本消化器病学会総会が開催された。


 小さな町で、宿泊施設と飛行機便を確保するのにかなり苦労した。結局、行きは陸路新幹線となり、前日は八戸に一泊して、学会初日に青森市に乗り込んだ。


 学会では、多くの時間を、「ESDとEMRのすみわけ」というテーマに費やしていた。

 

 ESDはEMRに比べて、切除範囲を正確に切除できるが、時間がかかる。また、技術を習得するまでにも多くの症例と時間がかかる。そろえる道具も少なくなく、現行の胃ESD=12万円では病院経営を圧迫するという話もあった。去年、学会は胃ESDの保険収載を24万円で厚生労働省に希望したそうであるが、結果は半額回答の12万円であったとのこと。ESDには、スタッフは熟練したものが3-4人必要で、2-3時間かかり、十分な器具をそろえるとすれば費用もかかる。それらを十分考えれば、厚生労働省はESD=12万という価格は再検討が必要であろう。


 食道:発表数、症例数が少なく、結論や推薦ガイドラインもなし、あまり討論にならず。


 胃:一括全切除が病変を病変の再発・遺残をさせないポイントという、歴史的反省の上、EMRの上手な施設では、20mm、EMRが下手なところでは5mmを境にしてEMRとESDがすみ分けるべきと主張。胃におけるESDの穿孔率は、2-7%ぐらい。修練すると穿孔率は下がってくるようだ。


 大腸:拡大内視鏡検査によるpit pattern diagnosis (ピットパターン診断)で、正常と腫瘍の境界がはっきりとわかること。また、病変の悪性度の高いものがまれであることから、分割EMR(pEMRもしくはEpMR)でも、病変を残す確率が極めて低かったというpEMRの歴史的評価の上、スロープ形の陥凹(工藤進英教授はpseudo-depressionと呼ぶが、陥凹していることは事実なので、用語としては変だ!)を伴う2cm以上のLST(側方発育進展型腫瘍)病変のみがESDお勧め病変ではないかとの意見が強かった。大腸ESDの穿孔率は、5-15%。大腸では修練しても穿孔率はあまり下がらないとのコメントもあった。


 私としては、胃は1.5cmぐらいがすみわけの境。大腸では、ESDの穿孔率の高さと分割切除の安全性より、すべての病変について、pEMR=EpMRを第一選択とするべきで、ESDは 一般的には、かなり、危険だと考えている。

 

 帰り道の途中に、雪の八甲田さんにドライブし、さらに、三沢までいって、静かな湖と太平洋の荒波をみた。青森県は自然エネルギーの宝庫だった。

日本内科学会報告 1)三谷絹子教授 2) 驚いた鳥インフルエンザ(H5N1)の実態 3)因縁、札幌医大のaberrant crypt foci-adenoma-carcinoma sequence theory 

 ちょっと遅くなったが、報告しておく。4月4日から4月6日まで、大阪の国際会議場で日本内科学会が開かれた。内科学会は、内科の各分野でのエキスパートが時の話題を講演するという形で行われている。今回の講演は約34個あった。私が拝聴したのは33個。


 血液分野の講演は、同級生の並木絹子さん、改め、三谷絹子独協医大教授の、「白血病の分子病態と分子標的療法」であった。内容は、慢性骨髄性白血病に対するグリベックやAPLに対するアトラを中心にしたものであった。私としては、最後にちょっとだけ見せた、新たに、治験している薬や、申請中の薬をもっと詳しく紹介してほしかった。グリベックやアトラは、何年も前に開発されたもので、消化管専門の私ですら、何回も講演を受けている。特にグリベックは、昔で言う胃肉腫の一部、今の言い方ではGISTの大半に効果があり、消化器の分野でもずいぶん紹介されているのである。厚生労働省の何とか班の班長さんなんでしょ、新しいことをもっと教えて! 


 


  鳥インフルエンザは、以前から社会的にずいぶん騒がれている。しかし、なぜそんなに騒ぐのか、いまいちよくわからないところがあったのだが、今回の東北大学押谷仁先生の講演を聴いてやっと納得がいった。報告された数は288例なのだが、死亡率が59%という高率なのだ。タミフルが効かないことあり!。しかも、細胞にくっつく部分の分子構造が突然変異を起こすと、人にも広まるらしいのだ。大量感染死亡で時代が変わるかもしれない。14世紀のヨーロッパはペストで滅び、21世紀の世界(特にアジアとアフリカ)はインフルエンザとエイズで滅びる? 

 


  札幌医大の新津洋司郎教授は、「大腸癌発育進展の分子機構とchemoprevention」を講演した。講演の中で、研究のきっかけは、「とある会社がもってきた、拡大内視鏡」とのこと。「これで何ができるかな?」と考え、研究が始まったとのこと。 約13年前、私は、当時世界ではじめて臨床的に使えるピットがみえる電子内視鏡(後のec7cm2)を、FUJINONと共同開発して、招かれて、北大と札幌医大に講演に行ったことがある。なんだ、私の拡大内視鏡の実演と講演がこの成果の始まりだったのか・・・。私が臨床の嵐の中で戦っている間に、北の大地では、新津教授指導のもと、高山哲治先生中心に新たなる大腸癌発癌メカニズムを解明したというわけだ。


 有名なVogelsteinの大腸発癌モデルとすこし違う経路を発見したのである。ポイントは、「1-2mmの小さな、メチレンブルーに濃染する病変=aberrant crypt foci=10数腺管の病変のなかにもすでに、RAS遺伝子の突然変異がある」という事実を見つけた点である。必ずしもAPCが先でなく、RASが先に変異する経路もあるのだ。名づけて、aberrant crypt foci-adenoma-carcinoma sequence theory。今は研究がさらに進んで、COX-2の阻害によるのではなく、RAS下流のひとつGST-Πの阻害による新たなる大腸発癌予防薬を開発中とのこと。是非成功してもらいたい。(ちなみに、COX-2阻害剤は、米国で精力的に開発されていたのだが、心筋梗塞が増えるということで、p3=フェイズ3=多数患者臨床治験の段階で2-3年前に頓挫している。)ただ、ras変異を起こさない大腸発癌経路、すなわち、平坦陥凹型癌はGST-Π阻害剤では理論的に予防できないよね・・・残念ながら。

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