1) バリウムによる上部消化管検査では、食道癌は助けられない。食道癌は凹凸が出ると、粘膜下(SM)浸潤している。sm癌の5年生存率は40%以下である。したがって、食道癌を100%助けようと思えば、粘膜内に留まるうちに見つけなくてはならない。 ところが、粘膜内の癌は大半が平坦で形態的な変化がない。バリウム造影検査は、形態の変化を捕まえる検査である。したがって、バリウムで 見つかった癌は、理論的にsmよりも深い癌である。つまり、助けられないのである。
2) 胃癌の発見率について、内視鏡検診は、平均して、バリウム造影検診の3倍である。
3) 便潜血反応の進行癌を見逃す率は30%である。進行大腸癌だとわかって手術目的で入院してくる患者に対して、便潜血反応を行ったところ、陽性70%、陰性30%。つまり、進行大腸癌の30%は便潜血反応 で、見落とされる。
4) バリウム検診では、慢性胃炎は正常として取り扱われる。慢性胃炎は胃癌発生のリスク状態なのに、正常と言うコメントがなされる場合が多い。
5) ピロリ菌の感染の既往がない人には胃癌ができない。胃癌の出ない人に胃癌検診をする必要はないのに、ピロリ菌の感染既往の有無にかかわらず、日本では全員バリウム検査をしている。
以上の内容は、臨床医として必須の知識なので、学生に教えるわけである。これらの内容が示すところは、バリウム検診・便潜血による消化管癌検診は実は穴ぼこだらけということなのである。よく考えてみるとお分かりだと思うが、これは、今の権力にとっては不都合である。なぜなら、「がん検診をうけていれば大丈夫。お上の指導する内容に誤りはありません。あるはずがないじゃないですか!」という立前なのだから。「穴ぼこだらけなものを、権力が民に押し付けている」なんて、いえない。権力の座、利潤の仕組みから落ちこぼれてしまう。
権力が真実を曲げて報道する。権力の嘘を真に受けてしまい、現場にいないと、医師でも、間違った常識を持ってしまう。もっと怖いことは、権力に良心を売った医師や看護師、レントゲン技師、カウンセラーが、自分たちの利益のために、仮面をかぶって平気で、嘘を振りまいてい く。そんな姿をずいぶんと見てきた。美しいのはうわべだけ、闇の心だ。真実は悲しみに満ちたがん患者の家族の涙、がん患者の苦痛という悲惨な現実である。それもずいぶんと見て来た。なにが、「美しい日本」なのか?
真実は「お上から推奨されて実施されているがん検診は、経済的理由から、そんなに大丈夫ではない」のである。このがん検診をめぐる諸問題は、官僚の無謬神話と同根の問題なのであり、現在、日本の最大の問題(強権官僚の無責任性・無罪性)と強く 関係している。官僚の行ったこと・言ったことが間違いでも、官僚は罪を問われない。
癌学会の演者は、国立がんセンターの杉村先生である。この権力の中枢に近い方が、どこまで、本質をえぐるか?興味深い。