たぶち まさふみ オフィシャルブログ

日本消化器内視鏡学会指導医 元東大医学部講師による、医療・政治ブログ

二酸化炭素削減とごみ処理の仕方

 この夏、東京では35度を超える猛暑が長く続き、100人程度の熱中症による死亡者が出た。3-4年には、フランスを猛暑が襲い、5-6万人が熱中症で死んだ。今回の、日本の死亡者数は、フランスよりはましだったようだが、この夏の異常な暑さで、地球温暖化防止は待ったなしの感がいっそう強い。


 医療とは、一見関係のないことだが、私の廻りにある紙ごみ、生ごみ、プラスチックごみは、東京共済病院の南にある目黒区のごみ処理場で、超高温で燃やされている。超高温であれば、排ガスの中に、ダイオキシンができないのだそうだ。でも、二酸化炭素は間違いなく、燃焼温度にかかわらず、発生・排出されて、その量は変わらない。


 つまり、現行の処理の仕方は、地球温暖化防止、二酸化炭素削減の観点からみると、不合格なのだ。地中奥深くから、原油をくみ上げ、石炭を掘り出し、地上の炭素量を増やしているから、地球は温暖化する。ならば、温暖化防止のために、ごみは燃やさずに、土の中に埋めるべきなのではなかろうか?「炭素ごみは燃やさずに土の中へ。」


 行政に知恵が必要なのは、なにも、医療の分野だけというわけではなさそうだ。

患者のモラル m-file 1

 8月19日付けの読売新聞は一面で、「横暴な患者、病院苦悩」との大見出しで、患者の暴力事件430件、暴言事件990件を指摘した。


 全国の大学病院で、昨年1年間に医師、看護師が患者や家族から暴力を受けたケースは、少なくとも約430件あることが、読売新聞の調査で明らかになった。理不尽なクレームや暴言も約990件確認された。病気によるストレスや不安が引き金となったケースも含まれているが、待ち時間に不満を募らせて暴力に及ぶなど、患者側のモラルが問われる事例が多い。回答した病院の約7割が警察OBの配置などの対策に乗り出しており、「院内暴力」の深刻さが浮かび上がった。調査は、先月から今月にかけ、47都道府県にある79の大学病院を対象に行い、59病院から回答があった。このうち、何らかの暴力あるいは暴言があったと回答した病院は54にのぼる。暴力の件数は約430件、暴言・クレームは約990件。暴力が10件以上確認されたのは6病院、暴言・クレームが50件以上あったのは5病院だった。「クレームはここ2年間で倍増した」(大阪大医学部付属病院)など、暴力や暴言・クレームが増加しているという回答は、33病院に達した。ただ、こうした件数や事例を記録に残していない病院もあり、今回の調査結果は、「氷山の一角」の可能性が高い。暴力の具体例では、入院手続きの時間外に訪れた軽いけがの男性に、医師が「ベッドの空きがないので明日来てほしい」と告げたところ、缶コーヒーを投げつけられ、注意すると顔を殴られて、顔面を骨折したケースがあった。入院患者から「言葉遣いが気に入らない」という理由で足に花瓶を投げられた看護師もいた。けがを負う病院職員は少なくないが、「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」という意識から、警察に届け出ない場合も多いという。暴言・クレームでは、複数の患者がいたために、すぐに診療を受けられなかった患者の家族が、「待ち時間が長い」と腹を立てて壁をけったり、暴言を吐いたりした。検査後に異常がなかったことがわかると、患者から検査費用の支払いを拒まれた病院もあった。精神疾患や重い病気で心理的に追い詰められた患者が、暴力や暴言に走ってしまった事例もある。しかし、多くの病院は、それ以外の患者や家族による理不尽な行為に悩んでおり、「(一部の患者から)ホテル並みのサービスを要求され、苦慮している」(慶応大病院)との声が上がっている。具体的な対策をとっている病院は44にのぼり、警察OBを職員に雇い、患者への応対に当たらせている病院は21、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院は10あった。院内暴力を早期に発見・通報するため、監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置する病院もあった。(2007年8月19日3時4分  読売新聞)


 当院では、これまで、幸いなことに、暴力事件はなかった。しかし、患者のモラルという点で、一番印象に残っている事件は、保険証の流用、一郎ちゃん詐欺未遂事件である。


 今から7-8年ぐらい前のある日、胃が痛いから診察してほしいと、ニート風の20代後半の男性が来院。「国民次郎(仮称)」という国民保険証を提示した。痛みが強いため、緊急の上部消化管内視鏡検査を実施。胃の中にびらん・潰瘍があり、組織検査を実施。胃薬を出して、「胃に潰瘍があるからしばらくは、飲酒や過食をしないように」と説明して、帰宅させた。ここまでは、よくある診察シナリオであったが、問題はその夜だった。


 深夜12時ごろ、電話が入り、その患者が、血を吐いたという。すぐに、来院してくださいと答えて、患者は救急車でやってきた。患者は酩酊していた。すぐに、点滴ラインを確保して、緊急内視鏡を実施。胃の中は血だらけで、食べ物も大量に入っていた。聞けば、しゃぶしゃぶ食べ放題で、腹いっぱい食べたうえに、アルコールも大量に飲んだという。内視鏡的止血処置を試みるも、患者が不穏で体動が強く、深夜のため対応できるスタッフも少なく、出血の勢いも強かったので、内視鏡的止血術は、うまくいかなかった。大学病院の緊急外来へ搬送を決定。家族にも行き先を連絡した。


 救急車で、旗の台の昭和大学病院へ搬送、私も乗り込んで行き、担当医に引き継いだ。そこへ、母親登場。「一郎ちゃん、大丈夫?」「一郎ちゃん、しっかりして!」。・・・・・・。「お母さん、この人は、次郎さんですよねぇ。」「いえ、次郎は、一郎の弟です!」


 彼は、昭和大学病院の適切な処置で、何とか一命を取り留めた。後日、聞いたところによると、国民一郎は保険非加入であった。そこで、弟次郎の保険証を貸してもらって来院したという。国民一郎さんのモラルは、大変低いものだ。医師の指示は守らないし、健康保険の詐欺も行おうとした。実は、国民一郎さんの事件は、氷山の一角。当時、20~30人に1人は、無効な保険証を提示していた。レセプトを出すと、保険番号間違いとして、3~5%がつき返されていた。


 健康保険証にも、顔写真の添付が必要だと思う。また、保険証が本当に有効なものかどうか、保険者に確かめるオンラインシステムが必要だと思う。ちなみに、最近、「無効な保険証を回収しなかった保険者は、医療機関に診察費を支払わなければならない。」という判決が出ている。

慢性胃炎と診断を受けた人は、皆、ピロリ菌か?

 ホームページのアクセス調査をしていると、上のような、サーチがあり、このホームページが上位にヒットされていた。この質問に対しての解答は、これまでの内容を読んでもわからないので、この際、きちんと記載しておきたい。


 今の日本において、慢性胃炎の原因の90-95%は、ピロリ菌である。その他は、自己免疫性の胃炎などである。私が学生時代に習った言い方では、ピロリ菌による慢性胃炎をB型胃炎と呼び、抗胃細胞抗体(抗胃壁細胞抗体)による自己免疫疾患としての慢性胃炎をA型胃炎と呼ぶ。


 実地に臨床をしていて、胃の炎症が長く続く状態としては、その他に、

1)(非ステロイド系坑炎症剤(NSAIDS))投与で粘膜再生抑制による薬剤性胃炎や、

2)コーヒー・アルコールなどによる胃粘膜を直接傷害する飲食物・薬による胃炎や、

3)クローン病による胃炎、

4)食物アレルギーによる胃炎、

5)過度のストレスによる胃粘膜血流現象に基づく、胃粘膜防御機構の破綻に基づく胃炎(狭義のストレス性胃炎)

などなどをよく経験する。


 胃のウィルス感染については、EBvirus感染が胃癌と関連しているという報告もあるが、詳細は研究待ちの状況である。

G-file 5  便潜血陰性 会社検診の大腸判定A それでも 大腸進行癌

 1996年、溜池にある共同通信社の本社に招かれて、大腸がんについての講演を行った。大腸がんの死亡者数が1975年は5000人、その後、5年で2倍のペースで、大腸がんの死亡者数が増加し、1980年には約1万人、1985年には約2万人、1990年には、約4万人と増えている現状をまず話した。


 そして、次に、1988年中曽根内閣によって導入された、免疫学的便潜血反応による大腸がん検診の仕組みを話した。まず、検診者全員に、免疫学的便潜血反応検査を二回行う。次に、2回のうちどちらか一方でも陽性になった場合を、陽性と判定して、二次検診の注腸検査か大腸内視鏡検査を行うと説明した。


 さらに、大腸がん検診に用いている便潜血反応の感受性についても、言及した。1994年と1995年に行われた厚生省武藤班による研究では、進行大腸癌が見つかって、手術を目的として、入院してきた患者さんに対して、2回法による免疫学的便潜血反応を行ったところ、陽性者は、70%であった。本来、100%であるべきなのだが、70%しかなかったのである。この話をしたとき、聞いていた共同通信社の役員や、保険組合関係の方々は「へえー」という驚きの反応であった。


 本当は、感受性をあげると、特異性が落ちて、検診の効率が悪くなるのである。だから、逆に感受性を70%に設定したというのが真実であるのだが・・・。


 その講演が終わり、数週後、共同通信の記者の方から電話があった。先生の講演を、役員から又聞きして、怖くなったので見てほしいというのである。その人は、検診で免疫学的便潜血反応は陰性で、大腸については評価Aであったが、実は、しばらく前から、右のおなかが張るというのである。


 さっそく、大腸内視鏡検査を行ったところ、上行結腸に全周性の進行癌が見つかった。幸い、肝臓に転移なし。早速、右半切を行った。


 幸いなことに、この患者さん、11年経った今でも、元気である。

この症例のように、検診での大腸A判定は、結構、あてになりませんので、注意してください。


 このような症例を、実地ではよく経験するので、「50歳になったら、大腸内視鏡検査による大腸検診をしましょう!」ということになるのである。症状のない50歳の人に向かって、初めての大腸内視鏡検査を勧めることは、消化器の医師としては常識であって、過剰医療ではないのである。

参議院選挙 行われる。自民党惨敗 民主党躍進。どうなる保険医療崩壊

 今日の日本では、慢性胃炎の根本療法も、食道癌の有効な早期発見も、大腸がんの完全な予防も、慢性肝炎の根本治療も、できるようで、できない現実がある。薬や治療法は表向き認められているが、実際に使用してみると、保険医療ではさまざまな制約があって、審査の過程で認められたり、認められなかったりする。


 認否の基準は、保険組合(保険者)の経済状況によるのである。保険者と社会保険審査機構は表向き、医療機関と保険者に対して公平でなければならないとされているが、実際には、天下りなどで強く癒着していて、社会保険審査機構は、保険者に向いている。


 認められなかったときの薬代やサービスの費用は、保険医療機関の丸っきりの赤字となる。したがって、保険医療機関では、経済的に、治療を自粛せざるをえない現実がある。個人経営ではまだしも、地方自治体の保険医療機関では、赤字の病院は廃止という政治的な流れのなかで、治療はますます自粛される。

 このような社会的圧力のある医療の現場では、患者に対して、科学的な真実は語られず、都合のよい詭弁が語られる。したがって、医師は、研究して、勉強しているものほど、あほらしくなってくる。

 

 また、今の日本には、医師自身、経済的にも、法律的にも、安心して患者を治療をできない現実がある。病院の社会保険診療報酬は、医師の技術で決まるわけでなく、看護師の数で決まる。どんな新米の看護師でも数だけが評価されるシステムだ。それだけでも、難しい技術を磨いて患者を助けてきた医師のプライドは傷つくのだが、ときに、最新の治療技術を駆使すれば、過剰医療とののしられ、患者を救おうと思って難しい手術に挑んで、失敗すると、「医療事故」といってくれるうちはマシで、時に、業務上過失致死傷として、牢獄に入れられる。これでは、外科系(消化管外科、呼吸器外科、循環器外科、産婦人科、泌尿器科、・・・)の先生の手術は萎縮せざるを得まい。助かるかもしれない症例でも、外科系の先生は、手術をしないことになる。それをみて、外科系になる新米の医師が減るのも当たり前のことだ。そして、社会保険医療は崩壊する。

 

 社会保険医療崩壊の原因は、日本経済の停滞(保険者の貧困化)と、社会保険制度の問題(厚生行政の誤り)にある。その奥深くには、日本の人々の意識に本質的な問題があるのだが・・・。

 

 民主党に、この問題が解決できるであろうか? たとえば、レントゲン技師組合や、官公庁の労働組合のように、労働組合はたいてい保守的で、自らの改革を否定して、自分だけの利益のために、大義を忘れて、新たな技術の導入に抵抗する。


 選挙前の演説では、小沢党首の口からは医療崩壊という単語は一言も聞かれなかったような気がする。そう、考えると民主党に医療崩壊を防げるか、大いに疑問だ・・・・。

 

 しかし、「生活第一」というなら、生活を脅かす、医療崩壊を無視できないはずだ。民主党の今後に期待したい。

統計マジック 民間給与と公務員給与の比較

本日朝、yahooニュースのトッピクスのトップは以下の内容であった。

 

6年ぶり引き上げ勧告へ=国家公務員月給で人事院-民間をわずかに下回る公算
 人事院が8月に行う2007年度国家公務員給与改定勧告の基礎資料となる民間給与実態調査で、公務員の月給が民間をわずかに下回る見通しであることが25日分かった。これを受け同院は民間との格差を是正するため、01年勧告以来6年ぶりに公務員月給の引き上げを勧告する公算が大きくなった。 (時事通信)

 

民間給与実態調査が詳しく記載されている資料国家公務員の給与実態の資料も公表されていたので、それもみたところ、大きな問題があった。勤務時間のデータがないのである。給与が高いか低いかを評価するには、勤務時間のデータが不可欠のはずである。なんで、こんないい加減なことをしているのか。人事院に勤めている東大将棋部の後輩の知的レベルからいえば、この程度のことはすぐにわかるはず。してみると、統計マジックの悪用?それとも、長年勤めて役人ボケしたか?

G-file 4 バリウム検診で見落とされた8cm の表在型様食道癌

 1996年3月上旬、検診センターのVIP会員で、大腸m癌を内視鏡的に切除していた社長さんが、来院。ドックの上部消化管バリウム検診で、胃のポリープが見つかったから取ってくれとのこと。さっそく、上部消化管内視鏡検査を行った。みると、確かに胃のポリープはあるのだが、それは、表面のピットパターンから、良性である。問題は、食道。食道下部、前歯から35cmから食道胃接合部まで、一見してわかる白色の平坦な病的変化がある。領域は、約8cmにわたっており、ヨードにて不染であった。病変の一部は結節上に隆起している。これらの所見から、病変は、粘膜下以深に浸潤している食道癌であることは、明白であった。5年生存率40%!


 

 内視鏡を終えて、1週間後、組織診断の結果は、内視鏡診断どおり、扁平上皮癌とのレポート。患者さんとその奥さんに、「胃のポリープは良性であったのだが、食道にちょっと放置できない病変がある。」と説明した。「放置すると、死ぬ可能性も否定できない。早く、手術をしたほうがよい。」とさらに付け加えた。すると、「癌ですか」と鋭く聞き返される。『癌を告知しなければ、この社長さん、手術を承諾しないだろう。また、社長なので、ご自身の真実の状態を知っておかないと、会社の運営にも困るであろう。癌を告知すれば、精神的なショックを受けるであろうが、ここは、きちんと説明するしかあるまい。』と考えて、「残念ながら、癌があって、助かるためには手術しなければならない。」と癌を告知をした。

 

 VIP会員の社長さんは、大変驚いた。「先生、私は、年に2回も検診センターで、胃や食道はバリウム検査を受けてきました。一度も欠かさず、毎回受けてきたのにどうして、8cmもの大きな食道癌ができるのですか?つい、一ヶ月前に、検診センターでは何もないといわれたばっかりなんですよ!」「検診センターは見落としたのでしょうか?」「フィルムを診てください。」 そこで、検診センターから、胃のポリープを取るために預かっていたバリウム写真の束の中から、食道の造影写真を取り出して、よく診たところ、確かに、内視鏡所見に一致する部位に、食道壁の乱れが認められる。「先生、癌はどの辺ですか?」「食道下部のこの辺りです。」「ここのぎざぎざしている辺りですか?」「この写真を見ると癌とわかりますか?」「これだけで、癌と確定的に断定はできませんが、疑うことは必要でしょうねぇ・・・・。」

 

 その後、社長さんその写真をもって検診センターに行ったらしい。あとで、検診センターの所長から「先生、どうしてうちを、かばってくれなかったのですか?」と強い抗議の電話があった。放置できない、すぐに手術が必要な8cmもの病変を目の前にして、医師として、開胸開腹という大手術 を、患者に同意させる必要のあった私は、なんと言って、検診センターをかばえば、よかったのであろうか。「検診センターのフィルムには食道癌は写っていませんでした。」とうそをつくべきであったのだろうか? しかし、フィルムは残っているのである。手術に際しては、何人かの先生方がそのフィルムをチェックするのである。まさか、「食道癌はありませんでしたが、開腹開胸の大手術してくださ い。」では、患者が納得しないのは明らかである。患者は無知ではない。

 

 私は、「検診センターは予め、誤診率を検診者に説明しておくべき」と思う。検診センターは「バリウム検診を受けていれば、癌にならない」というのような営業トーク を、VIP会員にも言っていたのであろう。それさえなければ、あんなに問題にはならなかったはずである。

 

 ちなみに、社長さんの手術は、東大同級生の食道癌手術の名人、梶山美明先生(現在、順天堂大学外科助教授)にお願いした。丁寧な手術(リンパ節を131個郭清切除、しかも、n=0/131)をしてもらった社長さんは、stageⅢであったにもかかわらず、いまだに、お元気である。

G-file 3 目黒区胃癌検診 集団的誤診

 いまの目黒区の庁舎は、土地投機バブルで失敗してつぶれた「千代田生命」のビルである。いまから、約10年前、目黒区の区庁舎が中央町にあり、まだ、中目黒に移ってくる前の話である。当時の区長は、汚職を摘発されて自殺した薬師寺さんであった。

 

 そのころの目黒区医師会は、2派閥が対立しており、ハードな医師会長選が行われた。結果、現職系の候補を破り、M会長が誕生した。M会長の下、医師会の人事が刷新されて、私は、目黒区医師会のがん検診委員となった。

 

 さて、その初会合のとき、がん検診委員長(肝臓の専門医)が言うには、「昨年度の目黒区の胃癌検診の予算は1600万円でした。その予算を医師会が引き受け区民の検診をしているのですが、胃癌の発見は0人という成績でした。ここ数年、胃癌発見者は0人ないし1人という成績が続いています。大変な問題だと思うのですが、 田渕先生何かご意見はありませんか?」と振られた。

 

 当時、一般に、がん検診は、「一人の癌患者を見つけるのに必要な費用が、230万円より上か下か」が、検診のよしあしの分かれ目とされていた。目黒区の胃がん検診は、その基準からいえば、まったくの不合格であった。がん検診委員長が、「大変な問題」というのも、尤もなことなのであった。

 

 当時の目黒区の胃癌検診の仕組みは、まず、年齢などで絞り込んだ対象住民に、胃癌検診のはがきを出す。はがきを見たうちの希望者に対して、碑文谷保健所でレントゲン車によるバリウムによる胃二重造影(検診用の直径10cmぐらいの写真撮影10枚程度)を無料 (=区の予算)で行い、所見のある人を拾い上げて、要精密検査の指示を郵送する。そして、区内の医療機関で、さらに、内視鏡検査もしくは二度目の通常の胃のバリウム二重造影検査(A4サイズの写真撮影)といった精密検査(無料 =区の予算)を受けるというシステムであった。

 

 私は、さらに以前、東京共済病院に勤務していたころ、目黒区医師会からの依頼で、碑文谷保健所で撮影した、検診用のフィルムを読影していた。その画像は、 残念ながら、読影に耐えられる代物ではなかった。バリウムが胃粘膜にきちんとのっていないし、バリウムがすぐに十二指腸の第3部分へ流れていて、胃と重なってしまっているのである。当時の読影は、東邦大学大橋病院の消化器医と東京共済病院の消化器医で担当していたのであるが、一緒に読む、東邦の先生方も私と同じ感想を持っていた。「こんな写真では、読めない!」

 

 「この写真なんとかならないのか?」と、医師会の担当の先生に、撮影しているレントゲン技師さんにクレイムをいってほしいと、お願いしたところ、翌月に返ってきた答えは、「看護婦も医師もついていないので、胃の動きをとめる注射ができない。したがって、バリウムが十二指腸の第3部分 へ流れるのは、避けられない。車なので、写真のサイズは変えられない。」というもので、要は現状を変えられないと返事であった。

 

 読影の席で、取りまとめ役の医師会の先生は、「7~8%ぐらい拾い上げてください」と、我々にリクエストした。読めない画像を前に、我々は、その人の年齢や、問診内容で、要精密検診者を決めていたのである。したがって、1600万円の胃癌検診で一人も癌が見つからないのも、当然といえば当然としか言いようのない結果なのであった。

 

 私は、目黒区がん検診委員長に、以上のような事情を説明した。そして、東大の三木一正先輩が開発した、ペプシノーゲン法による胃癌検診を提案した。興味を示した委員長は、早速、三木一正先生に目黒区医師会での講演を依頼した。三木一正先生は講演を快諾してくださり、講演は実現した。

 

 胃癌は、慢性胃炎の進行した状態で、出やすくなる。ペプシノーゲンは、慢性胃炎の進行度を示す指標である。検診対象者の血液中のペプシノーゲンを測り、慢性胃炎の悪いほう約7~8%を、要精密者として、内視鏡による精密検診をおこなうというシステムを三木先生は紹介した。足立区では、同じ1600万円の予算で、このペプシノーゲン法を採用して、一年で23人の胃癌患者を発見していた。

 

 やっと1人見つけられる目黒区のシステムと、同じ予算で23人も見つけた足立区のシステムと、どちらが優れているか、論議の余地などなかった。目黒区医師会のがん検診委員会は全員一致で、ペプシノーゲン法の採用を採択した。そして、がん検診委員長は、早速、区の担当者に、胃癌検診にペプシノーゲン法を採用したい旨、申し出た。

 

 区の返事は意外なものであった。「ペプシノーゲン法を採用すると、レントゲン技師が不要になってしまうので、碑文谷の2人のレントゲン技師が在職の間は、ペプシノーゲン法は採用できない。」と。レントゲン撮影をするという手段が目的化して、本来の目的、胃癌患者をより多く、より早く見つけて人の命を救うという目的が、忘れられているのだ。

 

 その後、人の命の重さよりも官僚システムを重視した、目黒区の薬師寺さんは、汚職が発覚して自殺した。そして、当時、ペプシノーゲン法を導入した足立区長Yさんは、その後すぐに、 議会からの不信任決議が採択されて、リコールされた。かれは小数会派(共産党)であったのだ。

 

 慢性胃炎は、胃癌の発生母地であり、慢性胃炎の原因の90%はピロリ菌である。慢性胃炎に対するピロリ菌治療は、学会での議論確定15年たった今でも、社会保険では認められていない。

 

 今年も、厚生労働省はいう、胃癌の検診は内視鏡よりもレントゲンが基本と。日本の医療の霧は、政治によってますます、深く濃くなっている。中世、ガリレオガリレイは、地球は太陽の周りを回っているとする地動説を唱えたが、その内容は当時の権力者、カトリック教会には受け入れられず、迫害された。

G-file 2 驚いた見落とし?!誤診の陰に政治あり。苛政は虎よりも猛し

 その人の父親は、胃癌で死んでいた。享年57歳。彼は、不動産事業に成功して、財を築き、1970年代はじめに、PL検診センターにVIP会員として150万円払って入会した。渋谷のマンションが1000万円しない時代に、150万円は大金である。しかし、胃癌で死んだ父のことを考えると、事業で成功した43歳の彼にとって、150万円は納得できる金額であったのだろう。まじめな彼は、以来、半年に一回、一回も欠かすことなく、検診を受けた。胃の検診はずっとバリウム造影検査で行われていた。

 

 1990年ごろ、60歳前半の彼は、便潜血反応が陽性となり、PL検診センターから、大腸内視鏡検査の目的で、私に紹介された。大腸内視鏡の結果、大腸腫瘍が5-6個見つかり、すべて内視鏡的に切除。彼は私を気に入ってくれ、奥さんも私に紹介。奥さんにも大腸ポリープが見つかりと彼ともども、1-2年に1回大腸内視鏡の検査を行っていた。

 

 2001年、しばらく顔を見せていなかった長身の彼が、突然ふらりと来院して言うことには、「先生、いつもしている、半年に一回のPL検診で、先日、5センチの潰瘍が一つあるから、胃の手術をするようにいわれました。ほんとに切らなければならないのか、診てくれませんか?」と。さっそく、上部消化管内視鏡検査(通称、胃カメラ)を実施。胃体部後壁に、ボールマン3型の5-6cm大の大きな癌がある。さらに驚いたことには、それより少し奥の、胃幽門部後壁にも、約4-5cm大のボールマン3型の癌があった。ダブル胃癌である。半年前の検査で見つからなかったというのが不思議なくらい大きな2つの癌だった。まじめな彼にとって、それは、文字道理の「驚き」であったろう。なにせ、150万円(今だと1000万円くらい)支払ったVIP会員なのである。

 

 私は半年前のバリウム造影の写真を実際に診たわけではないので、断言しにくいが、後壁はバリウム検査のスイートスポットであることから考えても、半年前の胃のバリウム検査で2つの胃癌はおそらく見落とされたのだろうと思った。 PL検診センターは、毎日150人から200人もの検診を行うのだが、胃のバリウム造影は技師が行い、読影は一人の医師が担当するという体制なのであった。「S先生、一人で一日2000枚も読むんだ、きっと疲れて見落としたんだろうな・・・・。そういえば、センター長も事務長も看護師長も「保険者が安い検診を求めるから、検診原価を一円でも安くしたい。」と言っていたなぁ・・・・。そういえば、誰か、あそこの給与は相場の7割ってぼやいていたよなぁ・・・・。」

 

 私は、東大病院に、彼を紹介。彼は開腹手術を受けた。しかし、癌は既に肝臓に多発転移していた。TS1が効いて、しばらく、生き永らえたが、結局2004年夏に死亡。彼は、父と同じ胃癌で死んだのであった。胃癌の家族内集積は、単に遺伝性というだけでなく、同じ食べ物を媒介として、発癌力の強い同じピロリ菌に感染しているという環境的要因もある。

 

 その秋、奥さんが来院して、「先生方には、ほんとうに、よくしていただきました。ありがとうございました。」と涙をこらえて言ってくれた。もっと言いたかったことがあるはずなのに、ぐっとこらえた姿に、彼女の本当に深い悲しみを感じた。

 

 一般に、胃癌の早期発見率について、内視鏡検診はバリウム検診の3倍というデータが、内視鏡がまだファイバーであった1980年代からある。それが、わかっていても、バリウム検診が、いまなお、続いているのは、レントゲン技師の雇用のため、コスト削減のため、内視鏡医師不足のためである。

 

 今年も、厚生労働省はいう、胃癌の検診は内視鏡よりもレントゲンが基本と。「苛政は虎よりも猛し。」とは、中国の古いことわざであるが、現代の日本にも、通用しているのは、真に残念なことだ。

G-file 1 注腸検査では病変の存在否定は難しい

 医師にとって誤診とは、恥である。ただし、医師の未熟というより診断システムの問題により、現実には致し方ない場合もある。裏返していうと、その恥の気持ちが、各種検査機種(レントゲンとか、CTとかMRIとか、ECHOとか、内視鏡とか、PETとか)の開発に結びついているともいえる。


 さて、大学時代、小坂第三内科教授の退官記念講演のテーマは「誤診率」であった。先生は講演の中で、「誤診率のトップは、注腸検査であった。」と述べられた。「ときには、進行癌ですら注腸検査では見落とされている」とも。学生であった私は、「そんな馬鹿な、進行癌なんか見落とすはずがないではないか」と思った。なぜなら、進行癌は通常3cm以上有り、よほど、前処置が悪くても、わかるのではないかと思ったのだ。


 そして、時はめぐって、研修医時代、実際に注腸を行う立場になって、わかった。注腸は本当に難しいのだ。前処置が悪いとまず分からないといっていい。体位変換をして、腸の内容物を動かし、それでも壁についているものは病変で、流れるものは便なのだが、腸の曲がりくねった形態や、腸の収縮、便の多さなどで、病変が紛れてしまうのだ。さらに、時はめぐって、常勤医時代、注腸でs状結腸に小さなポリープが見つかったといって、 PL検診センターから紹介された患者の大腸内視鏡検査をやって驚いた。盲腸に大きな進行癌があったのである。同様のことが、2-3回続いた。また、当時、私は大腸内視鏡検査で、平坦な大腸腫瘍を数多く見つけており、注腸の原理的な限界にも気がついた。それ以降、私は注腸による存在否定診断はしないことにしている。


 このような思いを、我々の世代の消化器専門医はそれなりに経験したために、大腸検査といえば注腸よりも内視鏡検査という常識が生まれ、内視鏡技術の進展につながったのである。「注腸の誤診率は高い!」、小坂先生の言ったとおりであった。

Difficult Polyp 直径4cmの亜有茎性大腸ポリープの切除

 最近、とある患者さんが来院。まだ、50歳前というのに、聞けば、S字状結腸に亜有茎性の約4cmの大腸ポリープがあって、都内の有名な国立病院で開腹手術を勧められているという。しかし、患者さんは、いろいろな社会的・家庭的諸事情で、どうしても、おなかを開けたくない。そこで、何とか、内視鏡的にその大きな大腸ポリープを切除できないものかと思い、インターネットで調べ上げて、「この先生なら、内視鏡で大腸ポリープを取ってくれるのでは!?」と思い、私のところに来たとのこと。

 

 確かに、私は、これまでに4cm以上のポリープを、百個単位の数字で、内視鏡的に切除してきている。最高6cmの大腸ポリープも内視鏡的に切除したことがある。ただし、固有筋層まで浸潤した進行癌や、粘膜下層の深くに浸潤した癌は、内視鏡的に切除できない。内視鏡的切除の適応条件は、大腸の場合、病変が粘膜内に留まるか、もしくは、浸潤しても病変が粘膜下層の浅くにとどまることである。

 

 「なぜ、開腹手術を勧められたのですか?」と聞くと、「病理検査でははっきりと癌細胞が見つかったわけではないが、バリウム造影によるレントゲン検査で大腸壁の変形が強く、病変の一部が癌化して、粘膜下に深く浸潤している可能性があるから。」といわれたとのこと。「病理検査で腺腫であっても病変の一部が癌化していることも多く、取らなければ、癌が進行する危険性が高い。」ともいわれたそうだ。

 確かにそれは正しい。だが、大きなポリープの表面の組織検査で、腺腫の診断が出ている場合、仮に、病変の一部が癌化しているとしても、一般に、80-90%の病変は癌が粘膜下に浸潤していない。また、亜有茎性のポリープの場合、バリウム造影レントゲン検査の深達度診断の正診率は50-70%ぐらいでそんなに高くない。

 

 そこで、拡大内視鏡で、病変をみた。表面には、浸潤に特徴的なびらんはなく、浸潤を示唆する微細文様、pit pattern Ⅴnもない。ただし、病変は大きく、大腸の管腔をほぼ塞いでいて、切除は技術を要する状況である。

 熟練した内視鏡医なら、こういった病変は、まずは取ってみるとしたものである。取った標本をみて、病変が癌化していたどうか、粘膜下層まで癌が浸潤してるかどうか、そして、癌の転移のリスクファクターの有無(すなわち、癌細胞の血管やリンパ管への浸潤と癌先端の組織の異型度)を正確に診断して、その後、追加の開腹手術リンパ節郭清手術が必要かどうか、判断するわけである。組織を顕微鏡で見れば、診断は99.9%正しい。治療方針を正しく決めるためには、内視鏡的切除が一番正しい診断方法でもあるのだ。(こういうのを、治療的診断とも、診断的治療ともいう。)

 日を改めて、内視鏡的切除を行った。ちょっとしたテクニックを使って安全にきれいに病変を切除した。術後は穿孔と出血を避けるために2-3日入院してもらった。病理結果の結果、腺腫内には、巣状に癌細胞の集団があったものの、腫瘍は粘膜下に浸潤しておらず、追加の開腹手術は、とりあえず、不要となった。

 

 ある疑問が湧き、「その国立病院では、どんな先生に診てもらいましたか?」と患者さんに尋ねた。「まず、若い先生に診てもらい、大腸検査も痛かったです。そこで、まず、すごく不安になりました。さらに、その後、いろんな先生が出てきて、なんだか、「たらい回し」された感じでした。」とのこと。

 今、一部の公立病院では、熟練した医師が、過剰勤務と相対的に低い給与体系から、燃え尽きてしまっているという「うわさ」だ。何せ、病院に支払われるお金の多寡は、看護師の数や病名で決まるのであって、ポリープの取り方のうまさで決まるのではないのである から。

老人問題の行政危機は、「家族」重視政策で解決を

1)介護事業大手のコムスン、組織的巨大不正請求が行政処分に、事実上の廃止へ。

2)一方では、社会保険庁の年金納付記録の紛失 さらに 1400万件!国民年金も納付記録削除?!

 さて、このような問題がおこる根本には、制度の無理があると思う。老人を誰が世話して、どう生計を立てるのか?この問題は、実は、故橋本龍太郎首相が1990年代に皆に突きつけた質問に由来する。橋本首相は国民に向かって、「老人をみるのは、家族ですか?それとも、国ですか?」と尋ね、「私のかなえは長男の嫁で、長年の親の世話で、大変でした。ですから、国が老人をみます。」と述べた。思うに、これは、戦後政治が究極のスパルタ的志向の体制であったことを物語るものであろう。家族よりも個人を大事とする、一見かっこいい個人主義思想のように見えるが、実際は、個人と政府を直接つないだスパルタ的集団主義に他ならない。個人は政府とのつながりで生きるということなのだ。

 

 歴史に学べば、家族という仕組みを破壊した、集団主義のスパルタの隆盛は一代限り。結局、家族中心主義を貫いたアテネに、ギリシャの覇権は集まるのである。お亡くなりになった橋本首相は、こういった歴史をご存知であったのであろうか?また、中国では戦国時代は法家の思想を取り入れた秦が覇者となり統一を遂げたあと、平和な時代には、家族を重んじる愛を中心とした思想、孔子、孟子の儒家の思想のもとに、漢は平和と繁栄を極めていくのである。第二次世界大戦後の廃墟の中からの復興には、集団主義は有効であったが、核兵器のかさのもと平和の続く現代においては、集団主義こそ時代遅れなのではないだろうか。集団主義がモラルハザードに結びつき、社会が倒れ てしまった姿は、毛沢東の大躍進政策の失敗、ソビエトの崩壊など、現代史にも明らかである。わが日本でも、今まさに、モラルハザードが露見し、問題化してきているのだ。一方、シンガポールのリカンユウは、家族重視の保険政策を成功させた。

 

 家族は、人類を未来へつなぐタイムカプセルだ。家族は、過去から未来へ、時を超えて我々人間をつないでいく大事な仕組みなのである。あまりに本能的な仕組みなので軽視されてしまってるように思う。家族を大事にするという枠組みの中で、老人問題も考えなければならないのではないだろうか。老親、親、子、孫とつながって暮らす仕組みをサポートする政治が、今の日本に必要だと思う。それが、出生率の改善にもつながるだろう。文化の継承にもつながるだろう。老後は子にみてもらうとなれば、子供を大事に育てるだろう。子供の虐待も減るであろう。

 

 人間の夢は一代ではかなわないことも多い。何代もかけてかなうこともある。

 

  家族というシステムの社会における重要さを考慮すると、相続税は廃止すべきだ。世界には相続税のない国が多い。日本も天皇の世紀(大化の改心以後の奈良大和朝廷時代から平安時代初期までと明治維新以後から現代まで)以外は、相続税がなかった。

 また、子供にも選挙権を与えよう。20歳までは親権者が、子供に代わって投票することにすればいい。 そうすれば、必然的に子供を大事にする政策をとる政党に票が集まるだろう。子供を大切にといいながら、事実上子供は政治からはずされているのが現況だ。

 同様に、認知症の老人を大切にと考えているなら、世話をする子供が、老親に代わって投票できるようにしたら、いいと思う。

テレビ朝日出演、「皇太子殿下、十二指腸亜有茎性腺腫で内視鏡手術へ」という宮内庁発表の解説を行う

 今日は、テレビ朝日のお昼の番組ワイドスクランブルに出演して、宮内庁発表を解説してきた。ポイントは亜有茎性とはなにか?腺腫とは何か?病気の原因は?症状は?取り方は?入院日数が1週間と長いのはなぜか?などなどであった。番組の出演メンバーは、大和田獏さんと大下容子アナウンサーが司会者で、山本晋也監督と川村晃司さんがコメンテイター、レポーターは荒木茂彦さんという構成であった。



 午前11時ごろ、テレ朝に担当ディレクターの渡邊崇さんの案内で入棟。ロビーから続く広い廊下に、大売出しのビラのように、朱書きされた、番組名と視聴率のビラが何十枚も張ってある。視聴率競争って、すごいんだ、なんだか予備校みたいと思いながら、控え室へ入る。控え室は8畳程度の広さで、一部が4畳半の青畳となっている。洗面台と鏡があり、オートロックの分厚いドアであった。そこでディレクターと打ち合わせをしてから、化粧コーナーへ。どこかテレビで見たような人たち、アナウンサーや俳優の人たちがいる。隣にいた、テレビでよく見る美人のアナウンサーさんと「おはようございます」と挨拶を交わして、ここは、テレビ局なんだと妙に納得してしまった。


 本番は、生出演。始まる前は、少し緊張して、動悸を感じた。皇室のビデオが流れている間に席につき、off-airの間、山本晋也監督から「ポリープと腺腫はどう違うのか?」とか「内視鏡の名人という基準は何か?」「先生は自分の検査はどうしているの?」とか、あれやこれやと質問攻めにあって、すっかりいつものお医者さん気分になって、ちょっとリラックス。本番では、皆さんの誘導にしたがって、打ち合わせの順ですらすらと話が進んだ。パネルを示しながら、「亜有茎性とは半球状の形です。腺腫は良性ですが、突然、悪性化してしまう可能性があるので切除の必要があります。十二指腸腺腫の原因は年齢と遺伝などです。十二指腸ポリープに症状は特にありません。入院日数が長いところから見ると皇太子殿下の十二指腸腺腫は大きいのでしょう。」と。さらに、山本監督はわざとボケをいい、パネルの説明を求めて、取り方を示すタイミングを与えてくれた。ボールペンで、ここを切るのだと、粘膜下層を指し示した。川村さんから、「切った後は再発がないのか?」と打ち合わせにない質問が飛んだ。一瞬戸惑ったが、「時々あります。」と答えた。東大のあのメンバーなら、切り残し て局所遺残ということはなかろうが、腺腫は多発しやすいので、別の腺腫が新たに発生して、再発ということが十分ありうるのである。



 それにしても、山本晋也監督の巧みな話術と頭の切れには、すっかり感心してしまった。

皇太子殿下は名川教授の下でESD(内視鏡的粘膜下層切開剥離術)による十二指腸ポリープ切除に成功。穿孔と後出血(コウシュッケツ)のリスクは?

皇太子さま、ポリープ切除手術が無事終了(2007年6月6日19時41分  読売新聞)

 皇太子さまの手術を担当した東大病院の名川弘一教授らが6日夕、記者会見し、十二指腸に見つかったポリープの切除について「予定通り順調に進み、成功裏に終わった」と説明した。 名川教授によると、手術は軽い全身麻酔をかけたうえで口から内視鏡を挿入し、先端の電気メスでポリープを切除する「内視鏡的粘膜下層切開剥離(はくり)術(ESD)」で行われた。ポリープは2センチに満たない人さし指の先ほどで、出血もなく、1時間10分で終了した。 麻酔から覚めた皇太子さまは呼びかけに「大丈夫です。もう終わったんですか」と尋ねられ、病室でベッドの周囲を歩かれて痛みもなかったという。 胃酸を抑える薬を投与し、早ければ8日夜からおもゆで食事を再開、1週間ほど経過を見た後、東宮御所でさらに静養される。切除したポリープは念のため病理検査するという。


皇太子さま:ポリープ除去の手術、無事終了
  毎日新聞 2007年6月6日 22時19分 (最終更新時間 6月6日 22時41分)


 東京大医学部付属病院(東京都文京区)で行われていた皇太子さまの十二指腸ポリープを取り除く手術は、6日午前に無事終了した。午後、治療を担当した名川弘一・医学部付属病院教授らが手術の模様を説明した。手術は午前10時10分から始まり、約1時間10分で無事終了した。出血はほとんどなかったという。切除部分は念のために病理検査する。ポリープの大きさは人さし指の第一関節程度だった。流動食の後、数日後に普通の食事ができるようになるという。【真鍋光之】

皇太子さまのポリープ手術成功 (日経新聞2007年6月6日22:00)

 東大病院で6日実施した皇太子さまの十二指腸ポリープ切除について、担当医の名川弘一教授が同日午後に記者会見し「手術は成功した」と発表した。約1週間入院し、経過を見るという。
名川教授によると、手術は午前10時10分から約1時間10分で終了。内視鏡の電気メスで十二指腸にできた人さし指の先端ぐらいの大きさのポリープを切除した。教授が術後、「大丈夫ですか」と声をかけると、皇太子さまは「大丈夫です。もう終わったのですか」と答えられた。病室では雅子さまと会話し、ベッドの周りを歩かれたという。



 
新聞各紙がインターネットで伝えるところを見ると、ポリープは約2cmぐらいだったようだ。ESDなのに出血が少なかった所を見ると、病変び付着部は十二指腸の大わん側にあったのではないかと思われる。術後の遅発穿孔は、確率は1%以下だが、48時間まではありえる。その期間は絶食が必要。それで、8日の夜(術後2日目)に初めておもゆ、ということである。後出血の確率は約5%ぐらいである。後出血の半数ははじめの3日までにおこるが、2週間までは起こりうる。それで、2週間の安静療養なのだ。ともあれ、手術が順調に終わって、ひとまず安心した。皆さん、ご苦労様でした。

皇太子殿下 十二指腸腺腫になる。 十二指腸ポリープの内視鏡的治療のポイント

皇太子さま、6日にポリープ切除手術 2007年5月31日19時53分  読売新聞)

 宮内庁は31日、十二指腸にポリープが見つかった皇太子さまが6月5日に東大病院に入院、翌6日に内視鏡を使った切除手術を受けられる、と発表した。手術後も約2週間の入院と静養が必要という。記者会見した金沢一郎・皇室医務主管によると、皇太子さまは3月24日の定期健康診断でポリープが一つ見つかり、5月12日には内視鏡で組織片を採取、顕微鏡で検査したところ、ポリープは良性と診断された。十二指腸のポリープ切除手術は胃などと違って切除部位が傷付きやすく、皇太子さまのポリープは非常に珍しい場所にあるという。金沢医務主管は「万全を期すため、東大病院で手術することにした」と述べた。手術後は同病院で約1週間の入院、退院後もお住まいの東宮御所で約1週間の静養が必要という。

皇太子さま、6月6日に東大病院でポリープ切除 (2007年5月31日23:00 日経新聞)

 宮内庁は31日、皇太子さまの十二指腸ポリープの切除を、6月6日に東京大学医学部付属病院で行うと発表した。内視鏡を使った切除術で、開腹はしない。5日から約1週間入院し、退院後も東宮御所で少なくとも1週間静養される。同庁によると、ポリープは「亜有茎性良性腺腫」で、大きなものではないという。ただ十二指腸のポリープは症例が少ないため、万全を期して東大病院で専門医らが切除する。皇太子さまは3月24日に宮内庁病院で健康診断を受けられた際に十二指腸ポリープが見つかり、5月12日に同病院で組織片を採取して詳しく調べていた。

皇太子さま、6日にポリープ切除=東大付属病院で-術後1週間入院・宮内庁  5月31日18時0分配信 時事通信

 宮内庁は31日、皇太子さまの十二指腸に見つかったポリープについて、6月5日に東大医学部付属病院(東京都文京区)に入院され、6日に内視鏡で切除すると発表した。皇太子さまは、3月24日の定期健診で十二指腸にポリープが見つかり、5月12日に宮内庁病院で内視鏡で検査を行った。その結果、ポリープは亜有茎性良性腺腫と確認された。十二指腸のポリープは1万人に2、3人程度の珍しいものであるため、万全を期すため設備や人員が整った東大医学部付属病院で切除し、術後の経過も慎重に診る必要があるという。切除後1週間前後入院し、退院後も少なくとも1週間はお住まいの東宮御所で静養する。

東大病院は万全の体制で内視鏡手術へ

 マスコミ各社が、5月31日、一斉に報じたところによると、皇太子殿下の十二指腸ポリープは、亜有茎性の良性腺腫で、発生部位は腺腫としては非常に珍しい場所とのことである。そして、6月6日に東大病院で切除されることになった。東大病院で行うのは術中の穿孔や大出血に備えてのことである。術後2週間の安静を予定したのは、後出血を危惧しているためである。私は十二指腸も含めて、各種ポリープを山のように取ってきたが、穿孔という偶発症は、万が一といったレベルだが、やはり、一定の率でおきてしまう。病変が大きくなると、穿孔や大出血という偶発症の危険率も上がる。偶発症発生のときは、開腹してでも助けようということなのだ。ちなみに、「十二指腸ポリープは1万人に2-3人」という時事通信の報道には、疑問がある。十二指腸ポリープは、2-3人に一人にはあるありふれた病変である。おそらく、今回の皇太子の十二指腸ポリープ、つまり、亜有茎性の腺腫に限ってのコメントを、解釈し間違えたものと考えられる。

 さて、一般に、十二指腸というのは、結構特殊なところである。管腔がせまく、空気の入れ方によっても、スコープの動かし方にかなり制限を受ける。また、十二指腸壁は、1mmの薄さの大腸よりもさらに薄い。特に、膵臓で裏打ちされていないところの、内視鏡的処置は穿孔しないように細心の注意が必要だ。筋層と病変の間に液体を注入して、穿孔のリスクを減らすEMR法を採用するのも一法だろう。十二指腸では、キャップ法やITナイフは穿孔例の報告が多いので、お勧めできない。スネアで切断するとき、通電して妙に硬い感じがしたら、筋層をつかんでいる可能性が高いので、スネアの握りなおしが必要だ。スネアは腰の強すぎるのは避けたほうがよい。病変が大きかったり、特殊な形をしていてスネアがうまくかからないときは、無理に一括切除しようとするより、分割切除のほうが穿孔のリスクは低い。また、十二指腸ポリープは切除後に病変が奥へ落ちていくと予想されるので、病理標本を確実に得るためには、2チャンネルスコープを用いて、ダブルスネア法でやるのがいいだろう。

がん対策の政府案・厚生労働省案がまとまる。しかし、これでは癌死亡が減らないのは明白。真理に目をそむけず、学問の進歩を学んで、効果的な政策を取ってほしい

本日、以下のような報道が流れた。

<がん対策>10年内に死亡率20%減少へ 推進協が計画案  5月30日22時17分配信 毎日新聞

政府のがん対策推進協議会(会長、垣添忠生・日本対がん協会長)は30日、がん対策基本法に基づく「がん対策推進基本計画」案をまとめた。がんによる死亡率(75歳未満)を10年以内に20%減少させ、患者・家族の苦痛軽減と療養生活の質を向上させることを全体目標に掲げた。計画は6月中に閣議決定される見通しで、患者の声を大幅に取り入れた初のがん対策が動き出す。がんは81年から日本人の死因第1位で、現在も年間30万人以上が死亡している。政府は84年度以降、3次にわたる「対がん10カ年総合戦略」を進めているが、今回の基本計画は、法律に基づく初の計画。策定には患者代表4人が参加した。計画は重点課題として、放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)の充実▽痛みを軽減する緩和ケアの推進▽患者の予後などを調査する「がん登録」の整備――を提示。実現するための対策も提言している。一方、協議会がいったんは合意した「喫煙率半減」の目標は盛り込まれなかった。計画に付帯される委員の意見集に「数値目標として掲げることが望ましい」と記載するにとどまった。【須田桃子】

 <がん対策推進基本計画の骨子>

 ■全体目標
▽10年以内に死亡率の20%減少
▽患者・家族の苦痛の軽減と療養生活の質の向上

 ■重点課題と主な目標
▽放射線療法や化学療法の推進=5年以内に全拠点病院で実施体制を整備
▽治療の初期段階からの緩和ケアの実施=10年以内に、がん治療に携わる全医師が緩和ケアの基本知識を習得
▽がん登録の推進=5年以内に全拠点病院の担当者が研修を受講

 ■その他の主な施策と個別目標
▽在宅医療を選択できる患者数の増加
▽3年以内に全2次医療圏で相談支援センターを整備
▽5年以内に乳がんや大腸がんなどの検診受診率を50%以上にアップ

 結論から言うと、これではだめである。敗戦濃厚だ。

 重点課題として、1)放射線療法や化学療法の推進がうたわれているが、現時点の化学療法・放射線療法は、生存期間は延長するが、5年生存率は改善しないというのが定説。したがって、この方法では死亡率は減らない。内部矛盾している案だ。2)また、緩和ケアというのは、そんなに難しいものでなく、患者に愛情を持っていれば習得は簡単。薬も昔に比べて随分よくなっている。むしろ、医師が患者に愛情をもてるような環境を作れるかどうかが問題。いまや、医師の労働環境は劣悪化している。3)癌登録は悪くはないが、だからといって、集団で同じことをしていると、現況は打破できまい。いろんなことを試すものがいたほうが、ブレイクスルーは生まれやすい。進行癌や転移がんに対する治療は、以前に比べれば進歩しているが、大局的には手詰まり状態が続いている。4)むしろ、分子病理学の進展・応用による新薬の開発・促進が急務であろう。5)現況で、癌の数を減らすには、癌の原因を除去するのがもっとも効果的である。たばこ、ピロリ菌、肝炎ウィルス、アルコール、パピローマウィルス。分かっているのになぜやらないのか?やろうとしないのか?


 私が会長であれば、次のような政策を掲げるであろう。


●たばこの販売禁止。

●国民全員に対するピロリ菌の検査と陽性者の除菌。

●国民全体に対する肝炎ウィルス、パピローマウィルスの検査と治療、ハイリスク者に対する濃厚検診。(一方ではローリスク者の検診免除)。 

●胃癌、食道癌、乳癌、大腸癌などは、検診を社会保険加入の要件として、検診の受診率を上げる。

東京 1)松岡農林水産大臣 自殺 2)社会保険庁:年金納付記録紛失 5095万件!

 5月28日米国から帰国したら、衝撃的な事件が2つ起こっていた。ひとつは、松岡農林水産大臣自殺。緑資源機構の官製談合事件の追及を逃れるための自殺であったのは誰の目にも明らかである。またひとつは、社会保険庁の年金納付記録紛失5095万件、すごい数字だ。社会保険庁も相当おかしい。解体が決まり、職員のモラル低下は目を覆うばかりの惨状である。


 1990年代初頭に始まったIT革命と、東西冷戦消失による世界貿易の活性化により、いまや、国はその体制を競い合う時代に突入している。資本、人材、情報が国境を越えてダイナミックに動いている。明日の発展が期待できない国には、資本や人材が集まらず、衰退している。明日の期待される国には資本も人も集まってますます繁栄している。高い公的強制納付金(税金や健康保険、年金)と低い行政サービス、不正の横行する非効率な政府があるわが国からは、今後、さらに資本や人材が国外に流出していき、このままでは、衰退の一途をたどることになるのは明白だ。衰退とは、他の国では治せる病気を、日本では治せないということだ。例えば、慢性胃炎のピロリ菌退治のように。


 不正を正し、無駄をなくし、効率的で機能的な政府を作るという政策こそが、わが日本国が滅びないための急務の課題であろう。


●不正を正すため、予算執行におけるお金の流れを、すべて、ガラス張りにする必要がある。予算執行はすべて電子マネーを使い、誰がいつ誰に対していくら、どういう名目で、予算を動かしたか、インターネットに公表すべきだ。

●また、行政サービスの効率化と機能化のために、米国のようなソーシャルセキュリティカードのような、個人を特定できるカードを作り、それを行政サービスの基本とする必要がある。


 しかし、よく考えてみると、


●一番大事なのは、政治家や官僚からシロアリ精神を排除することだ。戦後、先輩たちが苦労の末に築きあげた建物を、えさとして、むさぼるのは止めてほしい。

ワシントン  2004年現大統領ジョージWブッシュ建立 第二次世界大戦石碑、ミッドウェイ海戦 危機を乗り切った米国の信念と技術と勇気

 5月19日から5月24日までワシントンで米国消化器病週間(DDW)が開催された。5月のワシントンは、気持ちのよい青空であった。リンカーン記念館から見る独立記念塔は、北国特有の5月の北西から強い夕日を浴びて輝き、天を突き刺し立っていた。今回のワシントンは、33年ぶりの訪問であった。以前は、ホワイトハウスの執務室まで見学できたのだが、今回は、ホワイトハウスをはるか遠く500mぐらいのところからしか見ることができず、残念であった。2001年の9/11世界貿易センター事件以来の、タリバンやイラクをはじめとするイスラムとの戦いが、ホワイトハウスを開放できない最大の理由であろう。昨年秋、モスクワのクレムリンには、数十メートルまで近づけたのだが・・・・・。ただし、その代わりに、スミソニアン航空博物館が面白かった。アポロ計画による月探査や、各種のロケットの展示に迫力があった。


 ところで、観光して驚いたことがあった。独立記念塔の脇に、現在大統領をしている、ジョージWブッシュが第二次世界大戦記念のモニュメントを建立していた。その中に、第二次世界大戦で米国と日本の勝敗の分岐点となったミッドウェイ海戦の一文があった。米国は、開戦前、負ける可能性が高いと考えていたようなのだ。その危機感の高揚と迅速性が、レーダーをはじめとする技術の優位と、空母をたたくという優秀な作戦をもたらしたらしいのだ。逆に言うと、日本軍の慢心と技術開発の遅れ、発想の貧困がこの海戦の敗因だったらしいのである。なんだか、今の日本の官僚や政治家たちと同じだなと感じた。残念で恐い話である。危機に瀕しての対応は米国に学ぶべきだ。医療でもそうだが、戦いは 技術と信念とタイミングを逃さない勇敢さが大事なのだ。真実や真理、科学技術の進歩に背を向けて、自らの利益を追求し続ければ、黒船に叩かれて、崩壊するしかあるまい。

BATTLE OF MIDWAY  JUNE 4-7, 1942

They had no right to win, yet they did, and in doing so they changed the course of a war.

Even against the greatest of odds, there is something in the human spirit - a magic blend of skill, faith and valor - that can lift men from certain defeat to incredible victory

ワシントンDDW(米国消化器病週間)報告 NOTES誕生

 さて、今回のワシントンDDW米国消化器病週間の目玉はなんと言っても、「NOTES」であろう。Natural Orifice Transluminal Endoscopic Surgery 略して NOTES。1999年、私が、破れた消化管をクリップで縫合した十数例をオーランドDDW米国消化器病週間で初めて発表した。そして、内視鏡でも破れた消化管を縫合できるという概念が生まれた。これが基礎になり、EMRがさらに進化して、より攻撃的なESDの技術が進歩した。その一方で、内視鏡で破れた消化管を縫合する技術の開発が進み、今度は逆に、消化管を破って何かできないかという、発想が生まれてきた。胃を切り開いて、内視鏡を腹腔内に進め、経胃的に腹腔鏡を行う、豚を材料にした動物実験が進められた。2年前のシカゴのDDWで、経胃的腹腔鏡を行い、虫垂を切除した人体での世界初の一例が(インドで実施)ビデオで、発表された。そのときは、口から出てくる虫垂を見て、大変驚いた。凄いことをするものだなと。


 そして、今回、胃経由だけでなく、大腸や膣経由の腹腔鏡も含めて、これらの腹腔鏡による手術に、新たな命名がされた。それが、「NOTES」である。今回は、人で行われた、経大腸的、大腸右半切手術や、豚に対する経大腸的左腎臓摘出術や、豚に対する経胃的膵尾部切除術などなどのすごいビデオが発表されていた。まだまだ、実験的なこのNOTESが今後どう育っていくのか、注目される。米国は、ESDを飛び越えて、NOTESへと進んでいる。

 

第73回日本消化器内視鏡学会総会報告   カプセル内視鏡・経鼻内視鏡・ダブルバルーン式小腸内視鏡・拡大内視鏡・特殊光内視鏡・超拡大内視鏡・レーザー共焦点式内視鏡

 5月9日から11日まで、新緑薫る、東京のグランドプリンスホテル新高輪と国際館パミールで、東邦大学医学部消化器内科教授 三木一正先生会長のもと、第73回日本消化器内視鏡学会総会が開催された。いろいろと勉強になったが、個人的には、特別講演2の愛知癌センター腫瘍病理部長、立松正衞先生の話が面白かった。ピロリ菌には梅エキスの中のリグナンという成分がよく効くと発表していた。実験室レベルでのデータだったが、臨床的にはどうなのだろうか、引き続きの研究発表が期待される。また、系統発生のはなしで、鳥には大腸がないとか、胃の酸と消化酵素が別々の細胞から分泌されるのは、脊椎動物の中でも哺乳類だけ?!だとか、大腸腺管は腺管ごとにmonoclonalだとか・・・結構面白い話を教えてもらった。話題の主体は、胃の腸上皮化成のはなしで、sox2,cdx1,cdx2やmuc5ac,muc2+mac5ac,muc2・・・といったものとの胃癌発生母地である腸上皮化成の絡みや、胃癌は幹細胞レベルからではなく、もう一歩進んだ前駆細胞レベルででてくるとかといったことであったが、脇のほうが面白かった。


 経鼻内視鏡・拡大内視鏡・特殊光内視鏡・超拡大内視鏡・レーザー共焦点式内視鏡など
各種の内視鏡がこの10年ほどの間に、開発され臨床応用されている。これらのスコープ開発の方向性は大きく3つあり、より簡単に、楽に検査をおこなうという第一の方向性と、より正確により精密にという第二の方向性と、見えなかったもところ(小腸)をなくすという第3の方向性である。第一の代表が経鼻内視鏡・カプセル内視鏡である。第二の方向性が拡大内視鏡・特殊光内視鏡・超拡大内視鏡・レーザー共焦点式内視鏡である。第3の方向性がカプセル内視鏡・ダブルバルーン式小腸内視鏡だ。それぞれの方向に、臨床的な経験やアイデアが積み重なって、発展していく経過を見るのは、楽しいことだ。オリンパスからモノバルーン式小腸内視鏡が新たに発売されていた。内視鏡の分野はすべて、わが社でやるぞ!というオリンパス社の気概を感じた。

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