たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2007年02月

大腸内視鏡挿入時の大腸穿孔事故の回避方法

 先ごろ、知り合いの先生の病院で、大腸内視鏡挿入時の大腸穿孔事故が2件立て続けに起こったそうだ。一例は、S状結腸の大きな憩室を大腸の管腔と勘違いしたのが、原因。また、一例は卵巣部の癒着により挿入が困難な症例であったそうだ。それぞれ、大腸内視鏡を始めて、約500例目の先生と、約1500例目の先生が起こしたそうだ。昨日、その病院に用件があって出向いたとき、知り合いの先生から、どうすれば、大腸内視鏡挿入時の大腸内視鏡穿孔事故を回避できるのかと尋ねられた。

 大腸内視鏡挿入は、簡単な症例もあるが、難しいときは本当に難しい。だいたいベテランの私でも、400例に1例くらいは困難、1000例に1例は超困難と感じる症例がある。難しくなったとき、内視鏡が進まなくなると、内視鏡医師はあせり、いらつく。その感情が理性に勝って、無理な操作をすると穿孔につながる。感情が高ぶると無意識に手に力が入ってしまうものだ。手にかかる力は、作用・反作用の法則で、まさに、腸壁にかかっている力だということを忘れないようにしてほしい。

 内視鏡医師は感情が高ぶったら、それを自覚して認識して、冷静に自己コントロールを図る必要がある。急ぐのをやめ、内視鏡から手を離し、鉗子挿入口を全開にして10分ぐらい休むとよい。お茶でも飲んで気分をかえる。腸管から空気が抜けて、大腸の形が変わり、突然、入りやすくなるということもある。また、体型にあったスコープに代えるのも手だ。やせた人なら、細いスコープに、太った人なら、太いスコープというぐあいに。もちろん、やっぱり、入らないということもある。500例目ぐらいだと、回盲部までの全大腸の挿入率は90ないし95%ぐらい(10ないし20件に1件は入らない)、1500例では、97ないし98%ぐらい(40件に1件くらい入らない)が平均的だから、入りにくいものは無理をせず、それ以上の挿入を諦め る。穴を開けるよりはマシだ。そして、日を変えて再トライするなり、更なる上級者にお願いするのが良いと思う。

 私は、これまで、約4万件の大腸内視鏡検査を行ってきたが、「やさしい操作」と「熱くなったら一休みの精神」を心がけることで、幸いにして、大腸内視鏡挿入時には大腸穿孔を起こしたことはないが、それでも、油断はしていない。

第3回 日本消化管学会総会学術集会 報告

 2007年2月1日・2日の二日にわたって、東京港区芝の東京プリンスホテルパークタワーで、杉原健一東京医科歯科大学大学院腫瘍外科教授に会長により、第3回日本消化管学会総会学術集会が開かれた。消化管全般のトピックがコンパクトにまとめられて、結構効率よく情報が得られた、よい会であった。


  まず、中国のエイズの感染の広がりや、タイでのStrongyloidiasis(糞線虫症)の実態などについて、現地の先生の話を聞くことができた。  


 上海のSu Zhang先生によると、中国ではエイズの感染者は確定で183773人、推定でなんと86万人もいるという。エイズ予防の中国の国家予算も鰻上りだそうだ。

(何も対策を採らなければ、中国では2010年までに、エイズ感染者が1000万人以上になる?By Dr Su Zhang)

 

 糞線虫症は日本ではほとんど見かけない病気だが、タイでは多く、皮膚から侵入し十二指腸などの消化管に潜む病気である。急性症では皮膚の下を這い回り、肺を侵し、診断が遅れると死ぬことまである。全身を寄生虫が食い荒らした、日本では見たこともないような悲惨なスライドを、バンコクのSombat Treeprasertsuk助教授が見せてくれた。


 また、独協医科大学(藤盛孝博教授ら)から、癌の発生について従来の常識を覆すような面白い症例が発表されていた。白血病で骨髄移植し、お姉さんから骨髄をもらった男性患者に発生した口腔内の扁平上皮癌の性染色体を分析したところ、XXの女性型であったという報告である。つまり、癌は骨髄にある癌幹細胞cancer stem cellからやってくるのではないかという報告である。胃癌でもそのような学説が唱えられており、異性間での骨髄移植後に発生した癌の性染色体解析の症例蓄積が期待されるところだ。癌にも性別があったのである。大腸癌や大腸腫瘍はどうなのか? 今後の発表が期待される。


 潰瘍性大腸炎の難治化とサイトメガロウィルスの関係についても、京大や東大などからいくつかの発表があり、大変興味深いものがあった。京大のNakase Hiroshi先生の発表では、炎症のあるところにだけ、サイトメガロウィルスが必ず見つかるのだそうだ。研究が進めば、潰瘍性大腸炎も胃炎のように、感染症だったというような時代が来るのだろうか?

(PCR法によるCMVサイトメガロウィルスの検出率 炎症部17/17:100%、非炎症部0/13:0% by Dr. Nakase Hiroshi)

 

 私が関連した発表は、同僚の東京大学腫瘍外科講師、北山丈二先生のアディポネクチンadiponectinの胃癌抑制効果に関する発表であった。男性において、脂肪が高い人には、大腸腺腫や大腸癌などの大腸腫瘍が多く発生するという、私の大腸腫瘍のデータ解析結果(詳細)を受けて、それはなぜかと考えていくうちに、アディポネネクチンadiponectinの抗腫瘍効果を発見したようだ。アディポネクチンadiponectinは動脈硬化を抑える働きがあると知られている生体内物質で、もともと比較的多くある物質である。したがって、アディポネクチンadiponectinの補充による癌抑制の臨床実験も、理論的に安全にできる可能性が高い。アディポネクチンadiponectinの補充による癌抑制効果は、ねずみと同じく人でも癌抑制効果が臨床的に認められるのか、また、その効果の強さはどれくらいか、今後の展開が期待されるところだ。


 1日目の夜には学会主催の懇親会を行われて、高名な先生方 (北海道大学消化器内科教授 浅香正博先生、杏林大学医学部第3内科教授 高橋伸一先生、獨協大学総長 寺野彰先生、通産産業省診療所所長、星原芳雄先生、名古屋経済大学人間生活科学部管理栄養学科 教授 伊藤誠先生 助教授 早川麻理子先生、日本消化器病学会理事長を長年お勤めになった、元女子医大教授 竹本忠良大先輩など)ともワイン片手にフランクに話ができた。ピロリ菌退治による胃癌予防の厚生労働省による見送りの経緯や、偏在し甘やかされる研修医問題、病院から熟練医が逃げ出す医療崩壊、低い医療費、サプリメントなど怪しい情報をたれ流すテレビ広告などなど、日本全国の医療事情の悪化が話題の中心であった。

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