たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2006年09月

「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」第2話 がん検診を含めてがん問題全般 その1 がん検診

  私は4年前から、内視鏡診断を中心に、東大の医学部学生を相手に講義を担当している。その際、必ず教えるのが、がん検診の問題である。

 

1) バリウムによる上部消化管検査では、食道癌は助けられない。食道癌は凹凸が出ると、粘膜下(SM)浸潤している。sm癌の5年生存率は40%以下である。したがって、食道癌を100%助けようと思えば、粘膜内に留まるうちに見つけなくてはならない。 ところが、粘膜内の癌は大半が平坦で形態的な変化がない。バリウム造影検査は、形態の変化を捕まえる検査である。したがって、バリウムで 見つかった癌は、理論的にsmよりも深い癌である。つまり、助けられないのである。


2) 胃癌の発見率について、内視鏡検診は、平均して、バリウム造影検診の3倍である。


3) 便潜血反応の進行癌を見逃す率は30%である。進行大腸癌だとわかって手術目的で入院してくる患者に対して、便潜血反応を行ったところ、陽性70%、陰性30%。つまり、進行大腸癌の30%は便潜血反応 で、見落とされる。


4) バリウム検診では、慢性胃炎は正常として取り扱われる。慢性胃炎は胃癌発生のリスク状態なのに、正常と言うコメントがなされる場合が多い。


5) ピロリ菌の感染の既往がない人には胃癌ができない。胃癌の出ない人に胃癌検診をする必要はないのに、ピロリ菌の感染既往の有無にかかわらず、日本では全員バリウム検査をしている。

 

 以上の内容は、臨床医として必須の知識なので、学生に教えるわけである。これらの内容が示すところは、バリウム検診・便潜血による消化管癌検診は実は穴ぼこだらけということなのである。よく考えてみるとお分かりだと思うが、これは、今の権力にとっては不都合である。なぜなら、「がん検診をうけていれば大丈夫。お上の指導する内容に誤りはありません。あるはずがないじゃないですか!」という立前なのだから。「穴ぼこだらけなものを、権力が民に押し付けている」なんて、いえない。権力の座、利潤の仕組みから落ちこぼれてしまう。


  権力が真実を曲げて報道する。権力の嘘を真に受けてしまい、現場にいないと、医師でも、間違った常識を持ってしまう。もっと怖いことは、権力に良心を売った医師や看護師、レントゲン技師、カウンセラーが、自分たちの利益のために、仮面をかぶって平気で、嘘を振りまいてい く。そんな姿をずいぶんと見てきた。美しいのはうわべだけ、闇の心だ。真実は悲しみに満ちたがん患者の家族の涙、がん患者の苦痛という悲惨な現実である。それもずいぶんと見て来た。なにが、「美しい日本」なのか?


 真実は「お上から推奨されて実施されているがん検診は、経済的理由から、そんなに大丈夫ではない」のである。このがん検診をめぐる諸問題は、官僚の無謬神話と同根の問題なのであり、現在、日本の最大の問題(強権官僚の無責任性・無罪性)と強く 関係している。官僚の行ったこと・言ったことが間違いでも、官僚は罪を問われない。

 

 癌学会の演者は、国立がんセンターの杉村先生である。この権力の中枢に近い方が、どこまで、本質をえぐるか?興味深い。

「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」第1話 がんにならないためには その3 多重がん

  大腸癌に罹った人は、胃癌を併発しやすく、胃癌に罹った人は、大腸癌をよく併発する。だから、大腸癌の手術前には、上部内視鏡検査を行い、逆に、胃癌の手術前には大腸内視鏡検査を行って、大腸癌の併発がないか調べるのである。大腸に腺腫(前癌病変)がある人は、大腸腺腫がない人に比べて、大腸に限らず、全身どこの癌も発生しやすい。一回癌になった人は、しばらくすると 、その他の場所にも癌が出やすい。したがって、癌に罹った人は、別の場所に、癌が重ねて出てこないように、十分注意しなければならないのである。


  私が診た患者で、一番の多重がんは、カルチノイド腫瘍(大腸癌の一種)が、直腸に46個以上、異時性異所性に、多発した人である。第2位の多重がんは転移を繰り返しながらもすべて、早い段階での発見により外科的切除が行われて、いまだに生きている、大腸癌2個ー肝臓癌ー肺癌ー食道癌という人 である。そのほかに、大腸癌ー胃癌ー前立腺癌。乳癌ー胃癌ー肺癌。大腸癌ー食道癌ー肝臓癌。食道癌ー大腸カルチノイドー十二指腸癌。異所性異時性に、食道癌ー食道癌ー食道癌ー食道癌。また、大腸癌を6個同時に異所性に発見といった症例もある。奇妙な言い回しであるが、何回も癌になる人は、幸運である。なぜなら、癌に何回もなれるということは、前の癌で死ななかったからこそ、次のがんに罹患 できた?のである。3回以上の癌に罹った患者さんたちは、実は、ほとんどが生き延びている。


 私の経験のうち、死んだのは、乳癌ー胃癌ー肺癌の一人だけかもしれない。この人は、 大腸腺腫が合計30個程度あった。家族歴にも癌が多数あり、明らかに癌体質であった。2発目の胃癌は、内視鏡で発見され、内視鏡で切除できた。この方はヘビースモーカーであった。私は、癌体質だから、たばこをやめないと肺癌になると、説得し続け た。普通、癌になっていると、忠告するまでもなくたばこを止めてくれるものであるが、この人は、しかし、「社会的ストレス回避」といって、たばこを止めなかった。そして、9年目に ついに肺癌が発生して、 骨転移・脳転移と壮絶な2年間の闘病の末、お亡くなりになった。自分は癌になるはずないと無防備な人に、症状が出て癌が発見されるような場合、7割ぐらい死ぬ。仮に、運良く3割に入っても、2発目がその5年後くらいに来て、さらに、無防備のままだと、ほとんど が2発目の癌で死ぬ。「がん患者」という語句の響きのとおり、不幸を味わうことになる。ちなみに、膵臓癌の致死率は高く、この癌は、異時性の多重癌を許さない。


  癌が見つかった後、きちんと消化管ドックを定期的に受けている方々は、大腸癌・胃癌・食道癌が見つかっても、ほとんど が内視鏡的に完治している。私は、大腸に腺腫や癌が多発したり、胃癌・食道癌を内視鏡で取った患者に対しては、必ず禁煙を勧めている。しかし、先の症例のように、癌体質なのに、「たばこやめるくらいなら死んだほうがまし」とか「たばこがないと社会のストレスは乗り切れない」とか、私の前では「わかりました」と応えて、たばこのにおいが消えない人は、せっかく、内視鏡で助けても、5年後10年後には肺癌で死んでいる。消化管の癌をできるだけ早期に見つけて助けようと必死になっても、禁煙してもらわなければ、「ざる」なのだ。たばこ が止められなくて、肺癌で死んでいった方々の顔が次々と思い浮かぶ。死に際しての、家族の涙の表情が思い浮かぶ。


  たばこは販売禁止だ!。

「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」第1話 がんにならないためには その2 感染症

  感染症を契機として、発癌の危険が高まることが報告されている主なものは以下のとおり。感染していなければ、該当する癌の発生リスクは極めて低い。不幸にして、すでに感染している場合は、治療できるものは、発がん予防として、治療しておくべきである。
 感染経路予防ワクチン感染の治療法特徴
1.ピロリ菌(胃癌)。詳細のページ土、土に接した飲食物、患者の胃液×

現在、治療技術が確立されているのに、公的医療で受けれない。

2.B型肝炎ウィルス(肝臓癌)血液、産道感染、針事故、輸血○▲特効薬ができて、治療技術は進歩してきた
3.C型肝炎ウィルス(肝臓癌)血液、針事故、輸血、血液製剤×○▲近年では7~8割治せるようになった。
4.乳頭腫ウィルス(子宮頸癌)接触、性交× 
5.EBウィルス(胃癌)接触、キス、性交×× 
6.HTLV-1(成人T細胞性白血病)性交、母乳、輸血××九州を中心として西日本に多い。
7.HIV(カポジ肉腫、悪性リンパ腫)性交、輸血×,▲近年の薬の進歩で、致死の病気ではなくなた。

隣国、中国ではHIV/AIDSに対する、ワクチン投与が試験的に始まっているそうだ。(2007.2月,第3回日本消化管学会情報)

「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」第1話 がんにならないためには その1 生活習慣

 「がんの罹患率と死亡率の激減を達成するには」は、第3次対がん10か年総合戦略の標語である。9月27日から横浜のパシフィコ横浜で開かれる、日本癌学会学術総会で、この標語についてのパネルディスカッションが28日午後から開催される。癌の死亡者数は、毎年増加しており、男性の2人に1人、女性の3人に1人が癌に罹患し、約33万人が、癌で死ぬ時代に、癌をいかに克服して行くかは、緊急の課題なのである。パネルディスカッションには、6人の演者が登場するが、どんな話が出てくるのであろうか、今から楽しみである。


 PD1.がんにならないためにはー生活習慣、感染症、多重がんー演者 富永祐民(愛知健康づくり進行事業団)


 富永先生のところは、がんの疫学的な研究や予防に熱心な施設で、研究発表も多い。かつて、意欲満々の看護師さんがいて、郵送による便潜血反応、郵便検診からのがん予防事業で、協力させてもらっていた。この問題についての、私なりの解答を考えてみたい。


 

生活習慣 1)節酒もしくは禁酒


 節酒は、大腸癌、肝臓癌、胃癌、食道癌、咽頭癌、膵臓癌の抑制につながることが報告されている。肝臓癌、食道癌は昔から、教科書にも記載されていることである。大腸癌、胃癌、膵臓癌については、自らの経験と、学会の報告などを総合しての判断である。


 C型慢性肝炎は、アルコール摂取により、肝臓の炎症がより強くなって、肝硬変になるまでの時間が早くなる。肝硬変になると血小板数が減少してくるが、肝臓癌のハイリスク状態の目安は血小板数8万以下である。食道癌(咽頭癌)のハイリスクは、50歳以上、男性、喫煙、飲酒習慣である。最近の研究では、リスクグループがさらに絞り込まれて、アルコールが代謝されてできる毒素アセトアルデヒドを解毒代謝するアルデヒド脱水素酵素の作用が弱い人に食道癌ができやすいとされている。ただし、最近は、昔と違い、女性も喫煙、飲酒する時代であるので、男性のファクターは、ほんとに食道癌が性ホルモンなどと関連しているのかは、疑問だが・・・。そういえば、不治の進行食道癌と診断されて、昨年、築地の国立がんセンターから逃れてきた、プライベートレストランの50才台前半の女性オーナーは、20年来毎日、ワインを夫と一緒に1ボトル以上開けていたという。ちなみに、夫にも咽頭癌がみつかった。夫婦内 二重癌。


 10年ほど前に行った私の研究で、大腸ポリープが癌化している確率は、日本酒の摂取量に比例して上昇し、毎日5合で、約2倍であった。また、ポリープの数自体も、ビールを大量に飲む人に多く、毎日、ビール1.5リットル飲むと大腸ポリープの発生は、約2倍になっっていた。臨床的にも、一般に接待接待で毎晩明け暮れる方々には、だいたい、大腸ポリープが見つかる。


 最近の学会報告では、ピロリ菌除菌後の3年以後の胃がん発生率は、飲酒群で33%ぐらい、非飲酒群で5%以下と報告されている。



生活習慣 2)禁煙


  肺がんのリスクは、喫煙で上昇する。喫煙者の罹患率はアメリカでは約20倍、日本では約5倍ぐらいと報告されている。今の癌年齢の日本人は、車や工場の排気ガスがもっともひどい時代に生きていたので、肺がん発生に対する、喫煙の寄与率がアメリカよりも低いのであろう。アメリカは広い国で、空気は日本よりもきれいだ。 しかし、私が大腸を見たことのある患者で、肺癌で死んだ人はほとんどが喫煙者であった。ちなみに、大気汚染のひどい中国は、近い将来に肺がん大国にもなるであろう。



生活習慣 3)低脂肪食


 大腸がんと乳がんは、脂肪の摂取量上昇により、罹患率が高まることが報告されている。

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