私が大学卒業後に最初に研修したのは、東京大学附属病院物療内科であった。物療内科(今のアレルギー・膠原病内科)には多くの難治性の患者さんが入院していた。中でも、若い女性が罹患するSLE、しかもSLE脳症は悲惨であった。SLEとは、紫外線を浴びた皮膚が赤く変化する病気で、顔に蝶形紅斑がでて気づかれることが多い。関節痛や発熱、腎炎、脳炎などもおこる難治の病気で、患者さんたちの人生は破壊され る。病気の本態は、原因不明の抗体産生の異常亢進で、Bリンパ球系の病気である。CD20は前Bリンパ球に出現する分子で、これを攻撃することで、異常なBリンパ球が正されるという。 したがって、理屈からいうとBリンパ球を病気の本態とする病気では、病気が簡単に治る可能性があるということである。報告では、SLE脳炎が見事に治癒した症例が2例示されていた。私は、22年前の研修医のころを思い起こした。あのころ に、この薬があったら、助かったはずの若い娘さんたちの顔が自然と瞼に浮かんできた。彼女たちのSLE脳症は治癒せず、文字通り、かわいそうな人生であった。合掌。
2006年04月
4月14日から16日まで、内科学会が横浜国際会議場で開かれた。分子標的療法のシンポジウムがあった。今回、話題となった薬は、抗TNF-α抗体(レミケードなど)、抗IL-6抗体、抗CD20抗体などである。抗TNF-α抗体はリウマチ様関節炎、クローン病に著効し、抗IL-6抗体は、キャッスルマン氏病、リウマチ様関節炎、若年性特発性リウマチ様関節炎、クローン病、などに著効することが示された。また、抗CD20抗体は、 B細胞性リンパ腫をはじめ、一部の多発性骨髄腫やSLE(全身性紅斑性狼蒼)などに著効を示していることが報告された。その効果は顕著で、従来のステロイドや免疫抑制剤治療に 比べて、大変優れた効果を示していた。その優れた効果と病気の初期に効きやすいという特性から、アメリカでは、これらリウマチ系の自己免疫疾患に対しては、安い薬から順に使う (ボトムアップ)のではなく、効果の強い分子標的療法薬をはじめから使う(ヘッドダウン)の投薬法が提案されている。リウマチ様関節炎・SLEはステロイドで上手に管理する病気から、 分子標的療法で完全に治ってしまう病気になった。シンポジウムの終わりに、座長は「パラダイムシフトが起こった。」と表現した。
このタイトルの問題は、2005年7月20日のTOPICSでも取り上げたように、医師の間では、結構大きな話題を呼んでいる。DNAを熱すれば、燃えて酸化して、化学構造が壊れるはずというのが、科学者の常識であるからである。この問題は、イギリスの有名な科学雑誌「Nature」でも取り上げられた。Natureでは、焼かれた骨のDNA鑑定は不可能であり、日本政府の先の発表、すなわち、北朝鮮から送られてきた骨が、DNA鑑定により横田めぐみさんの遺骨ではないとした発表は、うそであるとされた。もちろん、北朝鮮から送られてきた骨が、横田さんのものであると言ったわけではないが、焼かれた骨のDNA鑑定は不可能と主張したのである。当の日本ではあまり報道されていないが、国際的には、残念なことに、日本政府の面目丸つぶれという事態に発展してしまった。日本政府が根拠とした科学的鑑定は、帝京大学法医学教室で行われていた。
先日、4月8日の土曜日PM6:30から、大手町の経団連会館で、東大医学部医学科昭和59年卒業の同級会が開かれた。二次会の席で、帝京大学法医学部の野上誠助教授(現在、教授空席で教授代行)と隣り合わせになった。懐旧の挨拶のあと、さっそく、焼かれた骨のDNA鑑定の問題を、野上教授代行に問い正した。居並ぶ、教授・助教授・講師・部長・社長・院長、注視のなか、野上先生は「あれは、隣の部署で、まったく、わかりませんよ。」と答えた。鑑定したのは講師であって、野上君ではないのだそうだ。その講師はこの鑑定の後、退任して、今は警察の鑑識関係の職についているそうだ。かれには、日本の名誉のために、DNA配列も詳述して、Natureに反論してもらいたい。反論できないのなら、真実を明らかにして科学者としての責任を取らなければならない。
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