たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

2005年04月

「人生いろいろ」の中山大三郎さん死去………下咽頭癌、予防できるか?

 「人生いろいろ」「無錫(むしゃく)旅情」「珍島(ちんど)物語」などのヒット曲で知られる作詞、作曲家の中山大三郎さん(なかやま・だいざぶろう、本名同じ)が7日午前0時3分、下咽頭(いんとう)がんのため、都内の病院でお亡くなりになりました。64歳。99年(58歳)でがん告知を受け、00年(59歳)に声帯を除去。声が出なくなっても、最後まで創作活動への意欲を見せていたそうです。日本人男性の平均死亡年齢78歳からみると、早死です。残念なことと、ご冥福をお祈り申し上げます。


 下咽頭癌はどうすれば、予防できるのでしょうか?


 咽頭癌や食道癌(扁平上皮癌)は、アルコール(特にアルコール度の高いもの)、喫煙、熱い飲食物、特定の体質(アルコール脱水素酵素活性とアルデヒド脱水素酵素活性の微妙なバランス)が危険因子とされています。まず、これらのリスク因子を避けることが重要です。


しかし、これらが避けられない人、もう既にどっぷりと使っている人はどうすればいいのでしょうか?答えは、拡大色素内視鏡検査を受けることです。食道にヨー素を散布して、まだらな淡い染色域が多発してくると、咽頭癌や食道癌の発生が近いとわかるのです。


 下咽頭癌は、従来、耳鼻科の領域と考えられていましたが、最近は、消化器内視鏡による診断ができるようになってきました。内視鏡の先端にキャップをつけることにより、下咽頭の視野が得られやすくなったことと、咽頭癌の早期診断が拡大内視鏡観察で比較的簡単にできるようになったことが、その原因です。7ミクロンぐらいまでの解像力をもつ拡大内視鏡で扁平上皮癌(ep癌・m癌)を見ると、毛細血管が打ち上げ花火のような感じになっているのです。正常では、毛細血管は規則正しいループを描くのですが、癌組織の中では、その先端に血液が鬱血して、毛細血管が膨らみ、上から見ると、花火のように見えてくるのです。図1図2図3参照。早期に見つかったものは、内視鏡手術だけで治せることもあります。


 中山大三郎さんも、54歳ごろから、拡大色素内視鏡検査をしかるべき先生のところで、きちんと受けていれば、2005年4月7日の死去はなかったことでしょう。重ね重ね、ご冥福をお祈り申し上げます。すばらしい歌の数々ありがとうございました。

ピロリ菌を心配して、胃癌を早期発見—開腹胃切除を免れる

先日、このホームページをみた30歳の娘さんが、ピロリ菌のいるお父さん(58歳、仮称、小泉純一郎)を心配して、ピロリ菌を退治してほしいと当院を訪れました。まずは、内視鏡検査ということで、上部消化管内視鏡検査を実施したところ、直径3mmの陥凹型早期胃癌が見つかりました。内視鏡で粘膜切除術をおこない、病理検査の結果、病変は粘膜内に留まっていました。粘膜内に留まっていれば、リンパ節転移や、肝転移や、腹膜播種の可能性は、ほとんどありません。小泉純一郎さんは、開腹して胃を切除する必要はありませんでした。娘さんの機転が、お父さんの胃を、いや、命を救ったのでした。

 このような、ピロリ菌を心配して来院して、内視鏡をしてみると胃癌がみつかるという、エピソードはよくある話です。ピロリ菌を放置している人に胃癌が発生してきます。ついでに言うと、大腸ポリープが出る人や癌家系の人は、その人の癌遺伝子が変異しやすいことが知られています。そのような人は、大腸に限らず、腺組織をもつ臓器(食道、胃、十二指腸、胆嚢、胆管、膵臓、肺、腎臓、前立腺、乳腺、子宮)に、それぞれ(食道癌、胃癌、十二指腸癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌)が出やすいことが知られています。大腸ポリープがあって、癌家系であって、ピロリ菌のいる人は、三重の胃癌のハイリスクを持っています。当院での消化管ドックを受ける最もメリットのある人たちといえます。

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